島春句
平成26年
平成26年1月号
島春句
卓上に置けば団栗座を組める
長き夜を時計の針に抜き去られ
長靴で銀杏蹴り込む水溜まり
齧らんず梨で頭痛を叩きけり
りんご噛む音だんだんと情なさ
燕去んで植樹のための穴を掘る
行秋のチェア腰浅く坐しにけり
戸が少し開いて酒屋の日短か
短日の時間が粘るご一統
平成26年2月号
島春句
腕を櫂にして短日の地下通路
空っ風先回りしてゐし路地へ
電気が働くものに囲まれ隙間風
陸海空軍のミニチュア掃き納め
煤払ふ塵も無けれどモデルガン
門前の纔かの冬日向に待てる
今日又も熟柿貰ふや時間差で
菊日向ルーペで虫と遊ぶかな
菊展の入口に立つ遠近法
座敷犬と丘一回り隠れ雪
掻き寄せて肩を落とした雪兎
雪だるま住めば都で豊満な
汲上げ井戸は潜望鏡や深雪して
膏薬で鎧へば力士雪掻かな
記念植樹の丘を親しみ初日待つ
初日待つあひだ松籟桜山
海原の去年を撫でつつ初日出づ
寒鯉の二三指差しポケットへ
身辺を文字細やかに寒見舞
遠足の梅干の種埋めて来し
遠足の禅林にして唱歌する
遠足や猿出たといふが過半数
野遊の誰彼欠けて来たりける
やれニシキソウイヌフグリ青き踏む
イベントがある日で東風の港混む
本通りは年寄が住み雛灯す
石鹸玉沓脱石をびしょびしょに
風船が小突く天井防震具
月命日の墓に来てゐる日向ぼこ
この城の傘下に市民花盛り
花疲れもみじ饅頭ぺしゃんこに
陽炎ふや昔からあって邪魔な石
橋を渡れば島は広くて陽炎へる
山を周らせ寺を周らせ陽炎ふ市
活けた猫柳指紋で触らるゝ
山みちの菫何やら目の高さ
物置が朽ち果てすかんぽ健全に
落椿仰向けてやる蹴るでなし
噴火口跡椿落ち一つ積む
目が行きし蝶の出入りや松並木
花過ぎの寺院となりて苔の艶
架橋後は春潮間延びして居りぬ
甘いもの食べ春潮の見ゆる湯へ
蛙聴く灸を据ゑるに手をついて
行人大半電波携へ朧かな
古池の口碑に鴬そぐはねど
飛燕してわれは徘徊者にも似る
干した傘身動ぎをして百千鳥
雀の巣覗くに小屋根きな臭く
板チョコの銀紙丸め昭和の日
アンクルトリスが小瓶でにやり昭和の日
みどりの日の天麩羅に摘む雪の下
ステッキ小脇に草笛を鳴るまで
仕事場は獄窓めいて風薫る
花あやめ癇癖な葉を残しけり
黄菖蒲が放擲したるといふ遠さ
もう蕩けジャーマンアイリスの気品
牡丹園寝そべる猫に見詰められ
牡丹覗き込むや珊瑚の頸飾
素袷に健康寿命包みけり
水道の水に仰向き開襟シャツ
ステテコや個人情報筒抜けに
頭を垂れ膝を屈して草抜かん
いまないたからすが笑ひ風鈴も
風鈴の鼻がないから舌つまむ
こうと決しドアを開け決して梅雨へ
ちびて輝く鉛筆の先梅雨の脳
表通りに残る八百屋の実梅かな
道すでに夏至の朝雨忘れけり
存へて天牛がよう掴めない
暁に覚めて小秋や存へば
胡瓜より茄子を親しみさはりけり
ころげて膝を擦っても肉桂水は無事
行きずりの桶のラムネに袖捲る
みかん水タイムカプセルより降りよ
蛍袋のスカートめくり蜂素早
蛍見る為の口説を聞く為に
月下美人後の祭りの垂れし首
緑陰の煉瓦舗装を雪駄履き
焦点として盆僧が歩道来る
薄明の盆灯篭で真新し
裸の子最中を下手に食べにけり
本土に咲く花火の贅を島泊まり
この虹も加へて花月三萬日
鯉こくに舌焼きにけり滝見茶屋
陰影を駆使し白百合反り返る
白色レグホンが居たりし桐一葉
踏んづけて歩み直さず桐一葉
螺旋階段の手摺に朝顔従はず
韮咲くや趣味の畑は不定形
立ち止まり膝揉んでゐる蛇穴に
蛇穴にドラマのやうなお嫁入り
昼の虫庭の日差しは起伏して
名月が離れる雲の三次元
彼岸花のうちの一本流水へ
露草を塀で囲ひて街住ひ
木槿咲かずなる頃多忙を言訳に
四年生になっても赤とんぼは高い
塩辛も麦藁も居ない駐車場完備
(滝宮)秋色や狛犬対す陰日向
実の楠が蔽ひ風神祀るなり
句碑滑り石蕗に散り込む銀杏の葉
青天の行事が済んで星月夜
草っ原今朝の露満点だろう
草の花のこれにそんな大声を
その中で撫子は花園の産
秋高しチーズも売って羊飼ひ
バイオレットフィズのやうな小春とも
石蕗咲くと無人の小島見て過ぎぬ