明治大正時代の月斗句 15

 

青木月斗 大正時代の句抄

 

 青木月斗の大正時代の句をカバーすべく、遡って採録してみた。大正十四年一月より昭和二年七月までの、ホトトギス、同人、枯野、雲母、鹿笛、鹿火屋、芭蕉、京鹿子、うづら、早春、寒菊、その他の俳句雑誌、新聞俳句欄より、今井柏浦が収録したものから抄出した。(島春)

 

 

 

 

今井柏浦・編『昭和一萬句』より抄出。

 

銅鑼打て訪ふ玄関や木下闇

山中に狐の穴や松落葉

咲きつぎてこぼるる白さねずみもち

葉桜となりし社の植木市

葉桜の夕日の丘となりにけり

葉桜や戸を開けてある御輿堂

日時計や花壇の薔薇紅に

巴旦杏庭の茂りに蝕ばみつ

紫陽花に積陰雨となりにけり

椎の花金の砂子と降りこぼれ

文楽の隣影絵の夜長かな

 宇都宮のほとりにて

干瓢を乾して秋立つ小家かな

新涼の雨や秋芽の垣いばら

新涼や蝉の声降る妙喜庵

畑もののみな抜かれたる夜寒哉

行く秋や山の芒に昼の虫

月の出の曇りに寒し山の上

松山に稲妻薄し今日の月

山で酌む酒の薄さよ今日の月

谷風に蟲絶え絶えや今日の月

ぞろぞろと山行く人や秋日和

秋光の漁者秋色の樵者かな

秋光や蜻蛉群がる風の天

水村の児は秋光に裸哉

幽谷の思ひに在れば秋の声

横雲にうつらふ朝日露時雨

露霜や京菜畑の浅緑

海はそこに巨船浮べつ秋霞

橋欄に凭て稲妻待ちにけり

稲妻のしきりに騒ぐ夜沈々

山澄んでありあり皺の見ゆる哉

葛の葉の枯れ色淋し秋の山

裏川や木の葉浮べて水澄みぬ

誰が笛ぞ水を渡りて澄みまさる

川口や鯔飛ぶ見ゆる葉月汐

籾殻の山崩れある刈田かな

朝たちに露の鳴子を鳴らしけり

障子しめて灯下親しき硯哉

灯下親し木犀匂ひ送り来る

荷の中で夜食のうどん啜りけり

栗飯に再びかへぬ茗荷汁

栗飯にあつき茶かけて満喫す

栗飯を夜食気分に味ひぬ

天正の戦話を聞きつ太閤忌

天空に胡麻飛ばしけり渡り鳥

滝の流れ日々涸れ見せつ石叩

滝壺に尾を振る見ゆる石叩

せきれいの飛び交ふ雨の刈田哉

紅葉鮒游ぐ見えけり淵澄んで

蟲の闇鈴虫鳴くと佇みぬ

蟲夜々に衰へて行く風寒み

蜩や雨を含みて蒸す夕

蜩や暮雲が迫る森の上

はたはたは臥牛の頭かすめけり

磧草ほの紅ゐに末枯れつ

末枯の堤に光る芒かな

百花園の萩に遅れて来りけり

炎々と焔あげたり葉鶏頭

園中の色を奪ひつ葉鶏頭

 金滝寺(六句)

冬ざれて塵気とどめず山の寺

襖開けて仏をのぞく寒さ哉

開山の木像笑ふ霜の声

和尚遠く水汲みに行く山落葉

鐘楼の辺りの桜冬木かな

蝋燭で書を読む僧が衾かな

 桜の宮祈願

黙祷の眼開けば月の冴え

寒の月我家の上に冴えにけり

大寒や紺屋の汁の凍る溝

川舟にかたき枕や小夜時雨

時雨るるや障子着せたる小鳥籠

時雨るるや磧の晒布月が洩る

酒の気のまたくさめたり霜の鐘

大正天皇の大みゆきを拝し奉る

雪踏んで東の闇ををろがみぬ

 亮陰(二句)

雲垂れて月も曇れり雪の上

薄雪の天地声なく明けにけり

冬山や誰が住む塀の梅嫌

冬山や旅人をおどす夕鴉

我が立つ朝の堤の凍てにけり

柴漬の見えゐる池の初氷

 紀淡海峡にて

獏の札も敷かず一睡波枕

手炉下ろせば猫が上りぬ膝の上

山は冷えると火燵を入れてくれに鳧

寝るときに火燵をぬいて貰ひけり

侮ってかかりし酔や玉子酒

夜神楽や手古奈と見ゆる里乙女

鴨池の獲物や猫の掠め去る

鴨池や鴨の礫の三千羽

鴨池や五位鳴きつるる夜半の声

北風に蒔き餌落し餌鴨小鴨

枯萩を折って鶏飯たきにけり

香台に唐水仙をのせにけり

石燈と共に古りたる冬木哉

鹿の鼻寒し夕のちり紅葉

霜枯に村童凧を飛ばしけり

霜枯に櫨一尺の紅葉かな

裏畑や霜枯紅き草の茎

青木の実霜に色付く山路かな

枇杷の花座主が帰山の掃きさうじ

歳旦や子規居士の画を床上に

大海の初日あかあか潮曇

文楽は忠臣蔵や初芝居

凧二三見れば無数や村の空

 祇園の紅雨女史が許に一夜遊びて

屠蘇の酔金短冊に覚束な

柑橘の畑よりたちぬ初雀

 道ひろ一果が妹をめとるに

咲き合へる鈴菜鈴代美しき

 

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