What is Alexander Technique?アレクサンダー・テクニークってなに?アレクサンダー・テクニーク(以下AT)ということばに、私が初めて出くわしたのは1995年頃のことだ。スイス・ロマンド管首席ホルン奏者グレゴリー・ケース Gregory Cass のリサイタルCD - CORNISSIMO - の解説文のなかに次のような記述があった。
20世紀初頭、シェークスピア俳優のフレデリック・アレクサンダー Frederick Matthias Alexander (1869-1955) は、あるとき舞台で声が出なくなってしまった。彼はその後、習慣化してしまっている間違った身体の使い方(mis-use)を見直し改善する方法を考案した。これがアレクサンダー・テクニークの始まりである。ATのレッスンでは、声の出し方・呼吸の仕方・姿勢など、自分自身の身体の使い方を見直す。「アレクサンダー・テクニックの世界」というウェブサイトを管理する葛西俊治さんはレッスンについて、「一般の人に対しても良い効果があるが、バレーやモダンのダンサーや俳優がレッスンを受けた場合、その場で自分の身体の変化を実感して、ショックを受けることが多いという。どちらというと、俳優と演奏者は、呼吸や小さな動作の相違がパフォーマンスを大きく左右するので、その効果を認識しやすい」という。 アレクサンダー・テクニック・センター スタジオKを主宰する芳野香さんによると、ATは欧米の芸術関係(演劇、音楽、舞踊)の大学では授業に取り入れられており、イギリスの国立演劇学校では授業の半分をAT教師たちに委ねているという。芳野さんはATとパフォーマンスの関係について、「自分が納得出来る演奏をするためには、フィジカルな体力の充実もさる事ながら、自分の実力を発揮するために『余計なことを如何にしないか』ということ」が重要で、そのためには「自分自身の持ち味を正しく理解する必要」があり、そのプロセスを助けるのがATのレッスンであるという。 アレクサンダー・テクニックとホルン演奏ATは、金管楽器の演奏法というような限定された「テクニック」ではない。日本での認知度はまだまだ低いものの、欧米ではかなり一般に知られており、実際にATを取り入れている音楽家も少なくない。ATのホルン演奏への応用については、国際ホルン・ワークショップでもたびたび取り上げられている。ホルン・メーリングリストへの投稿の中で「演奏家(あるいは俳優、歌手、ダンサー)がATをパフォーマンスに取り入れると、立っていることや動作が楽にスムーズにできるようになる」、「ATのレッスンを受けると、禅の無我の境地にも似た平静さと心の安らぎが得られる」と言っているホルン奏者もいる。AT教師の資格を持つホルン奏者には、 Prof. Pip Eastop (Royal Academy of Music, Royal College of Music), Allen Spanjer (New York Philharmonic > Musicians) がいる。前者はホームページのなかにATと呼吸に関する興味深い記事を載せている。 演奏姿勢は呼吸に大きく影響する。誤った姿勢や呼吸法では良い演奏は望めない。高音域を吹くときに、どこかに無駄な力が入っていないだろうか。楽器の練習の後に肩がこる人は、演奏姿勢や楽器の持ち方をチェックする必要があるだろう。ホルンの左手の小指フックの位置が遠すぎたり、ホルンに溜まった水を抜くときに片手で重い楽器を振り回すといった行為も、習慣になるといろんな問題の原因になる可能性がある。 日常生活でも必要以上に筋肉が緊張すると動作がぎこちなくなり、それが長く続けば肩こりや腰痛の原因になることは、誰でも経験的に知っている。私自身、数年来左の肩にこりと痛みを感じており、整形外科医やカイロプラクティックに行ってみたがまったく効果がなかった。ホルンの練習の後は特に肩がこった。ATについて調べていくうちに、肩の痛みも、ATでいうところの間違った身体の使い方(mis-use)が原因と考えると納得がいく。ATでは実際のレッスンが不可欠とされるが、私自身はレッスンの経験はない。機会があればレッスンを受けてみたいものだ。
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Last Update:01/05/13
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