明治大正時代の月斗句 8

 

青木月斗 大正時代の句抄

 

 大正六年七月より大正十年十二月までの、『ホトヽギス』を中心とし『同人』『祇園』『太陽』その他の諸雑誌、『国民』『東京日日』『大阪毎日』『大阪朝日』等の各新聞よりの数万句より、今井柏浦が1万余区を選び収録したものから抄出した。

なお、月斗主宰『カラタチ』は大正八年終刊、翌九年四月『同人』創刊。(島春)

 

 

 

 

今井柏浦・編『大正新俳句』(大十一、博文館)より抄出。

 

初空や大淀川の水の色

家の前の枯芝を野と初明り

冨士ケ根をうるませ行くや初霞

初凪や見る見るかはる暁ケの色

江戸の春毛槍の上の富士の山

三ケ日酔中のホ句六七首

棚の上に香を利く具や松の内

山の湯に萬歳見たり松の内

羽子ついて湯女が遊べり松の内

初夢の願ひも持たず朝寝かな

大長寺の小門くぐりぬ猿廻し

楪の紅ほのめきつ雪の中

山陰の氷にあたる春日かな

朝山や初虹かかる二タ所

此庭や常磐木ばかり風光る

朧夜に芽をそろへたる卯木かな

女はすぐに恨を云ひて朧かな

春の星輝き映る水闊し

大風が野を巻く中や春の星

椎茸をつくる溪間も東風の吹く

春雨や若き心に明るき燈

雪一日如月の野を埋めけり

氷解くる音の幽かや巣鳥鳴く

残る雪幌の中より町を見る

藪蔭に残雪白き月夜かな

東海道の松並木春の海光る

春水に落日寒き館かな

ぬるむ水菖蒲の床に上りけり

かげろふにふくるる日々の春田哉

春山に寝て蒼穹を眺めけり

庭師連れて石見に入るや春の山

早き春日々に驚く野の色よ

風暗く冴え返る中の三日の月

冴返る鴎に交り鴨も飛ぶ

丹前の上に羽織りて春寒し

春寒し林泉風にからびたる

春暁の小さき地震を現かな

春暁を起きて雀に吹矢かな

春暁の夢うち守る灯かな

遅き日や薄月見ゆる森の上

馬責める馬場の一人に遅日かな

初午や伏見外れの麦畑

初午や陶の土を掘り帰る

雛の日や障子開くれば青き山

白酒と蜜柑とあまき雛かな

南山を見る窓の日ざし二日灸

出代や浮世の波も四十過

石鹸玉火の見に上り吹きにけり

二の替はてて鴨川千鳥かな

二の替似顔に残る菊の丞

春愁の身を凭せにけり半仙戯

春愁の面を撫づる柳かな

艸離々と春の愁を誘ひけり

春の燈を響かしてうつ鼓かな

春の燈に輝く面伏せにけり

畑打に校長声をかけにけり

猫の恋梅柳より早きかな

通ひ路の雪解によごれ猫の妻

白魚の曇る思ひや人の息

山影を夜に日に崩す小鮎かな

雲雀野や雨が霽れたる日の光り

田の曇り朝から帰雁啼きにけり

鶺鴒と遊ぶ時あり雀の子

囀に白き障子の曇り来て

藪の鳥水飲んで雲に入りにけり

温室を開けて置く日や鳥帰る

沖の島へ蝶々渡る日和かな

蝶消えて草に大雨の来りけり

地蟲穴を出づ濤声明らかに

春旱田螺は泥に乾きけり

 

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