「一人旅の始り」

まさにそれは青春時代真っ只中だった。その頃の自分は世間的に見て、決して貧困な家庭の子供はなかった。

同年代では羨むほどの物を手にしていたし、精神的に重いモノを背負う境遇でもなかった。

しかし、その頃の自分に何か物足りなさを感じていた。今を思えば、それはただの巣立ち前の雛鳥の心境だったのだろう。

10代最後の年の冬、その日は突然やってきた。

「そうだ旅に出よう!!」と思った。

友人にも一言も相談せず、まして親には告げず、押入れから、デニムのズタ袋を取り出し、洗面具、下着、寝袋そして、ウクレレを放り込み、自宅の勝手口からそっと抜け出す。

それは失恋して北に向かう儚い叙情的な歌に出てくるような格好いい姿ではない。

ただのフーテンの姿であった。

そして九州に行こう!とひらめいた。

季節が季節だったのでただ漠然として動物的衝動で暖かい地方へ行きたいと言う、実に単純なことであった。

と言っても浪人の身でたっぷりと軍資金が手元にあるわけではない。

取り敢えず手持ちの金から見て、東京を脱出する交通費として500円が許容投資額であった。

今ではJRと言われているその頃の国鉄の新宿駅で黒板の料金表を仰ぎ見ると、その対象距離として、「熱海」の字が目に入った。

そしてその日の午後から、ヒッチハイクが毎日の日課となった。

旅の途中、小銭を稼ぎ、次の移動のための資金とした。
時にはその資金も絶え、23日、口にモノが入らなかった日もあった。

あまりのひもじさに耐えられず、手持ちのバターと歯磨きを練って混ぜ、飢えを凌いだこともあった。

結局、最終目的地の「佐多岬」で太平洋を見て、2ヵ月後無事に親の元に辿り着いた。

帰還後、風呂も入っていなかった性か?耳掃除をしたら、小指の玉ほどの「耳くそ」が出てきたのに驚かされた。


一人旅のほんの1部の写真です。スライドショーにしてみました。
お楽しみいただければ幸いです。




私の一人旅への思い込み