明治大正時代の月斗句 4

 

青木月斗 明治時代の句抄

 

 明治四十二年四月より同四十四年六月までの、『東京日日』『国民』『東京毎日』『大阪朝日』『大阪毎日』『大阪新報』『大阪時事』『京都日出』等の各新聞及『太陽』『日本及日本人』『ホトヽギス』『寶舟』『懸葵』『アラレ』『層雲』『中央公論』その他の諸雑誌よりの数十万句より、今井柏浦が選抜収録したものの中から抄出した。

ここには、当時の碧梧桐らのいわゆる新傾向の句の調子が窺えると思う。これはごく短期間であった。なお、碧梧桐は月斗の義弟に当たる。(島春)

 

 

 

 

今井柏浦・編『最近新二萬句集』(昭七、大文館書店)より抄出。これは、『最近新二萬句』(明四四、博文館)の再刊と思われる。

 

人の来ず絵を描いて長閑なる一日

麗や華籠置きある経机

町を野へ出れば乾坤朧かな

壁に耳あるは朧夜の事にして

大阪の土産昆布の名に朧

湖面より続く石壇や雪解水

船と帯とつなぐ曳船春の海

天馬空を駈りて海市崩れけり

蜃気楼消ゆると見れば日蝕す

里人蓬莱島と云ふや蜃気楼

銭亀と酢貝売る店春の水

凧上げて遊びし人の艶話かな

海苔乾く時づもり凧の近鳴る日

二三見てよめば無数や凧

本降りになりて小降を囀りぬ

鳥帰る頃兄弟のはしか病む

横波に傾く帆船帰る雁

天龍寺兵火のあとを飛ぶ燕

松の藤田に散るを雉子夕鳴きす

蝶夕灯の入りし葬ひの来る

蜜蜂の箱十許り飛ぶ胡蝶

群るる蝶開校記念日の花火

鵞の浮ける池丘の木瓜のちる雨に

つなぎ捨てて驢馬の眠れり木瓜の花

秋の如く碧く澄む空寺木の芽

木の芽匂ふ山邊近くに牛の来る

草萌の野望の頃となりにけり

花園

温床怒々として王蜂の飛ぶ

 孤城新婚

君が為めにこの春宵の千金を

 博物館

鯨骨を見て海思ふ人麗ら

起々の目に日々青む田遠近

五里泳ぐ十里泳ぐの話哉

芋洗ふ如き泳ぎ子曲り瀬に

背泳ぎや一天碧く澄み渡る

立ち泳ぎ西瓜の皮のあたりけり

妻が産むと夜振を呼びに来たり鳧

川狩や闇中猫の眼の光る

十時の列車過ぐ夜振帰去来

青鷺や大雨となりし池の中

コスモスの動かぬ闇の夜長哉

御料林北に鬱たり銀河

濡れ鷺を燈籠の名に銀河

女郎花一かたまりの花野かな

塚のありか百姓知らず雁渡る

鵞を放つ池亭少しく菊もあり

菊の影二尺の朝日人を待つ

稲不作悲めと菊の白き咲く

蝋燭の暈の夜長の御講哉

報恩講句佛上人句ありけり

淡路なる叔母も来合す御講哉

大根の里に社宅の一区劃

 

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