島春句
平成30年
島春句
恵方道言ひて語らずおのがじし
辻小春一喝受ける小犬あり
イベントが済んで時雨の薄っぺら
初時雨冷蔵庫開けハムを食べ
あれも山城と聞いて凝視のむら時雨
散紅葉ここで動悸を鎮めゐる
爪噛んで短日言ふか言ふまいか
小声で呼びかけられ短日立ち止る
城頭やどんぐり共を蹴っ散らし
亀の首浮き秋水と見せにけり
島春句
初日の丘この次は花あと紅葉
石組まれたるが意味して初日の出
骨色の橋を渡りて若菜摘む
この町も縦線にビル雑煮腹
水鳥の岸辺鉄骨立ち上がり
霜満地雑草といふ一くくり
家庭菜園大根一閃させにけり
白い紙に薔薇新聞紙には葱
取り落としそう冬旅の電話帳
叱られたままのジングルベルのまま
島春句
声張って豆投げてゐて客観視
二個噛みてインコに与ふ年の豆
繕ふにちょっとセメント寒の水
重いもの提げたから飲む寒の水
ブラインド開け寒晴の松挙る
テレビ今宇宙を見せる風邪心地
水仙は孤立世帯に融けんとす
風が昼は枯山吹を支へたり
島春句
まだかたき空気に展げ雛の軸
雛の日や男の子も髪を刈って来る
終点で待つ乗り継ぎや浅き春
暗がりの余寒手で撫で探し物
公園は木の芽に明けて残る月
首曲がる土筆易々ポケットに
覚えきれぬ花苗の名で提げ帰る
雲見てる供養のだるま東風広場
鯛焼きを吹いて年内春が立つ
廊下曲げ曲げて建増しスキー宿
島春句
清浄の朝で飛燕は線のまま
飛燕仰ぎコップの水を飲み損ね
歯間ブラシ使へば燕多き日ぞ
吃逆や飛燕睫毛に引っ掛かり
祥日の朝の冷却うぐひす忌
この屋上配管だらけ養花天
三角と俵のかたち花の山
白酒や生まれながらの長まつげ
ムスカリが簇がり本町筋に空き
野梅にてはあはあぜえぜえしてゐたり
島春句
少しこはして少しなほして武者飾る
昭和の日あんま膏薬にて鎧ひ
花過ぎの谷底を蕎麦食ひにゆく
花過ぎの銘酒小瓶の飲み比べ
うぐひすの延びて岬へ沁み渉り
浪音を磯にうぐひす揺り返す
旧市内のむかし銀座の花の雨
蝶と今差し向かひなる花を剪る
地上より水上へまた地上へ蝶
日が落ちてより街中の春の川
島春句
青田見えた処で散歩引き返す
バイパスを抜けても青田永からず
十薬で攻め立ててゐる室外機
三度目の目覚めに拾ふほととぎす
山椒の枝に毛虫の指輪かな
若葉照る延長へ水切りの石
オルガンの曲の端々若葉雨
幼馴染の花の中なる著莪の花
堪忍をそのまま続け著莪の雨
一抜けを許さぬ春の落葉なる
島春句
梅雨茸の造形力や小屋中に
近くでも登らぬ山で梅雨一色
黙々と梅雨の電動あんま椅子
唐揚げの虎魚を噛んで梅雨晴間
ようも飛ぶ紙飛行機で梅雨座敷
コスモスが咲いて何じゃい五月晴
おとん坊が底嘗めつくす一夜酒
焼酎で組むおどりゃあと何じゃあと
冷し酒名うての庭は見ずて暮れ
路地に入り込み十薬の四面楚歌
島春句
大風やエンゼルフィッシュたる憮然
鬚もじゃで鰻捕へる技に長け
蟹が出て雨降りは生き返る溝
この川の度量小さな鯰が捕れ
あめんぼう平伏すと見るメランコリ
懐メロの母を聴いてる夏休み
胡瓜生らせ茄子は曲がらせ夏休み
お寺へ二度お宮へ一度夏休み
連休のうつけ風鈴やおら起き
小指入れて風を遣りけり水中花
島春句
北窓に山の日といふ山望む
残暑この一本のひげ剃り余し
次の稲妻までの拍動彼我にある
且つ大きな鐵風鈴で鳴りはせぬ
風鈴にちょっかい手洗ひの戻り
エレベーター降り往き往きて蝉の国
隣り合うて寺の三つの蝉しぐれ
雀の学校目高の学校も休み
島春句
梨狩へいざやむすんでひらいてし
いつもどこへでもの虫籠梨狩へ
のろのろとしてワイナリー梨狩後
マスカット眼球手術のやうに指
枝の楊桃に甲乙丙や甲から乙
うそ寒のひらくといふ音で傘を
蓑虫のひとつ枝とはと観をる
爪弾きされたか秋の蚊の飛び様
糸とんぼひとり遊びで済ます子に
今もコスモス畑にかくれてゐるやうな
平成30年12月号
島春句
山路経て海が見え来るそれも秋
山妝ふ名水汲みは週に二度
秋陰の如養殖の鱒の群れ
梨を買ひ地酒を買うてこの難儀
チンチロリン探すに天の光だけ
ポケットに蝉は入れ蜻蛉は捨てた
鬼やんま見たが捕れぬと日記帳
コスモスや頷く背く無関心
新墓一つこち向き光る竹の春
家に居るだけの光陰秋の蠅