島春句
平成29年
|
|
島春句
鶏旦や手を伸ばしまた足伸ばす
雨滴いま一目散に菊の空
テレビまだアメリカのこと菊膾
朝寒の辻に無人の時が空く
朝寒の螺旋でボールペンおろす
半齧りの梨持ち替へて茸買ふ
蟻穴に入りて熟柿が入荷する
山は錦カレーを注文君と僕
雲が去来丘の小春を揺り起こす
小春からその地下街へランチしに
島春句
むらぎもの心挙るや初日いま
頭挙ぐれば窓赫奕と初雀
突いてみし羽子が乗ったるシャンデリア
七草を囃すにキッチン器具応へ
没頭して居て霙して昼髙し
逆立ちは能うせぬままや日向ぼこ
食ひ過ぎた悔いに顎載せ小春凪
便り書く小春の貧乏ゆすりして
鼻歌のジングルベルや牡蠣を割る
煤掃くと庭木に垂れし小鳥籠
島春句
つかつかと鳩が近づき春が立つ
寒の水バカラの盃に満たし置く
寒肥のつぶらを置きぬ蘭の鉢
緑なす草が寒鮒釣の席
母のあと大根奉持横丁へと
胸像を向かせたる山眠る也
日向ぼこあの一人が名が出てない
よそ行きを脱いで火燵に俯せゐ
火燵出て庭に肩組み写真撮る
ベランダの雛菊スコップ始かな
島春句
社宅の名に残る梅林東風に留守
梅林の名残と指され庭に花
うぐひすや西野東野街となり
マンションを外出蝶々追っかける
蝶来れば猫が去るなりランチどき
墓石面鏡のごとし蝶白く
蕗の薹家のリフォームして失せし
骨揚げを待つ間のそこら蕗の薹
蜜柑置く朱卓に影をにじませて
飴舐めて氷柱を舐めて育ちけり
島春句
陽炎ふや水禍の地点指させば
リハビリの陽炎ふ宙を握るなり
また聞きの話題陽炎ふ砂浜で
鶯笛箱根泊りを吹いてゐる
蕎麦腹で雛拝見のイベントに
山淡冶なれば家鴨が背伸びする
頸鳴らし回し見続け蜃気楼
腹へって一瞥のまゝ春の虹
菫嗅ぐための手を置くための膝
チューリップ園で泣くほどのことか
島春句
大整理した古書憲法記念日に
みどりの日何かは判らぬにかぶれ
こどもの日暇でのエンディングノート
藤棚の下のベンチに桜しべ
花満枝食後のガムはねちねちと
花の疲れに鯨羊羹白と黒
寺の裏は病院の裏初ざくら
卒業す拭へば消ゆるもの記し
目も耳もかすんで四月馬鹿効かぬ
エイプリルフールの舌を切るの指
平成29年7月号
島春句
入れ食ひの釣りに飽き飽き鳥雲に
猫を飼ふかインコを飼ふか囀れり
囀るや積み木危うく伸びあがり
囀りや剥けば果物微光する
大南風降りてテラスに来た小鳥
さわるなの砂場のトンネル若葉風
目高飼って呟きぐせがつきにけり
なめくじの衆の若さにたじろげり
毛虫つまむコンビニ弁の箸をもて
蝸牛子どもの握力には困る
島春句
長生きといふ芸闘魚を買ひ次いで
グッピーども騎士の一揖してみせる
技術点芸術点蘭鋳の宙返り
ベランダのパセリに水しネイル描く
セロリ噛んで昼の覚悟は小さかり
我が庭の紫陽花どこか目鼻立ち
赤ブーツ紫陽花の鞠蹴らんとし
なだれ咲く紫陽花園の底に人
とき遅く紫陽花園はどくろども
紫陽花園の途中出口で迷ひけり
島春句
折り目無き紙幣のお釣半ズボン
ステテコでよいしょと立って古語辞典
ステテコで作った句なり転記する
向日葵畑の裏へ家路は回らねば
三尺寝都会の谷間といふことば
畳にて竹の子を掘る仕草する
病院の無季の白さの窓に梅雨
あれやこれやメトロノームの梅雨の漏
白内障緑内障の点眼梅雨の蝶
ＢＧＭが耳に止まるも梅雨明けか
島春句
スイスイと廻る燈籠詮無かり
草市の手花火がまた売れ始む
水あめのやうに燈籠廻りけり
鼠花火が追っ駆けてゐる寝相かな
玉虫を拝するが如見せにけり
こんな華奢な指で斑猫とらへたる
青天白日もう真っ裸とはなれず
ハンドルの片頬と時に夏海と
臨兵闘者皆陣列在前と飛び込みぬ
ポジ相当淡くも海水着の母よ
島春句
分けて呉れた鈴虫は難民に似て
コンクリの四角形ばかりでもちちろ
パンニングしての小粒や松虫は
愛想無しの庭勉強の葉鶏頭
要らなかった傘鶏頭の項掻く
既視感に赤とんぼ飛ぶ妻の里
赤とんぼ幼に遥か老いて復
赤とんぼお多福風邪の窓にこい
鰯雲自然が売りのパークとや
驟雨の瀑巨艦の沈む如くなり