新緑いきあたりばったり東北紀行

1999年5月26日(水)

初夏である。風は薫り、緑は輝く。お出かけせずとて何としよう。ひさびさの遠出に心も浮き立つ。

が、実は前日まで大風邪をひきこんで死にかけていたのである。
おかげで旅行のスケジュールはまるっきり組んでいないのであった。だいじょぶかな。

いきなり明石から三宮までの電車で、気分が悪くなる。
ふだん、ラッシュの電車に乗ることなどないうえに体調がよくないせいだ。先が思いやられる。
三宮からバスで伊丹空港へ。このバスが、待ち時間なしで乗れた上に、なんと30分で到着。早いじゃないか。
って、文句をいうようなことではないが、飛行機というやつは出発間際に駆け込んでも乗せてくれないから時間には余裕を見てある。バスのおかげで、余裕は1時間半と、ありあまってしまった。
とりあえずチケットを受け取ろう。
インターネットで予約できるようになったのは実にありがたい。チェックイン機にクレジットカードを差し込んでいると、係りのおっさんがやってきて、操作方法をいちいち説明してくれる。
大きなお世話である。
いくら田舎者のおばさんでも、画面に表示される日本語ぐらい読めるわい。
チケットには「発行所:JASマルチメディア」と書いてある。なんとなく笑える。

さて、なにしろ時間があまりまくっている。コーヒーでも飲もう。
でも暗い喫茶店だとオアポケの液晶画面が見えないんだ。2階の食堂は却下し、3階へ行く。珈琲もこっちの方が30円安い。あんまり美味しくなかったけど。とりあえずワープロが打てることが私の喫茶店選びのポイントである。

頃合もよしとて、搭乗口へ。あとで気がついたんだけど、かばんの中に小さな七徳ナイフが入っていた。金属探知機は反応しなかったが、そんなんでええんか? 花巻空港行きJASは22番ゲートから。むっちゃ遠い。いかにも僻地行き?
話題のピカチュウ飛行機があるかな、と窓の外をうかがいながら歩くが発見できず。
遮光ガラスは外が曇っているように見えるからきらいだ。まあ、紫外線素通しも困るんだけどさ。

JASの窓から機内はせまい。
あらかじめ窓際禁煙席をとってあったのだが、真横が翼だ。その端っこに小鬼とか座ってたらやだな(ネタが古いって)
滑走から離陸。
飛行機に乗るのは何年ぶりか思い出せないほど久しぶりだが、この瞬間が好き。しかし、風邪をひいて、ずっと耳に膜が張っているような違和感に悩まされている状態だと、いつにも増して耳がおかしくなり、鼻をつまんでもガス抜きができない。ううう、気持ち悪いよぉ。

定刻に離陸した飛行機は定刻に着陸。
花巻空港はけぶたい。岩手県には愛煙家が多いのか?
盛岡駅行きのバスに乗る。
高速に入るからシートベルトを締めろという運ちゃんが土地の人らしい発音だ。しかし、高速っても平地を走っとるが…

盛岡駅は大きい。コインFAXというのは初めて見た。宮古までの切符を買って、改札口の電光掲示板を見ると、45分発とある。あと20分ほどあるなあ。お腹が空いたから何か食べよう。と、改札口横のカフェ・ド・スタシオンに入り、エビピラフを注文する。
改札口横の名前だけカフェに入って美味しいものが食べられると期待したわけではないが、えらく塩・胡椒が安かったらしい。口の中がひりひりする。
大急ぎで食べて、山田線の1番ホームへ。

赤い電車が止まっているので、アレかな?と思うまもなく、電車は行ってしまった。そんなアホな、まだ42分だぞ。と、案内表示をみると、なんと13時45分なのだった。しまったーっ、それならもうちょっとマシな食堂を探すんだった。
山田線の時刻表があったので見ると、一日に4本しかない。うーむ。
でもトイレは自動洗浄だった。関係ないか(笑)

よく晴れて、思ったより暑い。しかし、上着を脱いでホームの椅子に座ると風が涼しくて気持ちがいい。耳もすこし常態に近くなってきた。鳩が一羽、ずっと私の目の前を行ったり来たりしている。生き物を見てると退屈しなくていい。

快速リアス1時20分、山田さんが入ってきた。25分間止まっているわけなのね。電車かと思ったけど、ディーゼルのようだ。
快速リアス。
何も快速に名前をつけなくても。
快速リアス中に入ると、むっとしている。一瞬、暖房が入っているのかと思ったほどだ。扇風機が回っていた。走り出したら窓を開けよう。小浜線の汽車より広くて椅子のクッションもいいが、やっぱり足元に邪魔っけなヒーターのでっぱりがある。
2両の列車が動き出すと,日差しがまぶしい。ブラインドを半分下ろす。
窓を開けると、意外と風がきつい。ブラインドを下まで下ろす。窓外はなんと言うことない風景がつづく。当然のように眠くなる。

3時45分、宮古到着。
観光案内所に積んであった紙を一枚抜くと、地図ではなく見所へいくための時刻表だった。どれも歩いていける範囲ではないということか。
国民休暇村への行き方をたずねると、私が手に持っていた紙に印しをしてくれる。ちゃんと書いてあったのね。バスは4時発。
岩手県交通のバスは初乗り130円。地元の人たちは皆、バスカードを使うようである。どんどん山の中へ入っていき、終点休暇村まで30分,360円。

休暇村のフロントの女の子は過去形でしゃべる。はまぎくコースでご用意いたしました、って、別に文法的におかしいわけではないが、妙に違和感がある。普通はご用意しておりますって言わんか?
部屋は、ちんまりとした和室。窓からの見晴らしはイマイチだ。玄関前の道路ではね。
トイレあり、風呂なし。
お茶菓子は噂の鴎のたまご。
昆布茶をどうぞ、と書いてあるので蓋を取ってみると、緑色の粉末ではなく、ホンマに昆布が入っている。
私は普通のお茶の方がいいな。
で、普通のお茶を濃い目に入れて、鴎のたまごをいただく。
やっぱ甘いわ。
昆布茶のほうは、寝る前に飲んでみたけど、昆布としか言いようのない味がした。
お茶を飲みながら施設案内などを見る。はまぎくコースは7000円〜(部屋のタイプ、人数によって料金は変わります)と書いてある。私に提示された料金は8500円だった。なるほど、和室のシングルユースは1500円増しなのね。
散策コースの地図がある。
近くの展望台で日本で一番早い日の出が見られるそうだ。
フロントでくれた案内には明日の日の出は4時9分とある。じゃあ、今日は早めに寝て、でかけようかな。

5時過ぎ、地下の大浴場へ行く。
地下といっても山の中のこと、目隠しの塀のむこうに空が見えている。
備長炭使用・氣の炭風呂と低温サウナ。炭風呂は遠赤外線効果・浄化効果・アルカリイオン効果があるそうな。
遠い昔から伝わる木炭パワーをご満悦いただければ幸いです、と書いてある。
ご満悦はちがうだろ?(笑)

さて、夕食じゃ。
食堂で飲み物は何があるのか聞くと、ビールと日本酒、日本酒は熱燗と生酒の冷やだという。せめて冷酒と言ってくれないだろうか。
銘柄は岩手川だというので、温燗をたのむ。大して美味しくなかった。ご飯と汁もすぐ持ってきてくれるようたのむ。

さして量があるようには見えなかったが,お腹一杯になる。酒がすんだら,お茶がほしかったなぁ。

部屋に帰り、床をのべる。シーツはないのか?
明日の天気予報は雨。やだなあ。
そのまま少し眠り、目がさめたら10時半だった。家に電話して猫の様子をたずねる。
明石はすでに降っていると言う。猫の戸の閉め方が分からんから、前に漫画を積んできたで。
って、お母さん… 板を差し込むだけなんだけど。
着替えようと浴衣を取ったら,その下にシーツ発見。
浴衣の模様がQである。
国民Qkamuraって、変だよ。ちなみに全国の国民休暇村を利用するたびにポイントがたまるQカードというのがあるらしいが、対象年齢が60歳以上である。ぶー。

もう一度、風呂に入る。サウナは10時で終了している。
風呂のまえには各種自動販売機とコインランドリーとマッサージ椅子がある。
壜入り牛乳が100円。エコロジー牛乳が150円。
能書きがあるが、肝心のエコロジー牛乳は売り切れている。
自販機は各階にあるが、アイスクリームは1階より風呂の前のほうが売れるんじゃないか?

持参の寝間着に着替える。
寝間着つってもタンクトップとフレアーパンツなんだけどね。浴衣で寝ると崩れてぼろぼろになるからいやなんだ。
じゃ、おやすみ。

5月27日(木)

目を覚ますと、窓の外は雨である。
やれやれ。もっかい寝よう。
と、布団のなかでうだうだしているうちに8時半になってしまう。
いかん、ここの朝食は9時までだ。食いっぱぐれるじゃないか。
あわてて食堂へ行く。9時10分まえ。
朝食はブッフェだ。
食べ物は充分にあったが、だれもいない。
おかずをほんの少しとプチトマト、グレープフルーツ、オレンジを取り、ご飯と味噌汁をもらう。
味噌汁は辛いかな、と思ったけど関西人にして普通の味だった。
関東や東北の人には物足りないのではないだろうか?
レモンティーと牛乳を一杯ずつ、咳止めを飲んで食事を終える。

みやげ物をひやかす。
あわびの昆布巻だの明太子味昆布だの、このあたりは昆布が特産らしい。

部屋にもどると鍵が開いている。
掃除しますから開けておいてください、と係りのおばさんに言われる。
んじゃ、もういっぺん風呂にでも入ろう。
エレベータを待つのも面倒なので階段を下りていくと、掃除機に迎えられてしまった。
浴場の明かりが消えている。
貸切だね。サウナはやはり終わっている。
つぶ塩入りマッサージソープ・アロエシオなるもので全身マッサージ。
貸切だと、こういうこともできていいな。って、備え付けなんだから、いつでもやってかまわないとは思うんだけど、恥ずかしいよね。

ゆっくりつかったつもりだが、部屋はまだ掃除されていなかった。
しょうがない、ロビーでちゃかぽこしよう。
ティーラウンジに係員の姿なし。それならそれで、と自販機で飲み物を買って、窓際に座る。
雨よ、やめ〜〜っ。

12時半、雨がやんだ。じゃ、外へ出るかな。
そのまえに腹ごしらえをするか、とレストランへ行ってみるが、けっこう高い。
お腹もすいてないので、出た先で何か食べられるかも、という期待のもとに出かけてしまうことにする。

柿ヶ崎展望台より外に出ると空は明るく、薄日がさしている。
が、山道に入ると、ばらばらと音がしている。風が吹くたびに枝にたまっていた雨滴が落ちてくるのだ。
まずは、すぐ近くの柿ヶ崎展望台へ。
ウミネコが大量にいるらしいが、海がガスでけぶっていて、声はすれども姿は見えず。
たしかに猫の声に似ているが、猫のほうが可愛い。
はまぎく展望所、浄土ヶ浜展望台、はまなす展望台と順に見て回る。
景色はすばらしいが、道が怖い。
登りも下りも急なうえに、柔らかい腐葉土に覆われた細い道は、雨の後で滑りやすいのだ。
すぐに息が切れる。
あちこちにピンクの山つつじが咲いている。小さ目の花がかわいい。
環境庁が立てている看板には公園内で見られる鳥や動植物が紹介してあったが、どれも確認できない。
鳥の声は何種類も聞こえているのだが、私に特定できたのはウグイスだけだった(誰でもわかるって)。

ガスが晴れてきた。
展望台からのぞむ海岸は実に美しい。

でも、ここで転がり落ちたりしたら、なかなか発見してもらえないかもしれない。
もし、今ここで崖下に死体とか、けが人を見つけたら、人を呼ぶのも大変だろう。
宿舎に電話しても、場所を説明できない。
人を呼べたとして、ここからどうやって崖の下へ下りる?
この道を担架に載せて人を運べるものだろうか?
……なんで綺麗な景色を見ながら、そんなことを考えるんだ?

各展望台にはオリエンテーション用らしいクイズがあちこちに下げられているのが微笑ましい。
しかし平日のこととて、誰にも出会わない。
となると、独り言が言える。
私は独り言を聞かされるのが大きらいである。聞こえよがしに独り言を言う奴は後頭部に蹴りを入れてやりたくなる(足がとどけば)。だが独り言を言うのは楽しい。独り言を言うとラクになる。
だから、人のいる場所では自粛するけど、聞く人がいないとなれば、大声で独り言の言い放題である。
「海岸が見えいでも波の音はよぉ聞こえるなぁ」
「あのドーン、ドーンいうのんは何の音やろ?」
「おお、さすが新緑の季節じゃ、緑の色が若い」
遊歩道「ぎえ〜、この道、帰りに下るのんいやや〜」
「ぎえ〜、この道、帰りに登るのんいやや〜」
「やっぱり鳥見よおもたら、双眼鏡ぐらいいるわなぁ」
「すべる〜すべる〜〜〜」
「いやぁ〜、きれいな谷川〜」
ああ、やかましい(笑)

さて、はまなす展望台まできたところで、しばし思案する。
道標には潮吹き穴まで1.1km、休暇村まで0.9kmとある。
たった1km足らずやったんか、と思うと、この笑う膝をどうしてくれよう。
まあ、せっかくここまできたのだから、とりあえず潮吹き穴を見よう。
というわけで、ふたたび山道をえっちらおっちら宿舎から遠ざかる。
散策コース案内には「健脚コース」と書いてあるのを無視しての暴挙である。
森を歩くのは大好きだが、私は強力にはなれそうもない足弱なんだよねー。

で、潮吹き穴。
案内板に「波が穏やかな時は潮吹きは見られず、ほら吹き穴とも呼ばれる」と書いてある。
あらまあ。
加えて、写真を撮るのに夢中になって高波にさらわれて死んだアホがおるので真似せんよーにという注意書きもある。
そういや昔、どっかのサーキットで立ち入り禁止の場所で写真を撮っていた小僧がクラッシュに巻き込まれて死んだことがあったっけ。まこと小僧は度し難し。
私は小僧ではない。
おとなしく柵の内側に腰をおろし、潮吹き穴をながめる。
今日はわりと波がある。打ち寄せるたびに、穴から霧状の柱があがる。大きいのもあれば小さいのもあり、なかなか見飽きない光景だ。

さて、これからどうするかな。
浄土ヶ浜まで6kmとある。平地ならなんということもない距離だが、すでに足が痛い。やめておこう。
それにしても、来た道をもどるのはかなりしんどい。
潮吹穴駐車場という矢印があるので、バス道に出るかも、とアルファルトな階段をのぼってみる。
のぼりきったところに公衆トイレがあった。ポケットをさぐるが、ハンカチだけで紙を持っていない。
しまった、上着のほうには入れてあったのだが。
備え付けがあればいいけど。と思ったが、ホルダーには空の芯があるだけだ。隣の車椅子用も同じ。
無人を幸い、男子用をのぞく。
あった。
やっぱ男はあまり紙を使わないんだね。恥を知らないおばさんは男子用トイレで用を足すのであった。ホンマ、人のいない平日でよかった。

バス道に出るかどうかわからなかったが、あかんかったら引き換えしたらええし、と適当に歩く。やっぱ森の中のほうが気持ちはいいね。そうできない足が日ごろの運動不足を如実にものがたる。
やがてバス道に出たので,迷う心配がなくなった。
宿舎のまえに宮古ビジター・センターがある。
まずここで予習をしてから出かけましょう、と案内にあった。
もどってきてから入るやつも珍しかろうな。と思ったが、なんと閉まっているではないか。憮然。

仕方がないので宿舎にもどる。
歓迎の看板に「野鳥の会」とある。いいなあ、楽しそうだなあ。
時計を見ると3時半。レストランは閉まっている。お腹が空いたじゃないか。
売店でお菓子でも買うかな。
が、係員に寄ってこられてしまったので、条件反射的に逃げ出す。
部屋にもどると、今日のお茶菓子は鼓栃餅。いちお日替わりなのね。
値段の差なのか、二つ置いてある。
お茶を入れて食べる。お腹が空いているので美味しい…かと言えば、やはり甘い。
夕食まで2時間半ある。
風呂に入ろうかと思ったが、お腹がすいているのでやめる。
ちゃかぽこしようかと思ったが、お腹がすいているのでやめる。
布団を敷いて寝転がる。まだ体調がよろしくないのである。

6時を待ちかねて食堂へ。
今日は飲み物は断ってお茶をもらった。
背後の席に知的障害者らしい一団がいて、時々奇声を発する男の子に食事中悩まされる。世話をする人は大変だ。
メニューは素材がちがうだけで、料理法は昨日とまったくおなじものが並ぶ。茶碗蒸しが筍と白身魚の蒸し物に変わっていたが。
きれーに平らげて、ご飯も全部食べたら、さすがに食べ過ぎたようだった。

エコロジー牛乳ニュースによると、あちこちで強風の被害が出ているらしい。休暇が今日からでなくて良かった。
8時過ぎ、家に電話をして猫の様子をたずねる。
私が家を出る前日、姑と喧嘩をして実家に帰ってきた妹は、まだ滞在しているらしい。困ったもんだ。
風呂へ行く。エコロジー牛乳が補充されていた。
スポーツドリンクを買ってサウナに入る。たっぷり長湯をして、エコロジー牛乳を買って部屋にもどる。エコロジーについてはよく分からないが、牛乳は美味しかった。

ひさしぶりにニュースステーションを最初から最後まで見る。4年ぶりくらいかな。
タイガースが感動的なチームになっているそうだ。ほほー。
寝る。

5月28日(金)

目を覚ますと7時半近い。
さて、今日はどうしようかな。と、駅でもらった時刻表を仔細にながめる。
えーと、バスで駅まで出て、浄土ヶ浜行きに乗り換えて、浄土ヶ浜で遊覧船に乗って、駅にもどって、山田線で盛岡、盛岡から新幹線で仙台へ行く、と。
それにしても、めちゃくちゃ連絡が悪い。宮古駅で3時間半ちかく待たねばならない。
信じられないね。
ま、急ぐ旅でなし、ぼーっと過ごすのも一興というものか。
とりあえず風呂に入って、朝食を摂って、化粧して荷物をまとめてチェックアウトしよう。1時間あれば十分だろう。
こういうのを皮算用という。

炭風呂は食欲増進効果はないようだ。今日もおかずを少しとご飯と味噌汁と牛乳を一杯。牛乳が美味しい。
あとで果物を食べるのを忘れていたのに気づく。くやしい。
手際の悪さはいつものこと、ロビーにおりたらバスの時間ぎりぎりだ。
カードのステッカーが貼ってあったが、こういうところでカードを出すと、たまにものすごく時間を食うことがある。バスに乗り遅れても困るので現金で支払う。
岩手県北バスバスはすぐに来た。
が、すぐには出ない。
ちっ。カードで払えばよかった。
動き出す前に年配の(多分)夫婦連れが運転手になにか相談している。
結局,彼らは佐原というところで降りることにしたらしい。内容をはっきり聞いていなかったのだが、浄土ヶ浜へ行くつもりであることが、彼らが降りてから判明した。
しまった、私もひっついていけばよかった。

しかしなにしろ後のまつりである。当初の予定通り宮古駅から浄土ヶ浜行きのバスに乗り換える。
運転手に運賃を訊ねると、遊覧船に乗るなら終点のひとつ前のターミナルビル、浄土ヶ浜を見るなら終点まで乗らないといけないという。
どうしようかな。
まず浄土ヶ浜を見て、それから歩いてターミナルビルまでもどることに決める。バス停ひとつぐらいなら、歩いても知れているだろう。
と思ったのだが、ターミナルビルから終点までは、けっこうキツい山道で距離もある。こりゃ、歩くのはしんどいかな。

浄土ヶ浜浄土ヶ浜はたしかによい景観だったが、さながら浄土の如しかどうか。
浄土って、山河すらない平らな世界とちゃうかったっけ(誰が見たんだ)。
よく見ると、観光船乗り場の矢印は海岸沿いの細い道をしめしている。やれありがたや。

遊歩道を歩いていくと、海に向かってかっぱえびせんを撒いているご婦人がふたり。
ウミネコがいっぱい群がっている。
しばらく行くと、貸しボート・高速艇乗り場というところへ出た。
人数が集まれば観光船より安くつきます、と売り込むにーちゃん。
人数いないんだよね。
素通りして観光船乗り場へ行くと、船はまさに出航寸前だった。

うみねこ船にはわりと大勢の客がいる。
バッヂをつけているところを見ると、バスツアーの団体さんだろうな。
みなさん、ワカメなどを練りこんであるというウミネコパンをお買い求めになる。一個100円ねえ。
私は混ざらない。
ひねくれているわけではない。エサをやりながらでは写真が撮れないということは、ウチの猫たちでよくわかっているのである。
船が出る前から早くもパンを撒きはじめる人々の楽しげな笑い声がひびく。
なかには二つ目、三つ目のパンを買う人もいた。
しかし、この船はよく揺れる。
船に弱いので、40分の遊覧中、なるべく真ン中あたりに座ってじっとしている。遊覧船ぐらいなら大丈夫だと思ったんだけどね。

バス乗り場までは石段をのぼらなければならない。前をあるいていたオバサンが見上げてため息をついた。気持ちはわかる。
ターミナルビルの中ではだんご3兄弟をBGMにみたらし団子を売っていた。
もう少しあがると,観光船乗り場まで4分30秒と書いてある。誰の足で測ったのか,えらく細かい。
その横にはみやげ物屋と自動販売機多数。飲み物は120円と標準価格である。船着場にあった自販機は130円だった。
4分30秒分の手間を10円に換算しているのだろうか。
駐車場には観光バスが2台。
路線バスには数人が乗り込む。12時ごろ、宮古駅到着。

しかし、汽車は15時46分まで出ない。
予め知っていても、をいをいと思う。ま、お昼でも食べてゆっくりしよう。
駅前の食堂は高かったので、SATYに入る。
例によって思わず物価調査をしてしまう。せんでええっちゅーに。
三陸ラーメン4階のレストランで三陸ラーメンなるものを頼むが、塩辛くてマズい。3分の1ほどで降参する。
アイスティを頼もうとしたらナイという。
仕方がないのでホットを持ってきてもらったら、なんと最初からレモンの薄切りが紅茶のなかに浮いている。レモンティがでほるとのトコって、時々あるな。宿の牛乳がおいしかったのに、不思議だ。
ちなみに私はコーヒーも紅茶もプレーンでいただくのを良しとしている。
ちゃかぽこしていると、ウェイトレスが「なんかカッコいいですねえ」と声をかけてくる。
いまどき携帯端末が珍しいか? 5年ぐらい前までは頻繁に声をかけられていたけど。

紅茶をちびちび飲みながら3時までねばり、駅へ。
みどりの窓口で仙台までの乗車券と盛岡からの新幹線自由席特急券を購入する。切符に磁気が入ってませんから、有人改札を通ってくださいといわれる。おやまあ。
駅スタンプは縁がかすれている。
外の土産物屋を見る。
岩のり岩のりの賞味期限を見ると、99年6月1日となっている。そんなモノを売るんじゃないっ。
とりあえず、ミニ鴎の玉子と賞味期限が01年になっている岩のりを買っていると、駅員が現れて「改札してますよ」と教えてくれる。
土産物屋のおっさんと駅員の会話は漫才のようだ。
改札では丁寧にホームを教えてくれたりと、駅員は親切である。

今度の山田さんは普通だ。さすがに名前はついてない。
車輌はひとつで、男女生徒がたくさん乗っている。これはきっとうるさいぞ。
うるさい。
隣にすわったオバサンの鼻歌が。
通路をへだてた席に座っている男子生徒が窓をあけて外を見ては「すげえすげえ」と歓声をあげている。
なんぞ、おもろいもんでもあるのか? こっちからは山や川しか見えんぞ。
女子も男子も鼻歌オバサンも小一時間ほどですべていなくなる。
小さな駅は無人駅。
雨が降ってきた。発車からしばらく回っていた扇風機が止まっている。空気が冷たい。

盛岡駅につくと、数分で次の停車駅仙台、という新幹線がある。
1時間後のにするつもりだったが、間に合うのならそっちにしよう。
しかし、発車寸前に乗ると席がないっ。
なんとか喫煙席に一つ見つけるが、煙い煙い。のど飴は必携だ。

仙台も天気が悪い。
駅からホテルに向かって歩くが、どうも道をまちがえたらしい。まあ、日本語が通じりゃ迷ってもどうということはない。電車とちがってホテルは逃げない。
第一ワシントンホテルはエレベータの位置がわかりにくい。
部屋はせまく、ユニットバスはさらにせまい。
大浴場の後では哀しいとしか言いようがない。値段的には変わらないのに…

お茶を飲んで、ニュースを見て。電話で猫の様子を聞いて。
さて、夕食にしよう。
ワシントンホテルと言えばガスライト、ガスライトと言えばローストビーフだ。
と思っていたのに、メニューにない。
お肉より魚介類のほうが好きなんだが、今日はローストビーフを食べようと思っていたのに。
仕方がない。ステーキにしよう。
ビーフコンソメとシェフサラダ、ガーリックステーキと赤ワインのハーフボトルを頼む。
一人のときにコースをとると間が持たないんだ。しかし。
なんだ? このサラダは。
居酒屋かいっと思うようなボウル山盛りである。グリーンリーフのうえにエビなどがのっているからシーフードサラダかとおもいきや、底のほうからチーズとハムが出てくる。コンセプトはないのか?
そのうえ肉が不味い。ミディアム・レアと指定したのに、中まで火がとおっている。
ウェイターの教育もなってないし、仙台第一ワシントンホテル10階レストラン・ガスライトに対する私の評価はC−と決定したのであった。

5月29日(土)

朝っぱらから地獄の苦しみが橘を襲う。

便秘である。

原因はわかっている。昨夜のガーリックステーキだ。
数日前まで、風邪でダウンしていたので、一週間ほど消化のよいものをごく少量食べると言う日々を送っていた。
休暇に入ってからも魚介類と海藻類がほとんどで、お通じに障りがあるようなことはなかったのだ。
マズいお肉は体にもやさしくなかったわけである。
所期の目的を果たすまで、40分以上トイレの住人と化してしまった。
腹筋が痛いっ。

朝食はバイキングだが、皿にとるのは果物とグリーンサラダとヨーグルト。あとは牛乳とコーヒー。
悲しい。

8時45分、お土産とサインノートを持ち、タクシーで仙台駅へ。
たいした距離でもないのだが、トイレで気力と体力を消耗したのだ。

待ち合わせ場所の新幹線改札口横の待合室は冷房がよく効いている。
やだな。
この待合室は禁酒禁煙、飲食もできませんと書いてある。禁酒ってのがおかしい。
定刻どおりに、けんちゃん、間をおかずにまさこさんが現れる。
どうも、おひさしぶりです。

けんちゃんに「博士の青汁」を、まさこさんに明石銘菓「子午せん」をわたす。
けんちゃんから「京都限定しば漬おっとっと」をもらう。
明石の人間に西宮在住の人間が仙台でくれるものか?
まさこさんには大阪とら焼をわたすけんちゃん。まさこさんのご家族はさぞ不審に思うことであろう。
おかあさんは仙台に行ったんじゃなかった?

さて、どこへ行きましょう。
と言われても。このオフは「新緑の仙台をけんちゃんに案内してもらうオフ」なのだ。
私にもまさこさんにも展望はない。どうも、けんちゃんにも特に計画はないらしい。市街地図の看板を指して、緑がおおいというとこのあたり、とか言うし。瑞宝殿という表示がある。ここは何?
「行けば分かります。行ったことないんですが」
まあ、地元民というのはそういうもんだよな。
とりあえず、そこにしよう。

バスヲタクのけんちゃんが乗りたかったのとは違うバスに乗り、降りたところに小さなストアがあったので、サインペンを買いに入る。
アメリカンチェリー100g148円。安いね、とまさこさん。
つい女たちは物価調査をしてしまうのであった。
で、ここで買ったサインペンをあとで見ると、30日は特売日と書いてある。
パッケージのデザインかと思っていら、ストアのシールなのだ。
そこまでやるか、と感心した。

仙台には牛さん模様のタクシーが走っている…

キンキラキン♪瑞宝殿は伊達家の墓所だった。
濃い緑の中にあり、まあ何と言うかキンキラキンで、これが伊達者の好みなのかと納得するようなせんような。
資料館が面白い。三人で好き放題言いながら、じっくり見て回る。
ぐるっとまわって降りてくると、もとのストアのまえである。
毎月30日は特売日などと流しながら宣伝車が走っている。百万都市とは思えない感覚に目が点になる。

今度はけんちゃんお勧めの市バスが来る。確かにこちらのほうが乗り心地がいい。

朝5時半にでてきたというまさこさんに、朝食はどうされたんですか?と聞くと、新幹線のなかでサンドイッチを食べたきりだそうだ。
「じゃあ、お腹がすいていませんか?」
「そうですね、ちょっと早飯したいですね」
といった会話はけんちゃんの耳には届いていなかったらしい。
実は私も、朝食にご飯と味噌汁を省略したため、少し腹が北山だったのである。
女ふたりして、ご飯〜〜とけんちゃんに訴える。驚くけんちゃん。

「牛タンでいいですか?」

牛タン屋さんもちろん否やはない。
それにしても、仙台名物と言うと萩の月と笹かまぼこしか知らなかったんだけど、牛タンもだったのね。
けんちゃんが連れて行ってくれた店は、ずいぶん活気があって、繁盛しているようである。
すこし待って、カウンターに並んで座る。メニューは壁を見るらしい。
えーとぉとか言っていると、お昼なら定食がありますよ、と言われる。
「じゃあ、それ」
「牛タンは一人前と1.5人前がありますが」
「一人前でいいです」
「牛タンは三人前を一つに盛っていいですか?」
「別にいいです」

しかしカウンターの中の女の子は「別がいいです」と聞いたらしい。別々の皿できた。
それに麦飯とテールスープとお新香。
このお新香がすごい。とんかつのしたのキャベツと見まごう量で、胡瓜の酢漬けが牛タンの皿に入っている。
美味しい。

後がつかえていたので、食べ終わると早々に店を出る。
それからは街を徘徊。
本当に仙台は緑がおおい。街路樹がみんな高木なのね。
ここのアーケードは日本一高いんですよ、という名掛丁。七夕まつりのかざりつけのためだそうだ。
そういえば、以前7月半ばに仙台を訪れたときは駅からどこから色とりどりの七夕かざりであふれていた。
ひとしきり繁華街を歩いたあと、お茶しましょうと、適当な茶店へ。
けんちゃんが頼んだアイスティには、やはり初めからレモンスライスが浮いていた。
お茶の後、松島へ。

松島や ああ松島や 松島や

仙石線というわけで、地下道を通って仙石線の乗り場へ。何気なく「せんごくせん」と読んでいたら「せんせきせん」だった。
まさこさんは、うっかり切符を買って入ってしまい、後悔する。JR東日本一日乗り放題切符で仙台にきていたのに。
いいなあ、西日本でもそういうのないかなぁ。
雰囲気がちがうと思ったら、元は私鉄だったそうだ。
この電車は直流なんですよ、普通は交流ですが、とけんちゃんの解説が入る。
鉄ちゃんの言うことは般Pにはわからな〜い。
小学校のころ、懐中電灯でならったおぼえはあるが…
閉まっているドアと開いているドアがあるのはなぜ?
この電車は乗降客が自分でボタンを押してドアの開閉を操作するということ。冬季じゃなくてもそうなのね。
小浜線の汽車もそうだったけど、開閉ボタンなんて親切なものはなかったなぁ。

百万都市をあとにして、電車はすすむ。
ここで、けんちゃんのワインポイントアドバイス。松島へ行く場合は「松島駅」ではなく、「松島海岸駅」で降りなければいけません。
松島海岸駅につくと4時。
遊覧船の勧誘につかまる。
大きいのはもう出てしまったけど、まだ小さいのがあります、とのこと。

船着場にはヒマそうな顔の船頭さんたちが数人。
私たちは本日最後のカモらしい。船はホンマに小さい。
「釣り舟みたい」と、まさこさん。
定員13名とかいてあるけど、へたな乗り方をしたら放り出されそうだ。
料金は4人まで6000円、あとは一人増えるごとに1500円。なるほど、6000円が一回船を出して利益が出る最低ラインか。
私たちは一人頭2000円の計算である。
が、けんちゃんはオバサンたちから1000円ずつしか受け取らない。
そゆことしなくていいのに…

遊覧船上にて、けんちゃん(この大きさならカオは分かんないよね)海には、ごく一般的な遊覧船も浮かんでいたけど、こっちの方が面白そうだ。
なにしろ揺れる。水しぶきがどんどんかかる。
とってもワイルド。
途中から屋根のある船首部分へうつり、ぺたんこの座布団に座るが、こっちの方がもっと揺れる。
ちょっと聞き取りづらいテープガイドと、もらった島々の地図と実際の島を一所懸命比較する観光客な私たち。
船から下りても地面が揺れる♪

芝生にはお決まりの注意書きがあるが「松島をきれいにする会」という団体名が笑える。
公衆トイレの維持も「松島をきれいにする会」の募金でまかなわれているらしい。
やたら立派で設備のいいトイレだったので、何となくまさこさんと100円ずつ募金箱に入れてしまった。
けんちゃんの言う、やきたての笹かまぼこが買える店に行くが、すでに実演販売は終了していた。お食事処も終了している。
5時まで勝負なのね。
気をつけて歩かないと怖そうな透かし橋をとおって、伊達家のお寺へ。
寺は地味だが、ながめは良い。

ふたたび仙石線で仙台にもどり、夕食をもとめて地下街へ。
和食を希望するウラに「そのほうが消化がよい」という計算があることを、けんちゃんとまさこさんは知らない。
居酒屋風のお店で、せいろ蒸し定食をたのむ。
タイムリミットが近いまさこさんは、出てくるまでの時間をウェイトレスにたずねる。
答えは5分ほど。
5分でくる料理というのは予め用意されてるわけで、まあそんなような味である。
不味かったわけではないんだが。
まさこさんに「こっちは?」と、くいっと一杯ポーズ。イケるクチですよね?
しかし乗換えがあるので新幹線で寝てしまうとマズいとのこと。それはそうだ。
というわけで、売店で仙台銘菓「萩の月」を購入後、まさこさんは新幹線ホームへと消えたのでありました。

で、残されたふたりは当然のようにバーを探して盛り場にくりだすものの、目的の店が見つからない。
居酒屋・スナック・ビアホールはいっぱいあるんだけどね。
やっと一軒見つけて入る。店内のBGMがうるさい。
ま、いっか。
懐かしめのアメリカン・ポップスががんがん鳴る中、ならんでカウンターへ。
メニューを見ると、まず「トリス」が飛び込んでくる。
トリスって飲んだことがないけど、どんな味なんだろ。注文しようかとおもったけど、シングル280円というのは、ちと怖い。
無難にシーバス・リーガルを注文する。

けんちゃんはメニューのIMFORMAITONというつづりにチェックを入れる。
メニューの内容も、分類がサントリー・バーボン・テネシー・スコッチ・アイリッシュとなっている。
さらにアメリカアメリカした内装なのに、あちこちにグレンフィデックを飾ってあるとか、さすがに各方面にヲを張っているだけあって、けんちゃんのチェックは厳しい。
1時間ほど謎さ加減をアテにグラスを傾ける。
会計の段になって、私は細かいものがないなどと言い出し、けんちゃんに支払いを押し付ける(ちゃんと返済したからね)。

んで、ここはドコ?

「歩き回ったから、ホテルへ帰る道が分からない」
「ホンマに?」と、けんちゃん。
ふ、自慢ではないが方向音痴なのである。
念のために言っておくが、けんちゃんをホテルに誘っているわけではない。
結局、けんちゃんにホテルまで送ってもらって、ここで本当にオフは終了。
ありがとうございました。

家に電話をすると、猫がすごく寂しがっているという。
明日は早めに帰ろう。

5月30日(日)

暑い。

病み上がりのせいか、年齢によるものか、もう動きたくない。
猫も待っているし。
と、バスで空港へ。
仙台空港仙台空港は新しくてきれいだ。人は少ない。
ANAのカウンターへ行く。自動チェックイン機はあるが、チケットレス発券はできない。
伊丹のJASではできたのに。こっちの方が近未来的な感じなのに嘘つき(?)だ。
ちなみにANAは確認メールも来なかった。
正午近くの早い便に変更してもらってゲートへ。
伊丹では素通しだった七徳ナイフがひっかかる。
係員はナイフを見ると、うなずいて返してくれた。ええんか、それで?

そんなわけで、見所も大して見てないし、のんびりゆったりしたかというと、そうでもないし、時間を無駄遣いしただけのような気もしたけど、実はかなりストレスがなくなって気分がいい。
腹筋が痛いのだけが難といえば難である。
せっせと牛乳を飲も。

とりあえず、ひさしぶりに猫を見ると、ひとしお可愛い。


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