明治大正時代の月斗句 6

 

青木月斗 大正時代の句抄

 

 大正四年七月より大正六年六月までの、『ホトヽギス』を中心とし『カラタチ』『智仁勇』『太陽』その他の諸雑誌、『国民』『東京日日』『大阪毎日』『大阪朝日』『京都日出』等の各新聞の数万句より、今井柏浦が1万余句を選び収録したものから抄出した。

月斗は『カラタチ』を主幹す。(島春)

 

 

 

 

今井柏浦・編『大正新一萬句』(大七、博文館)より抄出。

 

松の内苔食む小鳥来る日南

妻が叱る買初しけり風字硯

書初や座邊静かに鳴る茶鼎

書初や日頃愛する菅茶山

弾初や地唄の駒は失せてなき

弾初や母なん人の若き時

弾初の美人ならましとぞ過ぐる

蓬莱に祭るや子規の句短冊

寳恵駕に動く浪華の春色よ

寳恵駕や宵天神の薄曇

寳恵駕や江南の妓誰々ぞ

餅花や部屋が暖うて椿咲く

餅花や少しく垂れし寺座敷

寝たる子は起さずにあれ雑煮餅

薺粥餅に少しく黴来たり

龍天を行く溟海や春の雲

東風の昼金魚池の蓋取りて見る

東山の応へておどろ春の雷

鳥も寝て朧の中を落つる滝

朧の戸夜は子故の去られ妻

牛の眼は涙にうるむ霞かな

蜃気楼焔を上げて崩れけり

大峰の雪解思ひつ薬練る

春の山の曙の色に我対す

春の山枯木に暮るる空蒼し

春の海日のちりちりに凪ぎにけり

末黒野を過ぐる麹車に早も蝶

日きらきら水郷温み見えにけり

香炷いて心早春の野に在りぬ

二ン月の朝寝に馴れて二食かな

庭稲荷玉垣出来し二月かな

今年ほど風吹くは知らず冴返る

海鳴る風の中に何か声する冴返る

白粉の顔を野風に春暑し

泊るとなれば更に長閑湖の景

難船の帆柱見えて海長閑

デッサンの腕一つに遅日かな

山行や暮春の汗を滝で拭く

及第の若き心に春暮れぬ

我庭の青木実黒み春暮るる

出代や逡巡として仕舞風呂

出代や所帯つぶして又来たり

よみゐしがよめずなりけり凧の数

接木して親しき土の匂ひかな

畑隅や接木に伐りし枯枝ある

踏青や茶屋に休まず水の遍に

踏青や水自ら雲自ら

踏青やひそかに出し小野の月

関の趾にもどかしく摘む茶ある哉

水門に釣り暮れし綸に茶山哉

中一日恨めしの雨の春祭

十哲の第一人に梅ちる日

夜の梅角が吟魂髣髴と

田園子の消息にある雲雀かな

湯を使ふ首筋寒し夕雲雀

山雀小雀恋をあらはにさえずり

山ぬけに怪しき枯木囀りぬ

雉子が減りしと村人語る村は町に

鳥帰る李の花の落つる雨

帰る鳥山根の水に嘴洗ふ

鳥雲に近江商人は耳に筆

死を以て当るが如し猫の恋

猫の恋年々子供殖える家

声あげて蜂払ふ長き袂かな

人国記読む夜にてありし初蛙

馬車宿や蚕棚の下に厨見る

街道もさびれ宿屋に蚕飼見る

小屏風に金箔おくや日南に蝶

南風草の蝶々を起しけり

春の蚊や暗き湯殿で髪洗ふ

暮間明るく庭木に春の蚊が見ゆる

名人に二代なし梅の遺跡なる

梅古木根に春蘭の嫩葉かな

木蓮花羊の耳と咲き乱れ

三味線は川より聞こゆ柳かな

橋普請竹の矢来に柳かな

牢屋敷でありしを知れる柳哉

 

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