島春句
平成28年
島春句
人の名を呼ぶ初声を重ねけり
着ぶくれて何度差したる目薬か
戦争のシネマ見てから河豚食ひに
チャップリン歩き二三歩河豚食ひに
ハロウィンの猫や杓子の外側に
ハロウィンのテレビが騒ぐかりんとう
秋も末目に入れて痛くない夕日
花の名の集会で釣瓶落しの日
島なみを来て山なみへ神無月
錦鯉買うての戻り紅葉谷
島春句
山茶花の盛りを緋鯉かくれけり
詣で来て水仙に立つずんぐりと
木枯の末裔が玄関まで来たる
ニス塗って家具の元気や隙間風
尿意即生きて居るなり虎落笛
牡蠣たべる白いのんどが浮遊する
輪ゴムもて撃たんかバスト日向ぼこ
沖へ進むかに闇行けば冬の雨
短日の夕刊のこの記事にルーペ
短日といへども欠伸再三たび
島春句
寒の虹見よと八百屋へ魚屋へ
山腹に決めエンタシス寒の虹
寒烏かん高き午と聴き澄ます
寒雀いとけなく見え目逸らせず
寒声を谷へと店長たる覚悟
ポマードに固め出で発つ雪の過去
新雪をさむらい歩きしてみよう
雪だるま竹槍といふ武器ありき
ゆりかごや窓はまだまだ雪に雪
4Bの鉛筆をもて初日記
島春句
パンジーや皆それぞれに選挙権
チューリップ侯夫人ヒヤシンス伯夫人
チューリップ咲かせ住み着いたと言へず
チューリップ園のショップにお漬物
ピアノ教師が住んで門内芝桜
地虫出づ歴女一行往復し
啓蟄のおなかのマーチぐうと鳴る
蛇穴を日は雲を出づファンファーレ
蜥蜴出るこれから庭はチョー多忙
春風や港湾ビル出て陸の味
島春句
花の下目の塵をとる紙縒かな
昔を見てゐる高校今が花が満ち
落花の銅像で解説止めどなし
花がぱっちり見えるラーメン屋に列ぶ
猫が桜に関はるまで待つカメラマン
罪や罰もクスリと呼べり桜草
ちまちまと暮らしサフランも萎む
欄干は手に磨かれるおぼろ月
春星に波動くただ上と下
春の星座は結び損うてばかり
島春句
バス空いて居て筍を寝かす席
緑陰や波際近くあはただし
梢やや凝りしは鳥の巣でありぬ
飾り炉はおもちゃの置場遠蛙
投げ出した脚折り畳み桜餅
羽田まで草餅腹で宙にゐる
板チョコを欠き欠き昼を霞ませる
ひもじさが春の夕べに追ひつきし
春宵のノンカロリーと宣ふを
島春句
青楠を斫る風雨や日もすがら
円錐に緑一気や栂並木
若葉雨煉瓦舗道に発色す
つと入りの燕みどりの日の居間に
みどりの日の蓬を風呂にこどもの日
握られて湯気立ちさうやかたつむり
墓石を舐めては肥えてなめくぢり
野の草と活けられ枝のゆすら梅
散るは花満ちてゐし桐すり抜ける
桐咲いてより凡山の顔が向く
平成28年8月号
島春句
ホームベースに沙羅十薬が外野席
十薬を引き算されて庭梅雨入り
梅雨を塗り重ねて庭の色つやぞ
中膨れの舗装の端に梅雨を踏む
捨てかねし物に追ひ付く梅雨の漏
電動鋸担いで蜘蛛の囲にはまる
洪水警報のあちこちで蚊に喰はれ
野いちごの泥に花あり出水あと
人形も犬も事なし出水泥
出水川和久原といふ地名もて
島春句
日あまねしまた回遊のマイビーチ
松風と波風の間合をビキニ
ビーチ一周しての手中のもの放つ
船虫が残した腕みたいな朽木
汗の顔の中にはまって涙の目
辻の汗のしかめっ面が別れかな
ずるずると若者湧いてくる夜店
明けの緑化空間大みみずが跳ねて
蜘の生の歯車とてや網繕ふ
蝉殻に思ふ七年の手術痕
島春句
虹が立つセメント像の踊り子に
庭の絵図筆加へしに蝉生まる
早退やいちいち聞こゆ蝉の言
日盛りや出水が生みし淵の鯉
投影法の山を横目に日の盛り
船窓に嵌る程なる花火見し
縁側の浮き出た木目西瓜切る
西瓜ポタポタ三面記事を彩りぬ
西瓜一片ネイルアートが掠めたる
三日飼うて金ぶんに盆やって来し
島春句
ペン擱きテレビ点け片側葡萄食ふ
眼鏡拭き梨拭いて皮剥きはじむ
葡萄つぶホットココアのあとの舌
ひと皿に秋果いろいろ順不同
無花果を剥く適当が的確で
摘発のごとし無花果まだ固く
彼岸花手ぐすね引きし雨が刺す
蜂の巣に苑の秋花がうとましや
赤とんぼ津波予測の高さなり
山の口御用々々と赤とんぼ
島春句
コスモスを飾ればフィギュアたち黙る
量感の壺にコスモスひけ取らず
抱いて来たコスモス壺に抱かせけり
切っちゃったからはコスモス自家消費
アートの島の我は人っ子秋の風
十三夜白壁が待つ影法師
蛇口から飲めば銀河が覆り
帰燕もう済んで喪中を紛れゐし
路痩せて苑の小鳥の親密さ
画展出て菊人形に回るとは