マウスピースの選び方

たかがマウスピース、されどマウスピース


ホルン吹きが集まると必ずマウスピースの話題が出ます。たくさんの種類のマウスピースから、自分に最適のものを選ぶためには、その構造と演奏や音への影響を知ることが大切です。

マウスピース比較対照表

リム

マウスピース選びは、直接唇に触れるリムから始めるとよい。まったく違ったタイプのリムでは混乱するばかりなので、使い慣れたマウスピースのリムを基準に、最低1、2点の共通点があるものから試してみる。この時、マウスピースだけでバズィングしてみる。楽器をつけると様々な要素が一遍に絡むので、何が適当なのかわかりにくいときがあるからだ。

リムは、厚みが中くらいで、あまり平たくないものの方がよい。薄くて角に丸みのあるリムは、一般に、唇が中に入りこみすぎてしまい、長時間吹くことには不利になる。しかし、薄いリムはそれだけシャープな感触が得られるから、それほどプレスしなくても吹けるようになり、必ずしもバテやすいとはいえないという意見もある。

市販のマウスピースのリムカンターは、概ね4種類のタイプ(図)に分類することができよう。個人個人の歯や口の形、唇の厚さにより、リムの感触と演奏のしやすさを考えて選ぶことになる。

  • 丸みを帯びたリム(ラウンド・タイプのカンター)は、柔軟性があり、持久性もほどほど。
  • 平たいリム(クッション・タイプのカンター)は、持久力は増すが、柔軟性に限界がある。音色がにぶく、繊細さがなくなる傾向も。特に高音域で正確な音を出すことが難しい。
  • ジャルディネリCシリーズのような、リバース・ピークのカンターは、リムは狭いが、グリップが広いのが特徴。ある種の歯並びの人には使いやすい。
  • ラウンドとクッション・タイプの中間に位置するオーバル・タイプ(小判形)のカンターは、オールラウンドで、持久性、柔軟性、アタックの明確さのいずれにおいても平均的。

リムのバイト(内縁)は、あまり角が立っていてもいけないが、逆に、あまり滑らかに丸みを帯びているものもよくない。アタックが鮮明に出ない人は、リムのバイト(内縁)がシャープな方がよい。逆にバイトが丸く落ちているものはレガートに有利。下唇の内側の赤い部分にリムの外縁を当てる Einsetzen のアンブシュアの人は、リム外縁が丸みを帯びたものが使いやすい。


カップ

カップの深さや幅は、直接音色に影響を与える。浅いカップほど明るい音色になり、特に高音の音色が柔らかくなる。当然、深いカップであれば、これと反対の結果を生む。

カップの内側の形状は、ショルダー部分の処理の仕方によって、概ね3つのタイプに分類でき、それぞれ音色や吹き心地が違う。しかし、ホルンの場合、カップ形状はトランペットのように顕著な差があるわけではない。カップの形状よりも、その容量の方が重要という説もある。

Concave

U字型

  • アレキサンダーなどのドイツ系に多い。
  • 最もポピュラーでスタンダード。
  • ブライトな音色。よく響く。
  • 高音に有利。
  • 抵抗があり疲れにくい。
Straight

V字型

  • アメリカ系のスロートの大きいマウスピース。
  • ウィンナホルンで使用される。
  • ダークな音色。太く、暗く、丸みを帯びた音色。
  • 低音が楽。
  • 抵抗が少なく、耐久力が要求される(息のコントロールを学ぶのには有利)。
Convex

ショルダーがないタイプ

  • 19世紀のマウスピースに多いタイプ
  • ウィンナホルンでも使われる
  • ピツカ、ストーク(マイヤース・モデル)、ホルトンXDC

カップの肉厚

ナチュラルホルンの時代、マウスピースは金属シートから作られた。金属の固まりを削り出して作る今日のものと比べ、カップの“壁”が薄い。PHCマウスピースの開発者で、ナチュラルホルンの名手でもあるアントニー・ハルステッドによれば、この種のマウスピースはエネルギーを消費して疲れやすく、大きな音量が出ないという。“ヘヴィー・カップ”はこうした問題を解決するものだが、しかしこれも行き過ぎは問題があるようだ。


ボアー

ボアーの大小も音色に影響を与える。太いボアーは、チューバに似た太い音色になり、音の集中性(フォーカス)を失いやすく、音がぬけなくなる。また、ボアーが細すぎると、トランペットのような金属的な音色になる。結局、どちらにしても、ホルン特有のあの柔らかな音色と、豊かな音量は求められない。


シャンク

マウスピース・レシーバーにマウスピースを挿入した際、シャンクの先端とマウスピースの先端がピタリと一致していなければならない。ホルンのマウスピースのシャンクとマウスピース・レシーバーのテーパーには、大きく分けてアメリカン・タイプとヨーロピアン・タイプの二種類がある。楽器と適合しないと、息漏れや音のバランスの低下を招く場合があり要注意。具体的には、ホルトンのホルンH179(アメリカン)にアレキサンダーのマウスピース8F(ヨーロピアン)といった組み合わせは避けた方が無難だ。ただし、テーパーは必ずしも厳密な規格ではなく、ヨーロッパの奏者の中にも、アレキサンダーのホルンにヴィンセント・バックのマウスピースを組み合わせるといったケースもある。

タイプ 採用メーカー テーパー
アメリカン・タイプ 日本・アメリカ・イギリス各メーカー 5/100のテーパー
(1ミリ横軸に移動して5/100の勾配をもつ)
ヨーロピアン・タイプ ドイツ系メーカー 3/100


楽器との相性、演奏スタイル

アレキサンダーのマウスピースは概してスロート径が小さく、逆にアメリカ系はスロートが大きい。これは本来組み合わされる楽器の特性と演奏スタイルに関係がある。ムースウッドのトーマス・グリアーのように、「この種類のホルンにはこのタイプのマウスピース」というコンセプト(horn-specific)を明確にしている製作者もいる。

アメリカでもっともポピュラーが楽器はコーン8Dだろう。ニューヨーク・フィルにいたジェームス・チェンバースのマウスピースのコピーは、現在、ジャルディネリ、ストーク、ブラックなど、多くのメーカーが製作している。往年のアメリカン・サウンドはこうした楽器とマウスピースの組み合わせから生まれたといっていい。

ウィンナホルンには、伝統的にボアーが太く抵抗の少ないマウスピースが使用される。アレキサンダーに代表されるドイツの楽器に使用されるマウスピースは、概してスロート径が小さく、U字型のカップが使用されることが多いようだ。特にアレキサンダー103は組み合わせるマウスピースが難しいというひともいる。逆にいえば、103には、定番のアレキサンダー8番やティルツのS8が無難ともいえる。


最後は奏者自身である

あくまでもマウスピース選びは個人的な問題だ。ある人にとって最良のマウスピースが他人にも良い結果をもたらすとは限らない。奏者とマウスピースとホルンの3つがうまくマッチすることが理想だろう。

私がマウスピースについて付け加えたい忠告は、「よいものを選んで、それを長い間続けて使う」ということである。(中略)すべての問題を解決してくれるようなマウスピースはない、というのが事実であろう。ただ、練習を重ね、そういった不完全さを耐えて進んで行くことが、問題を解決する唯一の方法であろう。(ガンサー・シュラー:資料1

一般的に言えることは、大きな内径のマウスピースは柔軟性に富み、中低音域を担当する奏者向きで、ややカップ状のものは高音域で奏者を助けてくれる。しかし、最終的な選択は奏者に委ねられている。ホルン奏者はしばしば楽器を換えるが、同じマウスピースから離れない傾向がある。演奏家として生涯それを使い続ける人もいる。使い慣れたマウスピースは奏者の身体の一部になり、別のものに換えることは考えられなくなるからだ。一方で、ほとんどの奏者は、普通、初期の段階で、「完全なマウスピース」を探す時期を経験する。しかし、最後には楽器をコントロールするのは奏者自身であるという現実に直面する。マウスピースは召し使いに過ぎないのだ。完全なマウスピースはない。奏者の特定の弱点のみを克服することを助けるものよりも、オーソドックスなマウスピースが常に好ましい。(バリー・タックウェル:資料4


チェック項目

最低音域から最高音域までを吹いてみる。

電子チューナーで開放倍音のイントネーションをチェック。

オープンの倍音列、特に低音域を演奏してみる。

オクターブのスラー。下のソから第二線のソ、ソ#、ラ、・・・、各オクターブの間隔は正しいか。

五線の中の音が楽に吹け、その音を持続できるか。それぞれの音が転ばずに各音程に収まるか(ピッチに音がはまるか、それともイントネーションが簡単に変化するか)。

クリーンでクリヤーな音か。望みどおりのブライトまたはダークな音色か(ブライト、ダークはそれぞれホルンの音色を構成する要素で、演奏する場所によっても異なる)。

ダークな音色を持つ奏者は、より抵抗のある容量の小さいマウスピースを使用することによって、音色がブライトになり、周囲と合わせやすくなる。フリーブローイング(息が楽に入る)のマウスピースは、ダークな音色を求めるブライトな音色の奏者を助ける。モーツァルトとマーラーでは要求される音色が違ってくる。このときに同じリムを持つ第二のマウスピースがあると切り替えが楽になる。

ピアノとピアニッシモのアタック。特に高音域で試してみる。音色は変わらないか。

パワーのチェック。全ての音域で小さい音から大きい音まで、クレシェンドとディミヌエンドのロングトーン。

フォルテとフォルティシモのパッセージ、中低音域、高音域。音はしっかりしているか。音が遠くまで届くか。エッジに過不足はないか。フォルティシモでは充分な抵抗があるか、また息が入っているのが感じられるか。

音色と遠達性(プロジェクション)をテストするには、信頼のおける同僚からホールの客席で聴いてもらう(または、録音してサウンドと音色をチェック)。

いくつかの曲の抜粋。

アンサンブルでの演奏で最終テスト。自分の音が聞こえるか。自分の音は他の奏者に聞こえているか。マウスピースとホルンの組み合わせが、アンサンブルを楽に、そして楽しいものにしているか。よくブレンドしているか(セクション、金管、木管、弦楽器、伴奏者と)。


文献 / リンク

文献:

  1. ガンサー・シュラー著/西岡信雄訳:ホルンのテクニック、音楽之友社、1965年第1刷発行)
  2. パイパーズ 1983年12月号 「安原正幸のワンポイントアドバイス」
  3. パイパーズ 1983年12月号 「Hrマウスピース各社対照一覧」)
  4. Barry Tuckwell: Horn, Yehdi Menuhin Music Guides. MacDonald, 1983

リンク:

Osmun Music Inc.


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Last Update: 01/09/01
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