錆色の空(1)

何もかもが飽和状態。 
既に肌を晒すことのできない外気、酸のように滲む凶悪な霧。
錆色の空から今しも巨大な太陽が逃げ出すところ。 
穴だらけの道路に、小さな水たまりがあった。 
水たまりには青い空と白い雲が映し出されている。
大抵の人間は(と言っても地上を歩いている人間がそういるわけもないが)目に止めることなく行き過ぎる。  
一人の少年、齢82才の子供が水たまりを覗き込んだ。
青空を背景に、日に焼けた顔が映る。
少年は自分の顔を撫でた。
確かめるように。
水たまりの中の少年も顔を撫でた。
柔らかい頬を、好奇心で一杯の眼を、ひくひく動く鼻を。
耳たぶをひっぱる。
耳の後ろからコインが一つ、転がり出てくる。
コインは手を逸れ、水たまりに落ちた。
水たまりに波紋が広がる。
皺だらけの少年の顔が歪んで泣き顔になる。
泣き顔はそのまま波紋に溶けて消え、あとには空を映すまでもなく、それ自体が錆色の水が残った。
少年が立っていた場所にはオイルの黒いしみ。  
そうして、都市では100歳以下の子供たちがどんどん消えていった。
知性の成熟を待たぬまま。

へっへっへっへっへっ。


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