大阪シンフォニカー 第59回定期演奏会

日  時
1998年10月2日(金)午後7:00開演

場  所
ザ・シンフォニーホール

演  奏
大阪シンフォニカー

指  揮
トーマス・ザンデルリンク

Pf独奏
エリック・ハイドシュック

曲  目
1.ベートーベン…ピアノ協奏曲第1番ハ長調
2.ブルックナー…交響曲第7番ホ長調(1883年/ノヴァーク版)

座  席
1階E列21番(A席)


演奏会感想

§はじめに§

 5時ちょうどに現場を適当なこと言ってふける。それから愛車のクーペ・フィアットに飛び乗り、西宮北から中国道に入った。順調に車は流れ、これなら1時間位でホールのある福島に着くぞと思った。

 ところが池田から阪神高速に乗り換えたとき、料金所をくぐるや否やピタリと車は動かなくなった。渋滞だ。ラジオの交通情報にダイヤルを合わせる。なになに……「只今、塚本出口付近で大型トレーラーが燃料切れの為立ち往生しております。市内まで50分……」 時計を見る。今6時5分。開演7時……。うおおおっそのトレーラーぶっ殺す!

 しかし天は我を見捨てなかった。5時55分にシンフォニーホールの地下駐車場に滑り込むと車を降り、階段を駆け昇り、受付を抜けてホールに突撃、ギリギリセーフ。すでに何人かの楽団の人がステージに上がっていたが何とか間に合った。一時はピアノ協奏曲を諦めかけていたが、ホントに良かった良かった。

 座席は1階の前から5列目ド真ん中。ステージが異様に近い。ステージ中央にデンと置かれたスタンウェイのピアノに写り込んだ自分の顔がキュートだった。大嘘。でも前過ぎてピアノしか見えないのは本当。

 さて今日の指揮者はドイツ音楽を体現する数少ない大指揮者クルト・ザンデルリンク! じゃなくてその息子のトーマス・ザンデルリンクさん。大阪シンフォニカーとは音楽監督として6年のつきあいだそうだ。今年56歳、さてどんな指揮ぶりか楽しみにしよう。

 またピアニストのエリック・ハイドシェックさんは、若い頃にフランス音楽期待の星としてブイブイいわしていたのに、70年代後半からぱったりとレコード界から姿を消して、人々から忘れ去られた存在となった。ところが89年9月の宇和島公演のライブ盤がバカ売れしてメディアに復活した。今年62歳。日本にもしょっちゅう来てくれる、ベートーベン弾きのフランス人。……と言うのをプログラムで読んだ。ああ、この話聞いたことあるわ。ほー、今日はそんな人が出るのか(無礼)。

 観客席は若干空席の見える感じで8割ほどの入りかな? ブルックナーがメインなのに女性のお客さんが多いのにビックリ。この人はみんなハイドシェックさん目当てか。後半でこの人らがどんな反応を示すか楽しみだ。

 私が席についてすぐにコンマスが入ってきて会場から拍手が起こる。続いてコンダクター、そしてソリストが入場。とても大きな拍手。指揮者が指揮台に登るがピアノの陰に隠れて見えない。オケも第1ヴァイオリンとチェロしか見えなかった。仕方ないピアノに集中するか。

  1. ベートーベン…ピアノ協奏曲第1番ハ長調

     実はこの曲よく知らない。「皇帝」ならよく知ってるが(誰だってそうだ)、なんでもベートーベン2つ目のピアノ協奏曲なんだそうだ(1つ目は2番)この時はまだ交響曲第1番は完成していない。私は「どうせ若書きの曲だからハイドンみたいで20分程のものだろう」と高を括っていたら堂々とした40分位ある大コンチェルトでした。ごめんルードウィッヒ。

     ポーンとハイドシェックさんピアノの第1声。軽やかだけど芯のある音。さすがおフランスの人、フォルテでもドイツ流みたいな「ドーン」ではなくて「パーン」という感じだった。音量もオケと同等に鳴らしていて迫力充分、それでいて少しもうるさくない。

     ピアノばっかりしか見えないのは寂しいので、ステージ両サイドにある出窓みたいなガラスをみたら、そこにザンデルリンクさんの指揮姿が映っていた。なんか踊っているみたい。音楽に没入して指揮をしていました。

     無理にオケに合わせようとせず自由に(といっても他の楽器とのユニゾンはしっかり指揮者を見ていましたよ)ピアノを歌わせるハイドシェックさん。優雅さが滲む流暢さの中にもベートーベンに不可欠なかちっとした構成感はばっちりでとても楽しい演奏でした。このコンチェルトの終楽章がベートーベンらしくなくモーツァルトみたいのはご愛敬。

     あんまりにもしつこく拍手をするもんだから、ハイドシュックさんアンコールを2曲もやってくれました。1曲目は「今日トーマス(・ザンデルリンク)の誕生日だから」というので「ハッピーバースデイ トゥ トーマス」を弾いてくれました、思いっきり短調で。笑いをひとつ取った所でもう1回繰り返したが、その時は哀愁の漂うエレジー風の即興になっていてうーんと唸ってしまった。2曲目は「モーツァルト作曲ピアノソナタ2番よりアダージョ」だった。「シチリアーノ」と聞こえたが曲名のことか第2楽章のことかよく分からなかった。これもしみじみとして良かった。

     休憩時間あまりに腹が減ったのでラウンジへ行ってサンドウィッチを食った。800円也。食パン3枚位の分量でこの値段はちょっと高い。しかも乾いてパリパリ。くーーっ(涙)。

     ロビーの所を通りかかると汚い踏み台が置いてあった。「新しい指揮台を買うための寄付を!」・・・・・・なんでも練習場用の指揮台が古くなったんですってよ。呼びかけの文には色々泣かす文句が書いてあった。けどあれぐらいので10万以上もすんのか? 近所の大工に頼んだら5、6万でやってくれそうな気がするが・・・・・・。みなさんも一発寄付なんかどうですか?

  2. ブルックナー…交響曲第7番ホ長調(1883年/ノヴァーク版)

     休憩から帰ってくるといきなりステージの椅子が増えていたのでびっくりした。すでに何人かの団員はブカブカ楽器を温めていた。大太鼓、シンバル、トライアングルがあったのでアダージョでこれをぶち鳴らすのだろう。プログラムの楽団史にマーラーの1番を去年やったことが書いてあったから、今回のブルックナーは大阪シンフォニカーにとって(ひょっとしたらザンデルリンクさんにとっても)ひとつの挑戦なのであろう。

     大阪ではブルックナーは朝日奈隆爺がデフォルトなのでほかの人は大変である(現に外来のドイツオーケストラを含め他のオケはなぜかブルックナーを取り上げることが少ない、東京じゃけっこうやるのに)。私もこの曲はソラで歌える位入れ込んだ曲だ。今回ここに来たのもこの曲を聞く為と言っても過言ではない。さてどんなブルックナーを聞かせてくれるのだろう……。

     編成は弦が5,5,4,4,3プルト(弦楽器は2人1組で演奏します、その1組をプルトと言います)で木管が2管の総勢70人。さっきのコンチェルトとはえらい違う。さて、演奏の方は朝比奈流の大河のごとき演奏と違って一つ一つの旋律線をくっきりと歌い出すやり方でした。その旋律も自由に動かしていました。さすがに忘我の境地という所までは行かないな(無理だって……)。

     この曲は意外と管楽器の出番は8番とかと比べると少なく、弦中心で進められて行きます。だから初めて金管パワーが爆発する第1楽章の終わりがどうなるかと思っていたら、やっぱりまだ楽器が温まっていないのか爆発とまでは行かなかった。ただティンパニーが音は少々軽かったものスナップの利いたキレの良い音で好感が持てた。

     アダージョも弦がいい感じで歌ってました。音程の取りにくいワグナーチューバも頑張っていた。出だしの4重奏(この楽章初めて音を出すのがこの楽器のみの4重奏なんです)なんか緊張の極致だったろうに。アダージョラストのホルンにもっと深みが出ればなあ、スケルツォでの金管が良かっただけに残念。

     で、そのスケルツォ。主部abaのaの部分で金管が咆吼する所1回目のaではまだ音が固かったが2回目のaではいい感じに吼えるようになった。それを受けてトリオで弦がわびしさ溢れた情緒を歌い、再びスケルツォ。ここでは最初から全員フルパワー、良かった。欲を言えば低音部がもっと出ていて欲しかった。

     スケルツォの好調さをそのまま引き継いでフィナーレへ突入! ものすごい熱気が伝わってきた。特にコンサートマスターとチェロ副主席の人がすごかった。コンマスは真っ赤になってものすごい大きな音(弦セッション全体の半分位の音量)を出していたし、チェロの人も余程ブルックナーに入れ込んでいるのか陶酔しきって弾いていた。

     私も第1主題の再現からコーダにかけて普段の雑念が消え、頭が真っ白になりました。最後の和音がゆっくりと天井に向かって消えていって(ホント良い音響だな)1時間にも及ぶ大曲が幕を閉じました。私はこの余韻をもっと味わいたかったんですが他の観客が許してくれませんでした。要は拍手すんのが早い。「ブラボー!」の声もかかってました。私にとってブラボー級じゃなかったけれど、この一生懸命さに心を込めて拍手をさせてもらいました。朝日奈=大フィルと比べるのは酷。なんだか土の匂いをイメージさせる演奏だった。開場を出るともう9時20分をまわっていた。

§さいごに§

 『はじめに』でも書いたがハイドシェックさん目当ての女性客がブルックナーが始まって暫くするとぞろぞろ帰っていったのは愉快だった。(やっぱり女の人はブルックナー嫌いですか?)

 些細な事だが演奏中に携帯電話を鳴らしてしまった人がいた。その人(私から3、4列後ろかな?)も「あ!」って声を出していたけど、すげえカッコ悪いんで気を付けよう。私はあまり気にしないが、狂わんばかりに怒る人がいるからね。後、「ブラボー」の声を掛ける人はきちんと発声とタイミングの練習をしてから臨みましょう。歌舞伎での声の掛け方(よっ、○○屋!ってやつ)は言葉の切れといいタイミングといい惚れ惚れするよ。

 話変わって、席が前の方というのは思わぬ事が起こる。今回私はオケの人とよく目が合った。第1ヴァイオリンとチェロの人が多かった、先のチェロ副主席の人とも2,3回合いました。パートが暇な時「なにしてんだろ?」と見るとパチッと合っちゃう。こういうのも生の醍醐味ってやつですか? 1st. ヴァイオリンの第4プルト右のお姉さんがおっぱい大きいのに胸を開いたドレスを着ていて、それをじーっと見ていたもんだからこの人と1番目が合ってしまった、と言うのは君と僕との内緒だ。

 ところで、少し気になった事だが(私からとてもよく見えた)第1ヴァイオリンとチェロで、後ろのプルトで弾いていた人達がもっと音を出せば曲のスケールが大きくなった様な気がしてならない。要はこの人らがてれてれ弾いていたと言うことだ。前から2,3のプルトまでは一生懸命にやってたから余計にその落差が目に付いた。チェロの第4プルト左の人が所々クレッシェンドで大きな音を出そうとしたが周りの連中に合わせてしまってすぐ音がしょぼくなった。非常に残念だった。

 多分ブルックナーの為に呼ばれたエキストラの人達だと思うが、こういう人達こそ命がけでやらないといけない。だってここで頑張らなくっちゃ次呼んでもらえないだろ? ひょっとしたら努力が実って正団員に(他の楽団でも)なれるかもしれない。彼らは一回こっきりの真剣勝負をしなくちゃならないはずだ。あっそうか、それが出来ないからいつまでたってもエキストラなのか、ケケケ。

 ……今自分のお尻見たら黒いシッポ生えてました。それはさておき、この問題は今日のオケだけの話じゃないと思います。

 総じて、弦の1部を除きみんな頑張った演奏会でした。

 思うんですが、このオケにはシベリウスのシンフォニー(特に後期の5,6,7番)が合うような気がします。これらが演奏会に上がるようでしたら、また行ってみたいと思います。

 ちなみに帰りは西名阪が工事で夜間通行止めの為、25号線を走りましたがここも渋滞で家にたどり着いたのは11時半でした。合計4時間。私も頑張った1日でした。



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