明治大正時代の月斗句 14

 

月斗 大正時代の句抄

 

 青木月斗の大正時代の句をカバーすべく、遡って採録してみた。大正十四年一月より昭和二年七月までの、ホトトギス、同人、枯野、雲母、鹿笛、鹿火屋、芭蕉、京鹿子、うづら、早春、寒菊、その他の俳句雑誌、新聞俳句欄より、今井柏浦が収録したものから抄出した。(島春)

 

 

 

今井柏浦・編『昭和一萬句』より抄出。

 

桜人女に凭れる酔歩哉

白桃に冷たき雨のつづきけり

溪あひや郁李こぼるる水車小屋

憂はしく女の立てる柳かな

 不二子夫人より娘へ春の帯を送られたり

春の帯眼も覚むる花紅葉

夏の夜や庭池に星の影動く

短夜の燈に輝きぬ勝角力

短夜や池に点々蓮浮葉

 大洗

濤音に歌縹渺と明易き

燈の下に刀を見てゐる涼夜かな

柿の葉のてらてら光る薄暑哉

遠浅の海の薄暑や貝拾ひ

夜も昼も蛙の声や梅雨の宿

から梅雨に焦げ破れたる木槿かな

眼前に夜の島山や夏の星

梅天の晴れ喜びつ燕

 醍醐三寳院

金堂の薬師の像や五月闇

梟の巣覗く裏山五月晴

屋根の上の葵の鉢や五月晴

喜びの色に草木や梅雨の晴

雀鴉がぬるる卯の花下し哉

夕立にうなづき合ふや山牛蒡

学校の唱歌聞えぬ夕立晴

 飯塚にて

寺の松筍梅雨の雲たれぬ

つむじ風忽ち雹の一狂ひ

滴りは葛の裏葉をうちにけり

滴りの喬木林に入りにけり

梅雨穴や藪の稲荷の小広前

梅雨穴に嚏る狐見たりけり

汐騒や遠き夜焚を闇深し

年少の顔輝かし更衣

鉄線花松に垂れけり青簾

 

青簾かかげて裏の翠微かな

先代が拭き光らせし油団哉

箪主人此頃篆刻す

長崎より家祖求め来し磁枕哉

方丈は桐の茂りに午睡かな

水打てば修竹涼を呼ばふなり

屋根涼み白木三越目捷に

屋根涼み月色ほのと雲間より

夕端居食後の苺甘かつし

川明り全く暮れし端居かな

泉殿料紙を風にとばしけり

八王子繭煮る小家覗かれし

苗売や卯月曇の朝の町

苗売に買ひし糸瓜は瓢かな

源八の渡し暮れけり蚊食鳥

子規菜種の油しぼる空

この谷や二三匹ゐる子規

老鶯や山はあせびの花盛

懶さに馴れてひとりや通し鴨

通し鴨雷晴れし濠の水

鉤うって三尺の鱧見せにけり

雨乾く杉皮塀や羽蟻立つ

 目黒の西郷邸にて(二句)

泉声に和して涼味や蝉時雨

泰山木の白きを星と暮るる庭

もちの樹の幹光らせつ蛞蝓

雲丹動く磯きんちゃくも動く哉

睡蓮や人を見て鳴く鵞のいくつ

麻刈るや遠雷に日の曇

蜻蛉のむれ飛ぶ麻の茂り哉

図絵にある昔のままや菖蒲園

青芒馬泳がせて帰る也

 山堂が家にて黄庭堅の書幅を見る

黴の課唐人の書の古き軸

緑陰の庭に鴉をつなぎけり

緑陰や網の中なる梟の眼

 

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