メルちゃんがやって来た

第一印象はサイアク2003年6月18日。天災のように彼女はやってきた。

とにかく声が悪い。仔猫にあるまじき、しゃがれ声である。るぅも最初、声はつぶれていたが、それはインフルエンザにかかっていたからで、治ってからはあまり鳴かないものの声は良くなった。まゆは声が可愛い。大声だけど、やたらよく鳴くけど、可愛いから許される。

いつもなら出勤している時間だが、その日はたまたま休日だったのがいけない。夕方、家の近くまで帰ってくると、まゆが鳴きながら迎えに出てきた。たまたま外にいたときは、いつもである。が、その声に呼応してモノスゴイ声で鳴きながらオレンジ色の仔猫が走ってきた。母親とはぐれたのか、まゆの後をひっついて、とうとうウチまで入ってきた。猫の戸はまゆしか出入りできないが、玄関を開けたら誰でも入れるわけである。外に出そうとするが、人間の手はいやがって逃げ回る。

まゆはどうしていいか分からないらしい。完全に及び腰になり、仔猫がすり寄ってくるとびっくり眼で前足で牽制しようとする。と、仔猫がドスの利いた声で威嚇音を発した。可愛くないっ。そんなことを繰り返しているうち、仔猫はまゆのご飯皿に気がついた。

るぅも、最初に保護した時の食べっぷりはすごかった。この仔猫もすさまじい。まゆはあまり食べ物に執着のあるほうではないが、自分のご飯皿に顔を突っ込まれているのが気に入らなかったのか、仔猫とご飯皿のあいだに割り込もうとした。仔猫は般若のごとき形相で再び威嚇声を発し、牙を剥いて顔を大きく振ってまゆを退けた。可愛くないっっ。

それですごすごと戻ってくるまゆもまゆだけどね…

カメラをむけると薄めをあけたお腹のくちくなった仔猫は、先刻のやりとりなど忘れた風情で、またまゆに甘えようとした。まゆは前足牽制もせず、なんとカップボードの上に逃げあがり、必死で毛づくろいをやりだした。これはマズい。すぐにつまみ出そうかと思ったが、外は雨で、かなり気温も低い。ちょっと酷かもしれない。とりあえず、仔猫には一切かまわず、無視してすごす。やがて雨があがったころ、仔猫は安心したように眠っていた。悪いけど、まゆが神経衰弱になったり、グレて家出したりすると困る。幸い、まだ人間を頼ることは知らないようだし。と、つまんで外へ。

仔猫はものすごい声をはりあげて泣き叫んだ。まゆが二度ほど出入りしたものだから、猫の戸を必死でひっかいている。私の気配がする方向に、家の周りを走って中に入れろと訴えつづけた。

二日二晩である。

どこかの飼い猫なら返しに行くんだが、と近所で聞き込みをしたところ、お寺に捨てられていた猫らしいということだった。それでは仕方がない。あきらめることにしよう。

ちょっと多すぎた食事と言っても、まゆが心配だ。家のなかではなく、外で飼うことにしようか。庭では雨露がしのげないから、屋根のあるベランダにトイレをふたつおいて、片方は猫砂、片方は布を入れた。ダンボールのほうが良かったかな? 仔猫は初日とはうってかわって、私の足にすりすりしてくる。よほどぬくもりに飢えているらしい。だが、最優先させるのは食欲だ。

つい、いつものくせで適当に皿にご飯を入れたところ、子猫の一食分には多すぎたようだ。多けりゃ残せばいいものを、とにかく詰め込めるだけ食べたらしい。次にみたとき、仔猫のおなかは破れんばかりにまんまるくふくらんでいた。これではノラと同じく胃拡張路線を歩んでしまう。よくよくキャットフードの説明を読めば、仔猫には一日4〜5回にわけて与えろと書いてある。そういやそうだった。忘れてたわ。

さてと、名前を考えねば。

るぅのときも、まゆのときも、命名に理由はない。仔猫を見ているうちに、ふっと頭に浮かんだ名前をつけた。しかし、この仔猫はいくら見ても何も浮かんでこない。仕方がない。オレンジ色の毛からキャラメルを連想したので、メルという名前にすることにした。

一日4回、食事と水の手当てのためにベランダへ行くと、中に入ろうともがく。ご飯を入れると、そっちへ走るので、その隙に私は屋内に引っ込む。毎回その繰り返しだ。仔猫にはスキンシップが必要なのはわかっているが… とりあえずブラッシングをしてみた。しかし、激しくいやがる。排泄はちゃんとトイレでやっている。しつけられているのか、ベランダには他にする場所がないせいなのかはわからない。

何を食べてるの?まゆは、やはり仔猫が気になるのか、たまに私と一緒にベランダへ出てくる。仔猫がご飯を食べているのを近くでじーっと見ていたりする。スキンシップをはかる様子はない。が、そのうち慣れてくれば、メルを家の中に入れてもいいかもしれない。

それにしても、ご飯のときしか現れない人間を待っているのでは退屈だろう。たまには遊んでやらないといけない。で、ひさしぶりにウサギの毛の猫じゃらしを2本と、おなじくウサギの毛で出来たネズミのおもちゃを一個買ってきた。ついでに首輪と。

猫じゃらしに、まゆは激しく反応した。仔猫にもどったようだ。仔猫も大興奮で猫じゃらしをひきちぎろうとする。かなり気が強い。気が強くて力も強ければ怖いものなしだ。これはすぐボロボロになりそうだ。ネズミのおもちゃも気に入ったようだ。…が、まゆも気に入ったりして… 今まで猫じゃらし以外のおもちゃに関心をしめしたことがなかったから、一個しか買ってこなかったのに、まゆがくわえてベランダから飛び下りてしまった。あらら、明日もう一個買ってこなければ。

まゆは仔猫の出現以来、拗ねるわ、怒るわ、ご飯は食べないわ、PC操作の邪魔はするわ、仔猫のように甘えるわで大変である。

で、最初の日から数えて五日目の昨日、私がいつものように深夜に帰宅すると、ベランダから仔猫の声が降ってきた。はやくご飯をくれと催促しているのか。梅雨らしく、遠慮もなしに雨が降っている。ベランダは寒いかもしれない。使い捨てカイロを袋からだし、仔猫のベッド(元はトイレだけど)の布の下に入れてやる。少しは暖かいだろう。ご飯を与えて、階下に下りる。しばらくすると、またにゃーにゃーと訴えるように鳴き始めた。前日と前々日は、ご飯が食べられるだけでよかったのか鳴いていなかったのだが…

欲望と言うものは達成された時点で更なる欲望を生むわけである。

しかも、昨日買った首輪には鈴が2個ついていた。ベランダを歩き回る様子が手にとるようにわかってしまう。あの鈴、とってしまおうかな。まあ、締め出しをくった二日間のように、のべつ鳴きつづけるということはなく、しばらくして声はやんだし、鈴の音も聞こえなくなった。多分、眠ったのだろう。

先行きが不安だ…


2003/06/24

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