昨年12月以来の中国出張で上海にやって来た。上海は商業都市として発展めざましく、中国を代表する大都市である。昨日で無事に仕事も終了し、今日(2004年9月5日)は、15:55発のJAL610便で日本に帰国するだけである。14時過ぎに空港へ到着すれば充分なので、上海の地下鉄に乗ってみようと思う。
宿泊しているホテルのチェックアウトが12:00なので、それまで身軽な状態で出来るだけ乗っておきたい。朝食を速攻で済ませた後、ホテル最寄りの「漕宝路」駅に駆けつける。
地下鉄の運賃は安く、初乗り2元(約26円)。購入可能なのは1号線および2号線の各駅まで。3号線の営業も行なわれているのであるが、3号線各駅までの通し切符は見当たらなかった。最遠の駅となる2号線の張江高科駅までの運賃は5元(約65円)。窓口か自動券売機での購入となるが、自動券売機は1元と5角(0.5元)の硬貨のみ使用でき、紙幣は使用できない。このため窓口はいつも混雑している。
また日本の自動券売機の使い方と異なり、まず購入する金額ボタンを押してからお金を投入しないと、自動券売機が硬貨を受け付けず、スルーで戻ってくる。世界を見渡すと、行き先を先に指定したあと、お金を投入するやり形がスタンダードである。JR東日本の自動券売機も、高機能化にあわせて、行き先を先に指定するやり形に変わってきているが、当時は戸惑ったものである。
上海鉄道路線図
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まずはインツァンへ向かうべく3元のボタンを押して硬貨を投入する。券売機からはプラスティック素地の乗車券が出てきた。繰り返し使用しているので、よく見るとカードに細かい傷がある。
改札を抜け、ホームに降りると、行き先案内板のモニターが天井からぶら下がり、次の列車の発車時刻までの時間を秒単位でカウントダウンしている。
中国の運行ダイヤが1秒単位とは思えないが、随分とせっかちなダイヤ設定である。カウントダウンの数値を眺めていると、この時間帯は上海駅方面は4分間隔、インツァン方面は7分間隔の運行となっていた。日曜日の朝なので、混雑も大したこと無いと思ったが、上海駅方面行きは、ギュウギュウ詰めで、日本のラッシュを思わせる光景であった。荷物をホテルにおいてきたのは正解である。
程なくインツァン行きの電車もやってくる。こちらも立ち客がいる盛況ぶりである。地鉄1号線は、上海市内の中心部を走行することから、大阪の御堂筋線のような機能を持っているのだと思われる。私もインツァン行き電車に乗り込み、インツァンへ向う。
電車は、すぐに地上に出て上海南駅に到着する。地図を見ると、この駅は国鉄線の上海南駅に近接するので連絡駅としての機能があるはずだが、国鉄上海南駅がある方向には、ブルドーザーやショベルカーが忙しそうに動き回っており、土も深く掘り返されており、駅は影も形もない。
状況から見て、国鉄上海南駅は運休中で、2010年の上海万博に向けて再開発工事を行っていると想定される。
新宿駅での甲州街道架橋架け替え工事にあわせて、新宿駅構内の配線切替工事を行なった際、1日特急「あずさ」や「かいじ」を、中野発着で運行したことがあるが、この状態が長期に渡って行なわれているようなモノであろう。日本ではちょっと考えられない。如何にも大陸的なスケールである。
上海南駅から地上区間の走行となり、漕宝路から約15分でインツァン駅に到着した。地上区間の各駅は対面式ホームで改札が別々。もし、間違えて乗り越した場合、一旦改札を出ないと目的地まで戻れない構造になっている。地下ホームは島式だったので、乗り過ごさないように注意しないといけない。思い起こせば、韓国の地下鉄も同様の構造であった。
1号線の南端部の乗り潰しが終わったので、次は3号線の乗り潰しを行うべく、3号線の始発となる上海南駅までの乗車券を購入する。出てきた乗車券は、電車の絵がついた広告カードであった。
地鉄1号線
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上海軌道交通5号線
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5号線の乗車券
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5号線車内
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ふと、構内を見渡すと上海軌道交通5号線乗り場の案内が目に入った。上海軌道交通5号線は2003年11月に開業した新しい地下鉄路線である。前夜、インターネットで上海の地下鉄路線について調べたが、「上海軌道交通5号線が開業した」との情報を見つけたが、地下鉄の路線図には見当たらず何処を走っている路線かわからなかった。このため乗車をあきらめていたのだが、不意をつかれた。
予定外とは云え、目の前に未乗の路線があるのに乗らないのも癪である。予定を変更して急遽、上海軌道交通5号線に乗車することにする。
上海軌道交通5号線の運賃は1号線とは別払いで、独立した切符売り場がある。見た目は同じ軌道交通の営業のようであるが、運営会社が既存路線とは異なるからである。筆談で終点の閔行開発区までの乗車券を購入する。値段は3元でペラペラの紙券が出てきた。改札を抜けホームに上ると新しい電車が停車していたので、早速乗車する。
車両は1号線と比べると4両編成で、車体幅も小振りである。実際に5cm程度縮まっているそうで、座席数も少ない。なんとなく、新交通システムのようであると思ったが、実際に地下鉄線と比較して輸送量が落ちることから、速度も落として建設費、運営費のコストダウンを図っているそうである。しかし、軌間1435mm、直流1500Vの架線終電方式なので、インツァンで接続する1号線との相互乗り入れも物理的には可能であるようだ。
車内は空席が目立ち、沿線も空き地ばかりで発展途上といった感じ。鉄道の布設にあわせて沿線開発を行うのであろう。今は経営的には苦しいと思われる。約30分で、閔行開発区に到着。わずかばかりの乗客が降りてしまえば、駅周辺は閑散としている。
閔行開発区駅
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上海南駅からホテルに戻る途中に見かけた旅行会社
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私も特に目的があるわけで無いので、すぐに乗車券を購入してインツァンに折り返す。インツァンに戻れば、南のターミナル駅と云う事もあり人混みいっぱいであった。先ほど購入した乗車券で、1号線改札を通り、上海南駅へ向う。
上海南駅で下車してみれば、行きに車内から見た様子では、国鉄上海南駅は姿形が無かったが、地鉄3号線の乗り場案内も見当たらず、工事用の仕切り壁しか存在しなかった。昨夜入手した上海市内の地図では、すぐ近くにあるはずなのであるが、地鉄3号線も国鉄上海南駅の工事にあわせて、営業休止しているようである。
計画では、このあと3号線で、中山公園→人民広場→漕宝路と乗るつもりであったが、当てが外れてしまった。
仕方ないので、乗り潰しを諦め、一端ホテルに歩いて戻る。途中で見かけた旅行会社の看板を見ると、色は変えているものの、明らかに日本の0系をパクった新幹線が描かれていた。
模倣大国中国を象徴するような看板であり、思わず失笑する。
荷物をまとめ、ホテルをチェックアウトしたあと、1号線の北側路線の乗り潰しを始める。
朝は大変混雑していたが、昼前の時間帯でも混雑している。2号線との乗換駅である人民広場で一端空いたが、乗り込む乗客も多く、ずっと混雑が続いた状態で、約25分後に終点の上海駅に到着した。
将来的には1号線は上海駅を超え、奉和路まで延伸される予定になっているが、2004年当時は上海駅が終点であり、1号線はひとまず完乗となる。
ここで、国鉄駅構内の様子を覗いて見る。待合室には人が溢れ、きっぷ売り場も長蛇の列である。列車の姿を拝みたいと思ったが、簡単にはホームに入れないので、売店を覗いて見る。昨年、シンセン駅では発見できなかった時刻表を発見したので、迷わず購入。中を見ると漢字ばかりであったが、良い記念品となる。
構内の案内に従い、3号線の乗り場へ向う。3号線の乗り場は遠く、約10分ほど歩いてようやく到着。自動券売機で磁気テープ入りの乗車券を購入し、江湾鎮へ向う。やってきた車両はフランス・アルストム社製の流線型の車両である。さすがにデザインは洗礼されている。
地鉄3号線
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3号線の乗車券
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国鉄線車両基地を眼下に見る
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3号線は高架で、上海駅を出ると、右手に国鉄線の車両基地が寄り添い、併走する。眼下に広がる光景は涎モノである。客車列車が入れ替えをしている様子が見られた。
次の宝山路では、建設中の4号線が分離する。4号線が開通すると3号線の宝山路〜宣山路を共用した完乗運転が可能な路線となる予定である。車窓からは建設中の高架橋が見えた。いずれまた、乗車する機会もあるであろう。
上海駅から約13分で北の終点である江湾鎮に到着。すぐに折り返し、2号線との接続駅である中山公園駅までの乗車券を購入する。本来であれば、終点の石龍路までの乗車券を購入したいところなのだが、時間的に厳しいと判断し、泣く泣く中山公園までとする。上海の地下鉄は4号線の開通や1号線、2号線の延伸も予定されていることから、再訪する機会があれば、乗り潰す機会も生まれるであろう。
途中、上海駅付近では国鉄線に添うように走行する。何か列車が走ってこないかなぁ?と思ったが、見かけなかった。江湾鎮から約25分で中山公園に到着。3号線は中山公園まで、ずっと高架であった。
中山公園で地下の2号線に乗り換え、2号線の全線完乗を目指す。2号線も1号線と同様に中心部の人民広場を通る路線なので、途中の乗降は多い路線であった。浦東国際空港へ直結する磁気浮上鉄道(上海リニア/マグレブ)が接続する龍陽路で、ほとんどの乗客が下車する。まもなく地上に出ると車窓にマグレブの高架橋が見える。マグレブが走っていないかなぁと思ったが、見あたらなかった。中山公園から約30分で、東側の終点の張江高科に到着する。2号線はこの張江高科のみが高架駅であった。
地鉄2号線
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張江高科駅
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車窓からマグレブ線が見える
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磁気浮上鉄道(マグレブ)龍陽路駅
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折り返し1駅、龍陽路に戻り磁気浮上鉄道(上海リニア/マグレブ)に乗り換える。日本では「上海リニア」での通りがよいか、世界的には「リニア」では意味が通じなく、「マグレブ」と呼ぶのが正しい。この「マグレブ」は、世界最速の時速430km/hで走行する鉄道として一度は乗車して見たい乗り物として有名である。
3日前、上海に到着した時に体験乗車しているのであるが、今度は自分の力での乗車となる。浦東空港までの料金は、一般席で50元、1等100元と、ホテルからここまでの地下鉄運賃が5元だったのと比べると目玉が飛び出るくらいに高い。先日、空港に迎えに来ていただいた人の話に寄れば、普通はタクシーを使い、こんな高い乗り物には乗らないとのこと。
実は当日の航空券を持っていると、50元の運賃が40元に割引になるらしいのであるが、当時は知らなかった。
上海マグレブの運転間隔は日中15分間隔で、片道7分程度の所要時間であることから、2本の編成が行ったり来たりする事になる。次の発車は13時00分である。
ホームにあがって、間もなくマグレブが入線し、わずかばかりの乗客を降ろして折り返しの清掃作業となる。
間もなく、乗車時間となり車内に乗り込む。一般席は片側3人掛けで、フル乗車だと狭くてしょうがないと思われるが、空いているので、広々と利用でき快適である。定刻13時00分、若干車体が浮いた感じがしたと思ったら、転がるように加速を開始。
車内のスピードメータは、発車時点からの時刻を表示し、あわせてデジタル表示の速度計の数字が上昇していく。
時速300km/hを超えると、日本では味わえない未知の領域の速度となる。マグレブは空気を切り裂くように飛び、隣の高速を走行する車をあっという間に追い抜いていくという表現がぴったりである。空気を切り裂く振動が伝わってくることから、外部の騒音も物凄いのであろう。その影響からか、早朝及び17時以降、マグレブの最高速度は300km/hに制限されているそうである。
発車3分40秒後に、スピードメータは431km/hを表示する。車窓を見てみると「速い」の一言に尽きます。約15秒間表示続けた後、減速を開始すると前方に空港が見えてくる。スピードメータは300km/hを示しているが、「随分遅くなった」との感じで、200km/hまで落ちると、「もう止まりそう!」という感触である。随分と、スピード間隔を麻痺させる乗り物ですね。(笑)
日本の山梨実験線のリニアの試乗会には当たらなかったが、その憂さを少し晴らした気分である。
マグレブは定刻に浦東国際空港駅に到着。降車ホームの人影は疎らであるが、何人かは記念撮影を行い、世界最高速の鉄道の旅を堪能した余韻に浸っておりました。
私も名残惜しいですが、航空会社の受付カウンターへ。マグレブも折り返し整備後、龍陽路へ向けて発車していった。
磁気浮上鉄道(マグレブ)
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座席は3+3
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流れるように走行 |
431km/hを表示
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その後の、上海の発展は目覚しく地下鉄網の整備は進み、2号線は虹橋空港から浦東空港を結ぶ路線となり、1号線や3号線の延伸、4号線や新規路線の開業が相次ぎ、東京を超える距離の地下鉄線の整備が進められている。また、機会があれば乗りたいと思っている。