トニー・ライスのD−28
私のもっとも好きなブルーグラス・ギタリストであるトニー・ライスの所有するD−28の
仕様(オリジナル・標準でない部分)について記載します。
1935年製D−28、シリアルナンバー 58957
 トニー・ライスの入手経緯
  オリジナル・オーナーは、ポール・ウエストモアランドという人物だといわれている。
  その後、U.C.L.Aの学生(女性)が、L.Aのマッケイブスというギターショップに、
  新しいギターとトレードしようと、下取りに持ち込んだものだということである。その間の
  経緯は不明だが、もしかすると、その女性は、ポール・ウエストモアランドの家族だったの
  かもしれない。そのギターは、ずっと彼女の家にあったものだということである。
  クラレンス・ホワイト(ケンタッキー・カーネルズ、バーズのギタリスト、1973年に
  29才の若さで事故死した。ブルーグラスのリード・ギター、リズム・ギター奏法に革新を
  もたらした伝説的人物)の父親が1959年頃にマッケイブスでこのギターをなんと35ド
  ル(クラレンス・ホワイトの兄、ローランド・ホワイトの記憶によると、25ドル)で購入。
  クラレンス・ホワイトがステージで使用していた。その後、1963年頃に、ケンタッキ
  ー・カーネルズの東海岸ツアーの費用捻出のため、ロサンゼルスの友人で、ジョー・ミラー
  というリカーショップの経営者から借金をした。ところが、そのツアーは成功せず、借金を
  全額返済することができなかった。1966年に、クラレンス・ホワイトがリッキー・ネル
  ソンのバックでエレクトリック・ギターを弾くようになったとき、ジョー・ミラーへの借金
  の返済を、このD−28を渡すことで行った(ローランド・ホワイトの記憶によると、
  500ドルで売却したとのこと)。その後、バーズへの参加で経済的に余裕ができた為、
  買い戻そうとしたが、人間関係のこじれのため、買い戻すことができなかった。
  クラレンス・ホワイトの死後、1975年3月5日に、トニー・ライスがジョー・ミラーか
  ら、これもなんと550ドルでこのギターを購入した。
 
  購入後、1975年に、ランディーウッドにリペアを依頼した。リペア項目は、
   ネックリセット
   フィンガーボードヤスリがけ
   フレット打ち直し
   ホームメイドのブリッジに交換
   (このブリッジが、当時の新品の仕様に近かったため、後に、トニー・ライスがマーチン社
    のマイク・ロングワースに依頼して、オールドマーチンのブリッジを送ってもらい、再度
    交換した。)
 
 ラージ・サウンドホール
  クラレンス・ホワイトの父親がマッケイブスでこのギターを購入したとき、既にサウンドホ
  ールが切り広げられていた。
  (標準が直径4インチであるのに対し、約 4 9/16インチ)
  トップも、かなり薄くなるまでに削られていた。
  (トニー・ライスによれば、このトップの薄さは、当時のD−28の仕様だという。)
 グレッチ・フィンガーボード
  クラレンス・ホワイトの父親がマッケイブスでこのギターを購入したとき、このギターには
  フィンガーボードが付いていなかった。そのため、マッケイブスでフィンガーボードを取り
  付けてもらった。それがグレッチのものであり、それには、フレットの切り込みが入ってい
  た。そのため、このギターのスケールはグレッチ方式となり、マーチンのスケール(25.4
  インチ)より少し短い(約 25 1/4インチ)。フィンガーボードにはインレイが無く、
  フレット数は、標準20フレットに対し1フレット多く、21フレット。
  ローランド・ホワイトの記憶は上記と少し違う。ギター購入の時、フィンガーボードは付いて
  いたが、1フレットから切り離されており、そのフィンガーボードがテープで固定されていた。
  そのギターにグレッチのフィンガーボードを取り付けたのは、リペアマンのミルト・オウエンズ
  であったとのことである。
 ヘッドストックロゴ無し
  クラレンス・ホワイト使用時からロゴは無かった。
 ペグ
  トニー・ライスが購入するまで、3弦のペグがオリジナルでなく、すぐにすり減ってしまっ
  たためトニー・ライスがオリジナルに交換したとのこと。
  (私は、現在のペグもすべてオリジナルではないと思う。憶測だが、別のギター(多分グレ
   ッチ)に付いていたものを、マッケイブスもしくはミルト・オウエンズが取り付けたのでは
   ないかと思う。)
 ブリッジ・プレート
  トニー・ライスが交換した。
 ブリッジ
  トニー・ライスが交換した。
 ナット・サドル
  1981年に牛骨に交換。
 ピックガード
  トニー・ライスが本べっこう製に交換。
  このピックガードは、1985年の日本ツアーの時、日本人からプレゼントされたもの。
 サイド・バック
  マーチン社の調査によると、別の楽器のものと交換されている可能性があるとのこと。
 ブリッジ・ピン
  パール・ドット入りのエボニー製のものが使われ、ブリッジの上面近くまで深く差し込まれている。
 ナット部分のフィンガーボードの幅
  当時の標準が 1 3/4インチであるのに対し、1 5/8インチ。
 
 トニー・ライスが使用しているD−28は、様々なメーカーがレプリカを製作している。
マーチン社においても、数種類のラージ・サウンドホール・モデルを発表しており、特に、
D−28CW(B)(スペシャルエディションD−28、ビンテージ・シリーズ、カスタム・シリ
ーズ他のページ参照)は、トニー・ライスモデルと言っても過言ではない。
ちなみに、他に、以下のギター・メーカーがトニー・ライス・レプリカ・モデルを製作している。
・サンタ・クルーズ(「サンタ・クルーズ・トニー・ライス・モデル」)
・コリングス(クラレンス・ホワイト・モデル、Winfield)
・トーカイ(CE1000S、TCM120S、CE150S)
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