(7)きみのこころへ

 俺の名を呼ぶ声に導かれゆっくり振り向くと志保が生まれたままの姿で立っていた。日も暮れて青白くなった外の光がカーテンの隙間から静かに射し込んできた。志保の美しくてみずみずしい肢体がその光の中で蜃気楼のように白く浮かんでいた。乳房を両手で隠し、ふとももをすりあわせるようにきゅっと閉じ、恥じらいと何か決意とが混じった目で俺を見つめている。そんな志保の表情が俺のリビドーを揺り動かす。俺の股間では恥ずかしいくらいに腫れ上がったモノが腰に巻かれてあるバスタオルを天に向かって突き上げていた。いけないと思っていてもピクピクと頭を上げたり下げたりしてバスタオルを揺らしてしまう。その動きに気付いた志保は気まずそうに目を伏せた。
 しばしの沈黙の後志保が口を開いた。
「……私、きれいかな?」
「ど、どこにもたいした、け、怪我はないぜ」
「誤魔化さないで、ちゃんと私を見なさいよっ」
 志保が顔を横に向けた。そして自分の秘密の場所を隠していた手をゆっくりとどけると、青白い光の中にすべてをさらした。豊かな膨らみに赤い蕾が二つツンと上を向いていた。小さめの乳輪に円柱形の充分に発達した乳頭があった。ビーナスの像を思わせるウエストが絶妙なくびれを形作り、それに小ぶりで引き締まった腰が続いていた。足は筋肉質で細く日本人離れした長さがあった。そして両足がすらりと伸びるその付け根には黒い茂みが扇を逆さまにした形で慎ましくあった。全体に肉感が豊かだが緩んだ所は一切なくスマートで引き締まった身体をしていた。
 志保は細かく震えていた。しかしそれを押し殺そうとして全身を固くこわばらせていた。それは生まれて初めて異性にすべてをさらした恥ずかしさと怖さから来るのだろうか? そんな志保をとてもいじらしく思う気持ちが湧き上がって来る。
「きれいだぜ……、志保」
 再び訪れる沈黙。お互い次に言う言葉を捜しているようだった。志保がゴクッと生唾を飲むとひとつ大きく息を吸って言った。
「ねっ、しよっか?」
「え? な、なにを?」
 間抜けだ、俺は。本能で意味が解ったのに理性が聞き返してしまった。
「なーに、とぼけてんのよ。エッチよ、エッチ」
 志保のやつ開き直ったのかやけにあっさりと言う。
「なーん言うか、チャンスじゃん。周りでも『この前彼氏にバージンあげちゃった』なんて話最近よく聞くのよねー。そのたびに『私まだだわどーしよう』って思ったんだけど。私そんな……ひといないから焦ってたのよね。と言っても街で逆ナンしてそいつにあげちゃうってのも腹立つし、その点ヒロだったら気心が知れてていいかなーなんて思ってたわけ。
 それに今日のことでしょ? 私こんなんだから他にお礼の仕方思い浮かばなかったのよ。ちょうど今二人とも裸なんだしさ、服脱ぐ手間省けていいじゃない。後腐れのないエッチしようよ。別にしたから恋人にしてとか言わないし、みんなには絶対内緒にするから……お願い……」
 覚悟を決めたのか一気にこれだけしゃべると身体をこわばらせるのをやめた、震えも止まっていた。カーテンから洩れるか弱い光がスポットライトのように志保を照らし出していた。肌が光を受けて絹のような光沢を放っていた。
 俺は志保が嘘を言っていることは解っていた。女の子がそんな理由だけで自分の純潔を捧げるとは思えない。それより志保の気持ちに今まで気付かなかった俺自身に愕然とした。広い志保の交友関係の一角を占める親しい仲の一人だと思っていた。まあ図書室の一件以来ちょっとギクシャクしたが。それでも俺は志保とは男女の垣根を取り払った親友だと思っていた。ひょっとしたら俺のその態度はこいつを傷つけていたかもしれない。その志保が自分の切なる思いを精一杯俺に示している。……そんな志保の思いを考えたら胸が苦しくなった。俺は志保の思いに答えるべきなんだろうか? ……俺の猛狂った下半身は『是』と言っていた。しかし……。
 二人の間には燃え盛るたき火の代わりに濡れて脱ぎ散らした服があり、潮騒の代わりに表を走る車の騒音があった。俺は今、答えを出さなくてはならない、志保に、いや自分自身に。
 俺は一歩志保に近寄った。ピクッと志保が体を震わせる。もう一歩近寄る。手を伸ばせば届く距離だ。志保の頬が紅潮していくのが解る。俺は両手を伸ばし志保の頬を包んだ。志保の心臓が早鐘を打っているのが解った。俺だってそうだ。ずっと横を向いていた志保をこっちに向かせた。目が合うと志保はすうと目を閉じた。俺はゆっくりと顔を近付けて、……おでこにキスをした。
「え?」
 虚を突かれ思わず声を上げた志保を俺はぐっと引き寄せた。
「わっ」
 そして俺は思いっきり抱きしめた。
「ごめん志保。俺お前の望み叶えられない……」
「ヒロ……」
「俺、お前を恋人として見れないよ。俺は……」
 ここで俺は言葉を失った。いけない、ちゃんと言わないとさらに志保を傷つけるかもしれない。しかし俺の言葉を待たず志保がポツリと言う。
「あかり?」
 その一言で俺はこれ以上の言葉はかえっていらないことを悟った。志保はすべて解ってた上で俺に抱かれようとしてたんだ。志保がゆっくりと俺の背中に腕を廻す。
「こんのーっ」
「おおっ」
 俺は志保にベッドへと押し倒されてしまった。二人の体がポヨンポヨンとベッドで飛び跳ねた。
「あははっ」
「いたたたっ」
 背中の怪我が痛いよ。ベッドの揺れが収まると志保は俺の胸に顔をうずめた。志保の肌がもちのように俺の皮膚に張り付いた。柔らかく猫のようなしなやかさが堪らなく良かった。志保の胸が俺の胸に押し付けられる。乳房の柔らかい感触と乳首の少しプニプニした感触が気持ち良かった。そして志保がいとしそうに俺の胸板に頬ずりをした。
「あはは、なんちゃって。冗談よー。本気にしちゃダメじゃん。……なんかヒロってさ、パッと見はなんか周りにバリアみたいの張って他人が近付くの避けてるように見えんのに、ある時ふっと他の人を、お母さんが赤ちゃんを見て笑うみたいに、屈託なしに受け入れることがあんのよね。すると女の子なんかが勘違いすんのよ『ひょっとして自分にだけ優しくしてくれる』んじゃないかって。本当は誰でもに優しいんだけどね……。
 ヒロは寂しがり屋のくせに甘えるのが下手でカッコつけだから、他の人に寄りかかろうとしてもそれを嫌がられた時のことを考えて自分からは他人と接しようとしても出来ないのよ。だからふと他の人と接点が出来た時、嬉しがって全力で愛情を注いじゃうのね」
 志保はころりと俺の体の上を転がると俺の腕を枕にしてぴたっと引っ付くように体を寄せた。
「……ヒロ、これからそれはホントに好きな娘にだけしてあげて。じゃないと後で泣いちゃう女の子がまた増えるわよ」
 再び俺の体の上に寝そべると俺の顔を覗き込んだ。潤んだ瞳が色っぽかった。俺も志保の瞳を見つめる。
「ありがとよ、こんな俺を許すばかりか、励ましてくれて」
「一生感謝しなさいよね。ほーんと、こんないい女ふるなんて、あんた人生最大のチャンスをみすみす逃したのと一緒なんだからね」
「しょってやがる。……いてて」
「なによっ」
 鼻つままれた。
「ねっ」
「なんだ?」
「さっきから気になってんだけど、私のお腹をつんつんしてる、この熱くて固いモノなんとかならない?」
 そのモノはパンパンに腫れたまま、もうバスタオルも取れてしまっていて、直に志保のへその辺りを突ついていた。
「なんともなりません。これは男の性だ」
 武士は食わねど高楊枝。
「出すの手伝ってあげよか?」
 イタズラっぽく志保が言う。
「いいよ。今そんなことされちまったら、お前を我慢出来なくなる」
「だからいいって言ってるのに」
 二人顔を見合わせてクスっと笑った。ホント言うともうイキそうなんだが、一度決心したことは最後まで守り通さなくてはならない。
「最後にもう一度だけ……キスしよっ」
 俺達は口唇を重ねた。お互いの首に腕をまわし抱きしめる。この前の口唇をぶつけ合ったようなキスではない。薄く開いた唇を激しく求めあった。舌を相手のに触れあわせる。志保がくぐもった声を上げた。やがてゆっくりと口唇が離れていく……。
「……私帰るね」
 志保はベッドから身体を起こし、自分の脱いだ濡れた服をたたみ始めた。俺はタンスから志保が着れそうな物を選んで渡し、自分も適当な服を着た。
 志保の濡れた服をビニール袋に入れ、それを紙袋に詰めてやる。
「ださださの服ねー、こんなのしかないの?」
「はん。ノーパンノーブラで何言ってやがる。なんならおふくろのスカートでも貸してやろうか?」
「ぐっ、今日のとこは我慢してあげる。……それにこの服ヒロの匂いがするからね」
 うっ。不覚にも頬が赤くなっていくのを感じてしまった。
「あははっ、赤くなってやんの。見送りはいいわ。じゃまたねーっ」
 バタンとドアが閉まるとトタタタと階段を降りる音がし、靴の爪先を鳴らす音がしたのに続いて玄関の扉が開いて閉まった。
 部屋の中が急に静けさに包まれた。やかましい奴でもいなくなると寂しくなる。俺はこれで正しかったのだろうか? 少なくとも俺は自分の心に嘘をついてない。カーテンを細く開けて表を見るとすでに雨はやんでいたが、日もすっかり落ちて辺りは暗くなっていた。ふと下の通りを見ると電柱の影で誰かうずくまっていたのが見えた。……志保だった。こっちに背を向けしゃがみ込んで泣いていた……。胸に切り裂かれるような痛みが走った。俺はそっとカーテンを元に戻した。これ以上見れなかったんだ。許してくれと志保に駆け寄って言えば良いのか? 志保もそんなことは望んでいないと思いたい。俺にはかけがえのないひとがいるんだ。十六年かかってやっと気付いた気持ちがあるんだ。ずっと側にいて微笑みを投げ掛けたいひとがいるんだ。こんな気持ちをずっと注ぎ続けていたいひとがいるんだ。そのひとがどんなに俺のことを軽蔑していても、憎んでいても、伝えておきたい気持ちがあるんだ。あかり! 俺は今すぐお前に会いたい! 会いたいんだ!
 トゥルルル! トゥルルル! トゥルルル!
 一階で電話が鳴った。俺は階段を降りると受話器を取った。
「もしもし藤田です」
「…………」
 電話の主は無言だった。その後ろでなにか街の喧騒が聞こえる。
「もしもし?」
「……(ピリリリ……、……番ホーム……行き、……車します……ドアし……)……」
 駅だ……。電話の相手がコードを指で弄ぶのかコリコリと雑音が混ざる。
「……あかり? あかりなのか?」
 俺がそう言うと電話は慌てたように切られた。今の電話はあかりだったのか? それにしては様子が変だった。……俺に恨み言でも言うつもりだったのか……?
 トゥルルル! ガチャッ!
「はい! 藤田です!」
 受話器は置かれてすぐにベルを鳴らした。俺はワンコールで取った。
「もしもし、神岸です。ヒロちゃん? おばさんだけど、そっちうちのあかりがおじゃましてない?」
「いえ、来てないけど……」
「え? 今日は朝から遊びに行くって出てったきりで、まだ帰って来てないのよ」
 時計を見上げるとそろそろ八時だ。おばさんが心配するのも無理はない。
「おばさんてっきりヒロちゃんと出掛けたと思っていたわ」
「……俺、心当たりがあるから捜してくるよ」
「ホント? じゃお願いしてもいい? 亭主がまだ帰って来ないから家を空けるわけにも行かなかったのよ。ヒロちゃんだったら大丈夫よね。あかりのことよろしく頼みます」
 カチャ。今日は矢島と出掛けていたはずだ。取りあえず駅前に行こう!

 濡れたアスファルトの上を走り俺は駅前に着いた。い、息が上がっちまった。息を大きく二、三度吸う。商店街の方はどの店もシャッターが閉まっていて暗くて静かだったが、駅のすぐ近くではまだ飲食店の暖簾が掛かり店の中の照明が通りへと漏れていた。駅から吐き出されたサラリーマンが足早に自分の巣へと帰っていく。あかりが電話を掛けてきた公衆電話に行ってみる。駅から出てすぐの所で横にホームの高架がある所だ。駅の構内にも電話はあるが改札のすぐ隣であんなに駅のアナウンスは聞こえない。だから駅の外唯一のここしか考えられない。見ると緑の電話で酔っぱらった男の人が話をしていた。いない……。あかり! どこにいるんだ、あかり! 俺はお前に会いたいんだ! 会って話したいことがあるんだ! 俺は駅の周りを駆けずり廻ってあかりの影を捜した。駅前の自転車置き場、コンビニ、深夜営業の本屋。もう駅の周りにはいないのか? ……探し回っている俺の心には焦りや苛立ちの他に奇妙な思いが浮かんできていた。「前にも一度こんなことあったよな」という懐かしさだ。なんだろう? いるはずの所にあかりがいなくて焦って捜す俺……。デジャヴーか? 見つからない。いくら走り回ってもあかりは見つからなかった。
「くそっ!」
 俺は道端にあった空き缶を思いっきり蹴っ飛ばした。空き缶はカン! ……カラン、カランと転がっていった。その時、空き缶を蹴っ飛ばしている小さい頃の俺の姿がフラッシュバックした。そうだ! カンケリした時だ! 俺はテレビを見るために鬼だったあかりを放って、遊んでいたみんなを道ずれに家に帰っちまったんだ。でもそうまでして見たテレビは、かっこいい脇役が死ぬ回だったのに、ちっとも面白くなかったんだ。なぜか泣いているあかりの姿が頭に浮かんで仕方なかった。だから俺は番組がCMに入った所で公園へあかりを迎えに行ったんだ。
「公園にいるかもしれない」
 俺は踵を返すと城山公園に向かって全力疾走を始めた。根拠はなかったが俺はそこにあかりがいると思った。不思議な確信だった。
 あの時は……最初にカンケリをしていた場所へ行くと、空き缶だけがポツンと立っていてあかりの姿がなかったんだ。俺はあかりが俺達を捜して変な所へ行ったんじゃないかと焦って捜したんだ。グランド、公衆便所、芝生広場、全然見つからない。砂場、シーソー、ジャングルジム、すべり台……、そして俺は最後に見つけたんだ。
「あかり……」
 あかりがブランコに乗ってじっと地面を見つめていた。俺が名前を呼ぶと振り返って、一瞬泣きそうな顔をしたがすぐに悲しみに満ちた表情になり再び地面へと視線を落とした。俺は肩でする息を整えながらあかりの隣のブランコに腰を下ろした。ブランコの鎖がギイと音を立てて軋んだ。
「おばさんが心配してたぞ……」
「ごめんね……」
 そう言うあかりの言葉に元気はなかった。真っ暗な公園に灯る数基の街灯が俺達を照らす。足下には二人の影が四方に伸びていた。
「浩之ちゃん、ちっちゃい頃もこんな事あったね」
「ああ、俺も同じ事考えていたぜ」
「ここにいたら浩之ちゃん来るかなーって思ってたらホントに来ちゃってビックリしちゃった。ごめんね心配懸けて、私のことキライなのに……」
「あかり! 俺は!」
 しかしあかりは静かな声で自分の話を続けた。
「私ね、ここに一人で座っていたらいろんなこといっぱい考えちゃった。そしたら頭がゴチャゴチャになっちゃって……。だから浩之ちゃんと私のことうんと昔のことから思い出すことにしたんだ。
 私ね、最初は浩之ちゃんのことすごく恐かったの。すぐに私のこと叩いたりしていじめるんだもん。けどお母さん同志すごく仲良かったから仕方ないって思ってたの。でもね私あの日からそれが変わったの。私、みんなに仲間外れにされてここで泣いていたら、ぜーぜー息を切らして真っ赤な顔した浩之ちゃんがやってきて『さあ、帰ろう』って迎えに来てくれたんだよね。でも私またいじめられると思ってブランコから立とうとしなかったんだよね。そしたら浩之ちゃん『しょうがねえな』って言って手を差し伸べてくれたのよね。その手を握ったらすごく温かくて私とっても安心しちゃったの。それから浩之ちゃんと手をつないで帰りながら思ったの、『この人はこんなにも優しいとこがあるんだ』って。私それがなんだか嬉しかったの、私だけが発見した秘密みたいなものかな? それから次はもっと優しくしてもらいたくて、浩之ちゃんの側から離れたくなくなったの。そのうち浩之ちゃんのちょっとした仕草や表情が口では言わないこといっぱい言ってるのが解ってきた。そしたらますます側にいたくなったの。……でも近所の友達も学年が上がるにつれてみんなバラバラになっちゃって、私もいつか浩之ちゃんと別々になるのかなーって思ったらこう胸がきゅーっと痛くなったの。その時気付いちゃった、私浩之ちゃんのことが好きなんだって。
 浩之ちゃんが誰にでも優しいのは知ってるよ。私もその中の一人だっていうのも知ってる。でも私、浩之ちゃんにキスしてもらった時とってもとっても嬉しかったの。私の好きだって気持ちが浩之ちゃんに届いたって思ったの。だから私あの夜、最後までしてもいいって思ってた。……でも浩之ちゃんは違ってたみたい。矢島君を紹介されたとき私ショックだった、私の思いは浩之ちゃんにとって迷惑だって解ったから。そしたら自分がなんだかすごくバカみたいに感じて、もうどうなってもいいやって思っちゃった。浩之ちゃんがとても苦しそうな顔してたのは解ってたけど、それが私が幼なじみだからっていうのも解ってたけど、浩之ちゃんに『私をちっちゃい頃の私と同じに見ないで!』って言ちゃったら、今までの浩之ちゃんとの十六年の思い出がみんないらないモノになっちゃう。そんなこと私嫌だった。私はずっと一緒だった、良いところも悪いところもみんな知ってる浩之ちゃんを好きになったんだもん。でもそれは浩之ちゃんに否定されちゃった……。私浩之ちゃんを好きでいるのに疲れちゃった。
 そんな時矢島君が私のこと好きだって言ってくれた。好きになられるのもいいかなって思って、矢島君と付き合うことにしたの。それでね浩之ちゃん、今日その矢島君と遊びに行ってたんだ。それで帰り道、矢島君にいきなりキスされちゃったの。矢島君とっても真っ赤になって嬉しそうな顔してたんだ。……でも私は全然嬉しくなかったの。浩之ちゃんとの時は涙が出たのに、矢島君とは全然嬉しくなかったの。それが解った時、私決心したんだ。それで矢島君には『ごめんなさい』って謝ってさよならしたの。ホントは電話したときに言おうと思ったんだけど、なにも言葉が出なくって……、だからここで浩之ちゃんに話すこと考えてた……。
 私決めたの。私、浩之ちゃんの幼なじみ辞める。浩之ちゃんが例え志保のこと好きでも構わない。どんなにイヤな女だって思われても構わない。浩之ちゃんが側にいない人生なんて私いらない。浩之ちゃんの側にいるためだったら私何もかも捨てる。だから私、浩之ちゃんの幼なじみ辞める。辞めて唯の『神岸あかり』になる!」
 あかりが俺の目をまっすぐ見据えて言った。自分の意志をここまではっきり言ったあかりを見たのは生まれて初めてだった。俺はこの真心に答えなくてはならない。俺はゆっくりと自分の中の言葉を紡いでいった。
「……俺にとってあかりはずっと側にいるのが当たり前のひとだと思っていた。小さい時からどんなにいじめようと泣きながらでもついてきた。でもそれが当然だと思ってきた。中学生になった時も同じだった。近所のダチも俺、あかり、雅史の三人を残して学校が別々になっても、雅史がサッカーを始めてあいつと登下校できなくなっても、あかりだけはずっと一緒にいてくれると思った。その時は、どうして一緒にいてくれるのか、なんて考えもしなかった。自己中心的だったな。
 それがなにか違うと最初に気付いたのは高校入試の時だ。今まで一緒にいるのが当然だと思っていたのに、今度は俺の方が一緒にいられなくなるかもしれないって解った時だ。俺は焦った。周りは止めとけと言ったけど、俺はどうしてもお前達と同じ高校に行きたかった。で、狂ったように勉強して合格した時はホントに嬉しかったぜ。あの時『側にいることが自然だと思っていたのは俺だけかも知れない』と気付いちまった。それからなんとなくお前を見る目が変わった。あかりは俺のことをよく知っててくれている、だからこんな俺でも側にいてくれるんだと。それでお前が俺のことを思ってくれていることもそれ以来薄々解った。
 でも俺はそれに気付かない振りをした。……いやお前にじゃなくて、俺自身にだ。ずっと一緒にいることが自然な幼なじみという居心地の良い関係を壊したくなかった、……恐かったのかもしれない。
 それが俺の中で崩れた。ここで花見をしていた時だ。あの時俺の前に現れたのは『今までずっと一緒だった幼なじみ』のあかりじゃなくて、『俺のことを思ってくれている女の子』のあかりだった。すると心の中でお前のことをいとおしいと思う気持ちが急に膨れ上がった。でも同時に黒くてネチャネチャした感情も膨れ上がった。俺は心だけじゃなく体までも自分のものにしたくなった。それが押さえきれなくなって、お前に……あんなことをしてしまった。……自分が許せなかった。こんなやましい俺を許せなかった。だから俺は降りた。いつも一緒にいるのが当たり前だった関係から降りた。そして矢島にお前を紹介した。あいつの方がお前の望む感情を返してくれると思ったんだ。
 それからは楽になれると思っていたけど逆だった。お前が側にいないと思うだけで苦しくなった。苦しくて、苦しくて、どうしようもなかった。心も段々すさんでいった。よっぽど俺の様子がおかしかったんだろうな、みんな心配して声を掛けてくれたよ。それで俺目が覚めたよ、あかりが今までずっと側にいてくれたのは当然のことじゃなくて、自然なことじゃなくて一生懸命努力して側にいてくれたんだってことに。だから、今度は俺の方が努力しなくちゃならないんだって、やっと、やっと解ったんだ。あかり! 俺はお前にひどいことをした。もし、まだやり直し出来るのなら俺にチャンスをくれ! ずっと俺の側にいて欲しいんだ! あかり! 俺はお前が、好きなんだ!!」
 俺は無我夢中で自分の心の中を吐き出した。気が付くとあかりが俺の前に立っていて俺をまっすぐ見ていた。俺も立ち上がりあかりを見つめた。あかりの瞳が涙で濡れていた。
「浩之ちゃん……ずっと私のそばにいて、もうどこにも行かないで」
「あかり!」
 俺達は固く固く抱きしめあった。もう離したくない! 二度とあかりを離したくない! お前は俺にとってかけがえのないひとなんだ! 俺達の心が再び通いあった……いや今まで以上に深く通いあった瞬間だった。俺の頬を一筋の涙が伝っていくのを感じた。普段の俺なら格好悪いと思っただろうが、今はこんな自分が誇らしかった。ブランコが俺達の後ろでいつまでも揺れていた。

 「そう、……うん解った。……ありがとうお母さん。じゃおやすみ」
「あかり、おばさん何だって?」
「うん、許してくれた」
「さすがと言うか、肝っ玉母さんだな、お前のおふくろさん」
 公園から俺達はあかりを家に送らずに俺の家へと連れてきた。どうしてもあかりを離したくなかったんだ。残り物を使って簡単な食事をするとあかりを先に風呂に入れ、俺もその後入って落ち着いたところで、あかりに自宅へ連絡を入れさせた。あかりも帰るとは一言も言わなかった。あかりもきっと同じ気持ちなんだと思う。リビングのテレビで映画を二人並んで見ていた。
 俺達はどちらからともなく身体を寄せあった。
「やっぱり俺のパジャマじゃ大きすぎたか?」
 ダボダボのパジャマの胸元が大きく開いてて、風呂上がりの洗い髪と合わせてちょっとセクシーだ。
「ううん、そんなことないよ。私これでいい」
 そっと手を握るともう一方の手を俺の手の上に重ねてくれた。あかりの体温が俺に伝わり、甘い香りが胸一杯に広がった。俺は幸せを感じた。映画が終わるともう十一時半になっていた。
「あかり……」
「なに?」
「俺の……部屋に来ないか?」
 何気なく言うつもりが、少し噛んでしまった。あかりはちょっとうつむくと、
「……うん」
 と言った。
 二階に上がるとあかりを先に部屋に入れてドアを閉める。あかりは部屋の電気を点けようとはしなかった。しかし月が出ているのか、部屋の中は月光に照らし出されて鮮やかな青と黒のコンストラクションを見せていた。俺は後ろからあかりを抱きすくめた。あかりも俺の腕の感触を噛みしめるように体を預けてきた。しばらくそのままだったがあかりがくるりと反転すると目を閉じつま先立ちになった。俺は優しく口唇を重ねると強く抱きしめた。
「ん……」
 口唇を離すと俺はあかりを抱き上げてベッドに横たえた。そしてあかりの横に腰掛けて見つめた。
「いいか?」
 しばらくの沈黙の後、
「うん……」
 と、あかりは頷いて目を閉じた。俺はあかりのパジャマのボタンを一つずつ外していった。
「やっぱり俺のパジャマだとでかすぎるな」
 あかりがクスッと笑った。ボタンをすべて外すと白いブラがあった。俺はそっと手をあてるとぷにぷにと揉んでみる、膨らみの頂を生地越しに指で擦ってみる。あかりの息が一瞬止まる。そして俺はあかりの背中にごそごそ手を廻し、ホックを外そうとした。あかりが背中を浮かせてくれたので簡単に外すことが出来た。俺はパジャマの上着と一緒にブラを脱がせた。
 あかりの二つの膨らみが目の前に現れた。膨らみは自らの重みでぺちゃっとしていた。立ち姿の時の印象と随分違う。俺は両手でゆっくりと胸を揉みしだき始めた。あかりの乳房が俺の手の中で変幻自在に形を変える、まるで手のひらから逃れるみたいに。柔らかさがとても心地よかった。俺は乳首にキスをした。あかりがピクッとする。すぐさま俺はあかりの赤い頂に吸い付き、もう片方を指で摘んでくりくりともてあそんだ。
「んああ……」
 微かにあかりの口唇から熱い息が洩れる。
「気持ちいい?」
 尋ねると、あかりは頬を赤らめ、
「……うん」
 と言った。よし、それならと俺はもっと大胆にやってみることにした。舌をあかりの乳頭の周りをなぞるように這わせた。ピクピクとあかりが体を震わす。胸だけでこんなに感じてくれるのならあそこはどんな反応をしてくれのだろう? 俺は恐る恐るふとももの内側に手を滑らせた。一瞬ふとももがピクッとしたがすぐに収まった。俺はゆっくりとさすり始めた。意外にボリュームのあるふとももで驚いた。あかりの知らなかった所を一つ発見したようで嬉しかった。このままあかりの体を味わいたい。
 あかりの呼吸が少しずつ大きくなる。俺は意を決してあかりの大事なところに指を走らせた。
「あっ!」
 あかりがビックリした声を上げて、ふとももをピッタリと閉じてしまった。俺は手を挟まれて動かすことが出来なくなってしまった。
「あかり、大丈夫だから……」
 俺はあかりの顔を覗き込んで言った。
「だって……、恥ずか……しい」
 あかりはバツが悪そうに目を逸らして言った。
「大丈夫、俺を信じてくれ……」
 そう俺が言うとあかりは目を再び閉じ、ふとももの強ばりを解いてくれた。
 俺はパジャマの下に手を掛けてそっと降ろした。薄いベージュの下着が目に映った。それは絹のようなきめの細かい布地で両サイドの切れ込みが深くゆったりとしたものだった。大人のインナーだ。
 ツツツと俺は薄い布越しにあかりの最も大切な所を中指でなぞった。時々指を曲げてクイックイッと掻くように擦る。
「んん!」
 あかりがおとがいを逸らす。大きく短い息をしながら潤んだ瞳で俺を見る。俺はあかりの身を覆う最後の一枚に手を掛けた。あかりがそっと腰を浮かす。俺はその一枚をあかりの脚線になぞるように滑らせて足首から抜いた。そして俺自身もすべて脱ぎ捨てて、あかりに寄り添うように横たわった。
「浩之ちゃん、どうしたの? その怪我……」
 あかりが俺の身体を見て、少し驚いた声を上げる。
「ああ、俺が受けた試練の証だ。」
「……浩之ちゃんも色々あったのね」
「……続き、行くぜ?」
「……うん」
 左手であかりを抱きながら、乳房をしゃぶり、右手はあかりの秘所をまさぐった。手のひらにあかりの恥毛の手触りを感じた。熱い吐息が俺の髪に懸かる。秘所を愛撫する指にあかりの襞がまとわりついた。熱くてぬるぬるしていた。これが「濡れてる」ってやつか? 指に何かクリッとしたものに触れる。最も敏感な蕾だ。俺は下から上へシュッと擦り上げる。
「ああっ!」
 感じてるのか、あかり? なら、もっとしてやるよ。あかりの両膝を立てると、その間に顔を埋めた。
「ああっ、ダメっ」
 あかりが脚を閉じようとした。しかし膝が立てられているので、ふとももを閉じようとも大事な所が隠されることはなかった。
「どうしてだい?」
「だって……恥ずかしい」
「みんな見せてくれよ。恥ずかしい所も全部」
 俺はペロッと敏感な肉芽を舐めた。
「あっ……」
 ふとももが閉じたままだったが俺はそのまま愛撫を続けた。秘所全体が赤く充血していた。
 しかしいつ見ても複雑な形をしている。とりわけ俺は女性の膣というのは割れ目のど真ん中にあるものと思っていた。でも実際は割れ目の一番下にあって、割れ目自身も何重にもなっていることが分かった。これは俺の人生の中で最大の発見だ。
 あかりの膣からは愛液が滲んでいた。何か泣いているようにも見えた。舐め取ってみると酸っぱいような、しょっぱいような味がした。そっと広げてみると神秘の入り口にレンコンの輪切りのような、クモの巣のような白い膜があった。これが処女膜か……。俺はしげしげと眺めてしまった。「あかり、お前の処女膜きれいだぜ」と言いたかったがさすがに怒られそうだったので止めた。
 しかしあかりは膣よりクリトリスの方が気持ちいいらしく、固くなったそれを舌で刺激すると感電したみたいに体を震わせた。その内あかりのふともももすっかり力が抜けていて楽に脚を広げることが出来た。俺は何度も何度も執拗にその蕾を愛撫した。
「んあっ、はっ、はっ、んん……はっ」
 あかりがしゃくり上げるような乱れた呼吸をし始めた。肌が桜色に染まって、薄く汗ばんできた。眉をひそめて切なそうな表情をしている。気持ちいいんだ……。俺があかりを気持ちよくさせているんだ……。そう思うと心の底から全身へとこれまで経験したことのない喜びが駆けめぐった。
 俺のあかりを愛するための器官は今までに見たことがないほどギンギンに猛狂っていた。竿の部分には太く血管が浮き上がり、頭は赤く充血し、先端からは透明な汁が滲んでいた。
 あかりとひとつになりたい。俺はベッドからひとまず離れると机の引き出しから、いつぞやのコンドームを取り出した。そしてあかりの足の間に割って座ると、自分の怒張した部分をあかりに見せた。
「あかり、俺のこれ、お前が愛おしくてこんなになってんだぜ」
 あかりは生まれて初めて見ただろう勃起した男の器官に畏れと興味の混ざった熱い眼差しを注いだ。
「すご……」
 コンドームの包みを破ると中から五百円玉大の中に薄いゴムの膜が張った輪ゴムのようなものが出てきた。そのゴムの膜の中央にはぷくりと三角帽子のような小さい袋があった。ゴムを亀頭にあてるとその袋を指で押さえて空気を抜き、ゴムをクルクルと下に降ろし竿に被せた。コンドームはちょっとぬるぬるしていた。息子がピンク色になってしまい、なんだかおもちゃみたいでおかしかった。
 装着を完了させると改めてあかりを見つめる。あかりも俺を見つめていた。潤んだ瞳がきれいだった。
「いくぜ、お前のすべてを俺にくれ」
「うん、来て。誰よりも一番私の近くに来て」
 あかりを愛する器官をあかりの命の泉に当てる。俺の先端が愛液で濡れる。ギンギンになった息子は下に向けるのさえ一苦労だった。
 ずいっと腰を前に進める。亀頭が少しあかりの中にめり込む。
「んっ!」
 あかりが小さく声を上げる。
「痛いのか?」
「ううん、まだ大丈夫……」
 先端がとても柔らかくて熱いものに触れている感触がした。それだけでイキそうになった。
 しかし先端が中に入っていかない。ここまでで良いのかな? エロ本とかだともっと入っているような気がするけど……。何かにつっかえてる感じだ。心の中に焦りが生じてきた。いや、焦りは禁物だ。焦ると余計に失敗するぞ……。落ち着いて、落ち着いて……。
 ……角度が悪いのかな? 俺は色々試してみた。そして下から突き上げようとした時、
 にゅるっ!
 と俺のペニスがあかりの中に吸い込まれた。俺はそのまま腰をあかりの腰に押しつけるように突きだした。電撃みたいな衝撃が腰から脳天へ突き抜けた。
「んあああっ」
 あかりが声を喉の奥から漏らす。俺のものが何か狭い所をこじ開けていくようにあかりの深いところへめり込んでいった。ペニスがあかりのヴァギナに身のほとんどを沈めていて確かにあかりの胎内に俺が入っていることを目で確認するとさらに興奮が高まった。息子全体が熱くて柔らかいものに締め付けられて、あかりのものとの摩擦のあまりの気持ちよさに腰から力が抜けそうになる。
 我を失って激しく律動を開始しようとした時、あかりをふと見ると眉間にしわを寄せ、歯を食いしばり、指が真っ白になるほどシーツを握りしめて必死に痛みに耐えていた。俺の頭の中に、さっき見た処女膜が破れ今まで経験したことのない大きさに広げられたか細いあかりのものが浮かんだ。俺だけが気持ちよくなってどうするんだ……。快楽の波に呑み込まれるとこだった。
「あかり、止めようか? 痛いのに無理してやることはないぜ」
「ううん、最後までして……。大丈夫だから」
 しかし俺が5mm動かすとあかりは「くううう……」と辛そうな声を漏らす、俺は5mm動かすごとに得も言われぬ快感が器官の先端を通して脊髄を走る。男って単純だな……。どんどん俺を打ちつける快楽の大波に俺は堪えようとしていたがもう堪えられそうにもない。腰の中に爆発しそうな高まりを感じた。俺はペニスを出来るだけゆっくりと引き、再び奥に押し込もうとした。その時、
 腰に堪えきれない衝動が興ると、激しい律動と共に大量の精液を放出した。……あっと言う間にイッてしまった。まだそんなに動いてないのに……。ちょっと情けない……。俺は最後の律動が済むとペニスをあかりから抜いた。プルンと出てきたそれの先端に白い液が溜まっていた。見ると精液溜まりに収まりきれずに溢れた精液が亀頭全体に広がっていた。
「終わった?」
 あかりが聞いてきた。
「ああ……」
 俺はコンドームを抜き取ると口を縛った。その時、手にうっすらと血が付いていた。コンドームに付いていたみたいだ。これはあかりの破瓜の印だ。俺はそれをティッシュにくるみゴミ箱に捨てた。
「……ああ、よかったぜ、あかり」
 あっけなかったけどね。
「けど、浩之ちゃんのおちんちんまだこんなになってる」
 あかりが手を伸ばすと俺の息子に触れた。あかりが触れた亀頭からビクビクビクと電流が流れる。実際俺のものは一回射精したにも関わらず、まだ臨戦態勢を取っていた。
 手にした俺の愚息を「男の人のってこんなんなんだ……」とでも言いたげにしげしげと見ていたあかりがすうーと顔を近づけていった。
「ちょっ……あかり、なにするつもりなんだよ」
「私も浩之ちゃんにしてあげる」
 俺のものに両手を添えた。その体勢は……。
「いいよ、いいったら」
「浩之ちゃんの恥ずかしい所、私も見たい」
 そう言って俺のものをペロッと舐めた。
「ああっ!」
 俺は思わず情けない声を上げてしまった。イッたばっかりは敏感なんだよ。
「ちょっと変な味がするね……」
 しかしそのままあかりは俺のものを口に含んでしまった。
「うあああっ」
 また情けない声を上げてしまった。舌がぎこちなく先端に絡みつくのが異常に気持ちよかった。ちょっと歯が当たって痛いけど。しかしあっと言う間にあかりの口の中で息子は最高硬度を取り戻した。
「気持ちいい? 男の人ってこうしてもらうと気持ちいいんでしょ? 私、浩之ちゃんに気持ちよくなって欲しいの」
 どきんとその言葉が心臓を撃った。あかりの俺を好きだって気持ちが痛いほど伝わった。俺はもう一度きちんとあかりを愛したいと思った。
「あかり、もう一度いいか?」
 あかりも迷いなく答えた。
「うん」
 俺はもう一個コンドームを取り出すと息子に被せた。あかりを仰向けに寝かして愛撫をするとすぐに濡れてきて準備OKとなった。
「じゃあ、入れるぞ、あかり」
「うん、来て」
 二人の視線が俺達の結ばれようとしているところに集まった。
 ものを手でしっかり支えると、あかりの入り口に当ててゆっくりと押し込んだ。今度はさっきよりもすんなりと挿入できた。そのまま突き進んで行くと先端が何かに当たってそれ以上先に進まなくなった。俺のものがついにあかりの最も深い所に到達したんだ。
「んああーっ」
 あかりが到達と同時にのけぞった。
「痛いのか? あかり?」
 あかりはううんとかぶりを振った。
「さっきほど痛くない」
 やっぱりさっきはすごく痛かったんだな……。
「じゃあ、動くぜ……」
 あかりがコクンと頷いた。俺はゆっくり腰を前後に動かし始めた。やっぱりきつい……。男を初めて迎え入れたあかりの中を動くたびに、敏感な先端から痺れるような快感が脳髄へと響く。
「んっ、んっ、んっ、……」
 俺の動きに合わせるかのようにあかりが息を漏らす。俺は性運動に余裕が出来てきたので、俺の動きに合わせてプルプル揺れているあかりの乳房を揉んだ。その乳房全体を揉みながら乳首を指で転がした。すでにピンと勃って固くなっていた。
「ああ……」
 あかりが大きく息をつく。あかりが胸を揉む俺の手に自分の手を重ねる。心なしか前後運動がスムーズになってきた。俺は少しテンポを上げた。
「はっ、はっ、ん、はっ、はっ」
「んんっ、あっ、あん、んんっ」
 二人とも俺の腰のリズムに合わせて呼吸を荒らげる。あかりの肌がしっとりと汗ばんでほんのりと桜色になる。俺の体からも汗が噴き出てくる。
「浩之ちゃん……」
 あかりが切ない瞳で俺に両手を差し伸べてきた。俺は身体をあかりに預けて抱きしめた。
「あかり……」
 俺達は口唇を激しく重ね合った。口唇を強く擦りつけるように吸い合って、半開きの口唇から舌を入れ合い、蔦が絡み合うように互いに求め合った。
「んんっ、んんっ、んんっ、んはっ」
 あかりの口唇から離れるとそのまま口をうなじに移したくさんのキスを降らせつつ耳元に這い上がって耳たぶを舐め、軽く噛んだ。
「ああっ、あっ、ああっ!」
 俺の耳にあかりの熱い吐息がかかる。俺も熱い吐息をあかりの耳に浴びせる。あかりに触れているすべての皮膚が融解してあかりの熱い肌に溶け込んでいく気がした。
 こんな体は邪魔だ。全部溶けていってくれ。あかりの中へ溶けていってくれ。俺はあかりとひとつになりたいんだ! 身も心も魂も存在すらも何もかも、すべて溶けてひとつになりたい! あかりのすべてとなりたいんだ!
「あかり! 愛してる! 愛してるよ! あかり!」
「浩之ちゃん! 私も、私も愛してる!」
 自分の中で最もピュアな言葉が何のためらいもなく出てきた。俺が今まで生きてきて一番言いたかった言葉はこれだったんだ。そして一番言って欲しかった言葉もこれだったんだ! 俺達は互いの指を絡め合いそして固く握り合った。愛してるよ、あかり。とめどなく、とめどなくあかりへの愛が溢れてきて心を満たす。
 腰が激しく動く、もう自分では止めることが出来なかった。俺は二人が結ばれている所からやって来る絶頂が爆発寸前まで高まっていってるのを感じた。俺達は互いの名を呼び続けた。
「あかり! あかり! あかり! あかり!」
「浩之ちゃん! 浩之ちゃん! 浩之ちゃん! 浩之ちゃん!」
「あかり! あかり! あかり! あかり! あかり! あかり!!」
「浩之ちゃん! 浩之ちゃん! 浩之ちゃん! 浩之ちゃん! 浩之ちゃん! 浩之ちゃん!!」
 ああっ! 一瞬頭の中がフラッシュすると、体の奥底から衝動が湧き起こり一気に脳天まで駆け登っていった。短いうめき声と同時に俺の純白な思いをあかりを愛する器官を通してあかりの一番深い所へとありったけ注ぎ込んだ。俺の命のすべてを注ぎ込むように激しい律動と共に何度も何度も注ぎ込む。
「ああああああああっ!」
 あかりが重ね合わせている俺の掌を痛いほど握り締め、おとがいを反らした。俺の精が自分の子宮に注がれているのが判るんだ……。
 爆発が収まると繋がったまま俺は身体をあかりに預けた。重いだろう……ごめん、でも力が入らないんだよ。
 俺達は汗だくで荒い息のまま抱き合っていた。
「あかり……ずっと側にいてくれ」
「私を離さないでね……浩之ちゃん」
 どちらからでもなく俺達は再びキスを交わす。音がするほどの熱いキスだった。
 俺はあかりの瞳を見た。きれいに澄んだ瞳に俺が映っていた。頬を撫ぜるとあかりが幸せそうに微笑んだ。それを見ると俺まで幸せで胸がいっぱいになり、自分でも可笑しいくらい自然な微笑みを返していた。

 夕焼け。山際に隠れようとする太陽に照らされて、西の空が黄金色に染まる。微かにたなびく雲が金糸のように太陽にまとわりつく。俺は屋上に昇ってベンチに座り一人こうして夕陽を見ている。眼下には俺の生まれ育った街が静かに広がっていた。家々の瓦が夕陽を反射して金色の鯱(しゃちほこ)が横たわっているように見えた。少し前までは夕方になる頃には肌寒くなったものだが、今ではこの時間になっても暖かい風が若葉の香りを運んでくる。もうすぐ五月だ。
 あれから俺達がどうなったかと言うと、二年生になって俺とあかりと雅史が同じクラスになってしまった。こんなことは小学校の時一回なったきりだ。あかりと雅史がすげえ喜んでいた。まあ俺も嬉しかったけどな。志保が「なんで私ひとりだけ違うクラスなのよっ」とブーたれていたが。あいつまで一緒のクラスだったらやかましくってしょうがねえ。ちなみに担任は中村先生だ。どうも三年間世話になりそうな予感がするな。
 その志保とはあの後でも良い友達として付き合っている。この前もカラオケ点数勝負をやって、俺の圧勝に終わった。順位は俺、志保、あかりの順だった。志保のやつ歌には自信があったものだったから、メチャクチャ悔しがっていたな。あれには高得点を出すコツってのがあるんだよ。……でもあれだけ泣かせちまったのに今まで通りに接してくれる志保にはとても感謝している。
 委員長とはクラスは違ったが、廊下で会うと挨拶を交わしている。その時クラスメイトと一緒に歩いていたのが嬉しかった。志保の話によると、またクラスの委員長をやっているそうだ。そうそう、彼女のクラスにアメリカからの留学生の娘がいるんだが、委員長のものをズバズバ言う性格が留学生のアメリカンな気質に合うらしく、二人はとても仲が良いそうだ。
 来栖川先輩は相変わらずミステリアスだが、最上級生になってさらに磨きがかかっているみたいだ。この間先輩と話したとき聞いたんだが、オカルト研に新入生を一人引っ張り込んだそうだ。なんでもその娘を放っておくことができなかったらしい、それにこの娘には素質があるとも言っていた。何の素質なのかは恐かったので聞かなかった。
 雅史はますますサッカー部で活躍するようになって、ちょっとした人気者になっている。練習中にグランドの隅から熱い視線を送っている女の子を何人も見ている。本人はそんなことには全く関心がなくてのほほんとしているがな。しかしこの前、背の低い女の子と一緒に廊下をモップがけしていたのを偶然発見してしまった。二人ともニコニコしていて良い雰囲気だった。奴にも春が来ることを願おう。
 俺はと言えば、なんとクラブ活動を始めてしまった。一年生の娘にスカウトされちまったんだ。なんでもエクストリームとか言う総合格闘技の同好会を作ったから是非入ってくれと懇願されたんだ。あまりにも熱心に頼むものだったから俺もその気になって入部してしまった。入ってからビックリしたんだが、部員が俺とその娘の二人しかいなかった。実際はまだ同好会でもなかったんだな。そこであかりと雅史と志保を幽霊部員にして人数を集め、中村先生に顧問になってもらって学校に認可してもらった。
 けっこうエクストリームって楽しいぜ。肘打ちが禁止ってのがなかなか慣れないけど。プロテクターなしで膝蹴りかます方がよっぽど危険だと思うけど。とりあえず連休明けに初めての試合がある。頑張ってみようと思う。
「浩之ちゃん。ここにいたんだ」
「よう、あかりか」
 あかりが俺の横に腰掛ける。
「教室に鞄が残ってたから、ここじゃないかなって捜しに来ちゃった」
「窓から見えた夕陽がきれいだったから、ついな」
「……私の生まれ育った街、浩之ちゃんの生まれ育った街、たくさんの思い出が詰まっている街、……きれいだね」
「ああ、そしてこれからも俺達二人で思い出を作ってく街だ」
 あかりがそっと身を寄せる。俺はあかりの身体をきゅっと抱きしめた。腕の中であかりの暖かさと柔らかさがいっぱいになる。
 あかりとは幼なじみとしてではなく恋人として付き合っている。俺もあかりも自分の気持ちを隠さずに人前でも出している。これまでと比べても目に見えて近くなった俺達の距離を見て、雅史も志保も何も言わないが、俺達が恋人になったことを確信しているだろう。
 ……恥ずかしい話だが、あかりとは毎日のようにメシを作ってもらって、それで……その……愛し合っている。まるで通い妻のように下校途中に俺の家に寄り、夕食後に帰るというのが日課になりつつある。ひょっとしたら近所でも噂になっているかもしれないが、あかりの両親には俺達が付き合ってることをはっきり言ってある。それでアッチの方だが最近ようやくコツが掴めてきてホントにやってんが楽しくなってきた。あかりも回数こなす内に気持ちよくなってきたらしく、本気でよがってくれて俺は男冥利に尽きるってのを最近実感している。ここ一週間はおあずけをくっていたが、今日からはOKなはずだ。……バカ?
「なあ、今度のゴールデンウィークどこ行こうか?」
「練習はどうするの?」
「一日ぐらいなんとかなるだろ」
「じゃ……私、ディズニーランドに行きたいな」
「いいな、それ。朝一番に出掛けて、一日パスポート買って、ふらふらになるまで遊びたおそうか」
「うん」
「それでいっぱい思い出作ろうぜ」
「うん、そばに浩之ちゃんがいる思い出……」
「年取ってから思い出話始めたら、一週間以上かかる程たくさん」
「ちっちゃい頃の思い出、幼稚園の思い出、小学校の思い出……」
「中学校の思い出、高校の思い出、入れたら大学の思い出……」
「大人になってからの思い出、おじいちゃんおばあちゃんになってからの思い出……。一緒に作っていこうね、浩之ちゃん……」
 俺達は固く手を握りあってくちづけを交わした。口唇からあかりへの愛情を目一杯注ぐ、するとあかりから俺への愛情が想いを込めて返ってくる。俺は幸せだ……。口唇が名残を惜しみながら離れると、あかりが夢見るような瞳で俺の胸に顔をうずめる。
 俺はふと後ろを振り向いた。俺とあかりの影が夕陽に照らされて長く長く伸びていた。目で追っていくと俺達の影はずっと二本の平行線を描いていたが、一番向こうで解け合い混じり合い一つの影となっていた。
 時々俺は今の幸せが本当は誰かが見ている夢なのではないかと不安になってしまうことがある。あかりが俺の目の前から急に消えてしまうのではないかという恐怖に駆られることがある。この幸せは永遠ではない。この先のことは誰にも分からない。あかりに愛想を尽かされて捨てられるかもしれない。添い遂げられたとしても、いつかは年老いて必ず死に別れなくてはならない時が来る。
 しかし俺の最後のページにエンドマークが刻まれるその瞬間まで俺はあかりを愛したいと思う。あかりを愛し続けたお陰でこんなに良い人生だったと胸張って死ねるように、俺の命全部使ってあかりに愛を注いで生きたいと思う。俺は不器用だから、その想いのほとんどはあかりに届かないかもしれない。けれど自分から想いを伝えようとしなくては永久にゼロで終わる。だから俺は例え苦しくても、辛くてもこの想いを伝え続けていきたいと思う。
 なあ、あかり。俺の心はお前の心に伝わってるか? 俺の愛はきみのこころへ届いているか? お前からの愛は確かに受け取ってるぜ。
 俺達一生こうやってこころのキャッチボールしながら生きていこうよ。俺の命尽きるまで、きみの命尽きるまで。
 届け、俺のまごころよ。届け、きみのこころまで。
 俺の、俺のすべてを込めて、To Heart。

< 完 >


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