明治大正時代の月斗句 10

 

青木月斗 大正時代の句抄

 

 大正六年七月より大正十年十二月までの、『ホトヽギス』を中心とし『同人』『祇園』『太陽』その他の諸雑誌、『国民』『東京日日』『大阪毎日』『大阪朝日』等の各新聞より、今井柏浦が収録したものから抄出した。

なお、月斗主幹『カラタチ』は大正八年終刊、翌九年四月、生涯にわたっての主宰であった『同人』が創刊された。

 

 

 

今井柏浦・編『大正新俳句』より抄出。

 

霧の海を真紅に染めて日の出かな

雲烟を朝暮の眺め秋の山

刈田踏むで石人を見に上りけり

鴉追ふ犬狂はしき刈田哉

秋夕燈りて心賑やかに

暫く話せば故人舊の如し夜寒の座

蜻蛉釣が取囲みゐる小池かな

霧の香や今宵夜学の窓を圧す

村の夜を深うしてゆく砧かな

新人は古き思ひに子規忌かな

太祇忌や委曲を尽す人事の句

百舌の叫び彌天を高うせり

坊が妻鶉に蚊帳を吊りにけり

蟲の縁襷にしぶく夜の雨

水壷の水汲むや蟲鳴き止めり

火山晴れし野を領し飛ぶ蟷螂哉

蟷螂を怖ぢつ殺せし濃き瞳

こほろぎが髭動かすや道也釜

風吹けば萩に沈みぬ秋の蝶

秋の蝶ある夜の風に死ぬるかな

涼風の立つより木槿白きかな

末枯にほのめく蓼の流れかな

艸籠の目より見ゆるや吾亦紅

朝顔に米価を呪ふ人妻よ

曼珠沙華乾ける色に曇りかな

鳳仙花に大風の夜の薄明り

後庭や鴉の下りる菊の荒れ

日の温さ離れず蜂や菊の上

此処ら白穂が多しと稲田見て過ぎぬ

稲田遠近鳴子をつりて容成る

飛び落て焚火にはぜる木の実かな

襖白し庭上の柿に雨夕日

此頃や食後の柿のいち甘き

朝餐やパン二片れと無花果と

山風が動かす藪の烏瓜

 黄檗

亜字欄の濡れて雫す秋時雨

 ただ一人の叔母余を待ちこがれて逝く(淡路にて)

秋風に白髪の頭拝みけり

月のせて冬雲西へ走るかな

冬の月枯コスモスに尿する

水尾引いて鴨立つ池の時雨かな

西山は紅を流せる時雨かな

杉苔に霰がたまる解けずあれ月のせて冬雲西へ走るかな

冬の月枯コスモスに尿する

水尾引いて鴨立つ池の時雨かな

西山は紅を流せる時雨かな

杉苔に霰がたまる解けずあれ

珊々とあられ降り来ぬ釜の煮え

松の雪颯々と川へ落すかな

霜日和湾一碧にかかり船

朝霜の草に長々温泉の流れ

月一つ富士の眠りを照しけり

冬山や梢の赤き枯木立

馬の沓も淋しと見過ぐ枯野かな

今朝冬や布団をしぼる寝小便

初冬や遊山用意の鯖の鮓

短冊を書いて乾かず日短かき

米屋来て米櫃を覗く日短き

障子あけて行きし寒さや夜の冬

十月の朝日めでたし芋の粥

年の暮鶯の世話に余念なき

脇息をのけて火鉢を近づけぬ

櫛を落して尚眠り居る火鉢かな

ストーブが音して燃えぬ春寒し

樽の酒半ば過ぎけん冬籠

菜一聯枯木にかかる月夜かな

百挺の茎漬けにけり本願寺

玉子酒障子に雪の声ありぬ

玉子酒夜着より顔を出しにけり

寝る為めに夜々のみにけり玉子酒

亡き母の数珠なつかしや報恩講

老父母のある家なつかし御取越

溪水のいよいよ遠く笹鳴ける

満潮に皆浮き遊ぶ千鳥かな

帆柱の月に飛びしは千鳥かな

畳替へし香慕ふかに冬の蝿

障子の棧に二つとなりぬ冬の蝿

茶の花の夢と散り居る月夜哉

櫨紅葉冬木の中に親しまれ

奔湍を前に控へつ枯木宿

日の枯木雀実の如くとまり居る

枯蔦に滴る崖の清水かな

山の茶屋電車にさびれ葱畑

提灯の影に折れ伏す葱かな

蓮枯れぬまだ蚊の飛べる日の障子

冬草の中に捨てたる氷かな

雨ためて冬草朝日恋ひにけり

 明治神宮参拝

大鳥居仰ぎまつりぬ冬の雲

この宮の百年後の冬木さぞ

 木蛇、女をあげて和子と命じ喜ぶ内、暫くにして逝きけるに

ささ鳴に凍てつよかりし朝かな

 

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