明治大正時代の月斗句 9

 

青木月斗 大正時代の句抄

 

 大正六年七月より大正十年十二月までの、『ホトヽギス』を中心とし『同人』『祇園』『太陽』その他の諸雑誌、『国民』『東京日日』『大阪毎日』『大阪朝日』等の各新聞より、今井柏浦が収録したものから抄出した。

なお、月斗主宰『カラタチ』は大正八年終刊、翌九年四月『同人』創刊。

 

 

 

 

今井柏浦・編『大正新俳句』より抄出。

 

薬師寺の仏慈眼に梅寒し

暁の凍に見上げつ梅白し

枯芝にたまる霰や梅寒し

よごれたる庭木芽吹いて日に青し

山坊の早起よからめ木の芽時

蘖や日高く起きて漱ぐ

蘖や風樹の屋根に霜白し

及第の帰省に草の芳はしき

このあたり焼かれし草の若葉かな

風が募って曇る入日や豆の花

雨上り風物夏や豆の花

 弔露石子

美しき生涯なりし春の露

 鮫洲川崎屋にて

浪除けの粗朶に刻々春の潮

 島原渡海

海上や霞の入日銀の如し

山の上に小さき城や夕虹す

後素先生の霊在天の雲の峰

葉隠れの胡瓜一寸に露凉し

露凉し芥子は一重に震ひゐる

遊船や瀬戸内海の土用波

植田見て明るき雨に寒うゐつ

植ゑし田に霖雨の霽間鳴く蛙

吊したる傘匂ふ土用かな

きりぎりす土用日盛り売りに来る

土用萩白き花持ち夜の風

半夏雨のたがはず降て濁り川

病はやると半夏の果物戒めぬ

洛の煙を真北にのぞみ山暑し

山辺黒く降って居るなり夏の朝

夏の夜や膳の上なる白豆腐

山寺や障子の中の夜の秋

麻布団そと掛け行くに我覚めつ

麻布団夜東風涼しくあけて寝る

橋の往来が遠くに見ゆる端居かな

蚊が居らぬ今がよろしき端居かな

遊船の高きへさきや虹かかる

遊船の岐阜提灯に火取虫

雨になりしが遊船花火あげにけり

川床を凉しからめと人の見つ

川床や星の光りに私言

鵜飼見の戻り暗しや秋の風

炎々と鵜篝燃えぬ鵜の猛り

鵜飼見や水の浪花の夏祭

金華山は闇を深うす鵜川かな

鵜篝が見えて遊船皆動く

夕月に嘴鳴らしけり烏の子

牡丹のたはみそめたる夜色かな

牡丹畑月光頓に夏に成る

牡丹の一片づつに神遊ぶ

蕗の葉に包むで牡丹くれにけり

百合咲いて峠に立つや奈良眼下

滝の音が近づく下り百合数多

青芒日暮細かき雨の色

百蟲を裹み夏草戦ぎけり

夏草の火風に走る獣かな

筍を煮つつ女の嫉妬かな

 大和長谷寺にて

牡丹曇谷は青葉に埋まりし

廊下牡丹崩るる盛り人出かな

 東海寺に牡丹を見る

満園の牡丹霖雨に崩れけり

雨後の庭蒸々として散り牡丹

 皇太子御成年に及ばせ給ふ

桐の花に燦然と朝日昇りけり

暗中に何か崩るる野分かな

吾亦紅嫋々として秋の風

八手椿皆乾きゐる秋の風

月今宵酒がさめ来し嚏かな

はろばろと来しに無月や海の音

十六夜や上海よりの墨と紙

 

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