宇宙家族カールビンソン

オリジナルストーリー

「題名のない音楽会」の巻

 

 

登場人物

コロナ:ピアニカ

ジュンちゃん:たてぶえ

ショウちゃん:大太鼓

ヤッくん:シンバル

ジッソーくん:ピアニカ

(弾き方が異様。蛇腹パイプを使い、本体で無理矢理顔面を隠している。)

カズちゃん:トライアングル

コーちゃん:小太鼓

トム:エレクトーン、のちにアコーディオン

ライカ:木琴

チカ:鈴

 

おとうさん

おかあさん

ターくん

ミドリ先生

ベルカ

ケン

ジョン

ショベルマウス

 

アキラじいさん:額に「伊」の字。

 

 

 昼下がり、学校周辺の牧歌的光景

 学校のすぐ横を、ベルカが自転車をこいでいる。

 通り過ぎようとしたとき、校舎のほうから不協和音が飛び出し、その勢いに思わずのけぞり、横転する。

 

ベルカ「な、なんだ」

 

 ベルカ、不協和音のもとの方向を見やると、校舎から数々の擬音が飛び出している。

 窓からのぞき込むと、ミドリ先生の指揮のもとで生徒達が合奏している。

 その実際は、各人がそれぞれのノリでバラバラに演奏している。

 

ベルカ「これはいったい・・・」

 

ミドリ先生「(指揮を終えて拍手)はーい、よくできました」

ベルカ「ちょっと待て!」

ミドリ先生「(ベルカに気づき)あら、聞いてたの。どうだったかしら?」

ベルカ「どうもこうもあるか! ただの騒音だぜ、こりゃ」

ミドリ先生「そう・・・ま、いいじゃないの。細かいことは気にしない、気にしない。(一同に)みんなー、それではもう一回演奏しましょう」

 

 楽しそうに楽器をとる一同。

 それを見るベルカ、楽譜台に楽譜がないことにに気がつく。

 

ベルカ「おい、楽譜がねぇぞ」

ミドリ先生「あ・・・忘れてたわ。(楽譜を配りながら)じゃこれ、目の前に置いといてね」

ライカ「いいじゃねぇか、そんなん。どうせ、誰も読めないんだからよ」

コロナ「(楽譜を見て)これ、なーに」

ジュンくん「へたくそな絵だな」

ショウちゃん「これか! これはだな・・・」

 

 一同ショウちゃんを無視。ショウちゃん、取り残される。

 

ショウちゃん「おい、お前ら!」

ベルカ「(頭をかかえ)あかん、こりゃ・・・」

 

 ベルカ、教壇に立ち、一同を見回す。

 

ベルカ「みんな、もっときちんとした練習をやったらどうだ?」

コロナ「そんな、下手じゃないもん」

ジュンくん「楽しくやってるんだから、いいじゃない」

ジッソーくん「そうだよ、無理してうまくなってもね」

ミドリ先生「そうよね・・・。みんなが楽しんでるんだし、誰に聞かせるわけでもないから」

ベルカ「じゃ、村の文化祭で演奏することにしたらどう?」

ミドリ先生「でもね・・・」

ベルカ「賞品が出るぜ」

 

 ミドリ先生、しばし沈黙。

 

ミドリ先生「そうね。本格的に練習するのも大切よね!」

生徒一同 「えーつ!」

ミドリ先生「まぁまぁ。きちんと練習して、みんなに聞いてもらうのも楽しいわよ」

コロナ「そうなのかなぁ・・・」

ベルカ「ようし。そうと決まれば、一から練習だな」

ミドリ先生「どうせなら、専門家に見てもらった方がいいわね」

ベルカ「専門家って、このあたりで音楽やってるのは・・・」

 

カズちゃん「音楽っていったら、あの人が・・・」

ベルカ、(カズちゃんに気づかず)ギターを弾くケンを思い浮かべる。

ミドリ先生「合奏には不向きじゃない?」

 

コーちゃん「あ、そういえばあの人が・・・」

ジュンくん、(同じく気づかず)ジョンの三味線を思い浮かべる。

ライカ「あれは音楽じゃねぇよ」

 

カズちゃん「いや、だからさ・・・」

コロナ「(やはり気づかず)おとうさんもピアノひけるよ」

ショウちゃん「まさか・・・うそだろ?」

コロナ「ひけるんだもん!」

 

 おとうさん、子供用のピアノを持って登場。

 流暢に鍵盤をたたく。

 

一同「おおっ、うまい!」

 

おとうさん「プリントアウト」

 いうなり、ピアノがウィィィンとうなり、印字された紙を吐き出す。

おとうさん「(印刷された紙を見せて)年賀状も簡単」

ミドリ先生、無言でおとうさんの肩をたたく。

 

ベルカ「・・・まいったなぁ」

カズちゃん「ねぇ、あの人がいるよ」

ミドリ先生「あの人って誰?」

コーちゃん「アキラじいさんさ」

ジュンくん「あーつ、あのじいさんか」

コロナ「だれなの、その人?」

カズちゃん「僕らの間じゃ有名な人なんだ」

コーちゃん「ほら、あのマーチを作曲した人だよ」

ヤッくん「ああ、あれね」

 

原住民一同「(合唱して)ゴメス、ラゴン、リトラにキングアラジン!」

ベルカ「あ、あの曲か・・・(小声で)しかし、おかしな歌詞つけてまぁ・・・」

 

ジッソーくん「でも、もう40年以上も昔の曲だよ」

ライカ「死んだんじゃねぇのか」

コーちゃん「まだ生きてるってば」

ヤッくん「あんまり見かけないけどな」

カズちゃん「ときどき出てくるよ」

ミドリ先生「なるほど・・・」

ベルカ「ようし、決まりっ!」

コロナ「大丈夫なのかなぁ」

 

 夕方、鳥の鳴く声。

 原っぱ。生徒たち、楽器をもって集合している。

 

ジュンくん「本当に、こんなところで練習するの?」

コーちゃん「ベルカ姉ちゃんがそう話をつけたんだって」

コロナ「あれ、トムくんは?」

 

 トム、原住民(ショウちゃん、ヤッくん)にエレクトーンを運ばせて登場。

 

トム「やあみんな、遅れてごめん」

コロナ「トムくん、それ・・・」

トム「どうだ、最新式のエレクトーンだぜ。いいだろ!」

ジュンくん「またはじまったよ」

トム「ピアノ、トランペットほか8種類の音色が選べるし、自動リズム機能もついてるんだぜ。おまえたちみたいな貧乏人の、安物楽器なんかとはワケが違うのさ」

ショウちゃん「おおっ、さすが坊ちゃん!」

コロナ「・・・で、電源は?

 

 トム、あたりを見回す。もちろんコンセントなどどこにもない。

 

トム「しまったぁ!思わぬ誤算が」

ジュンくん「まっさきに考えるよ、普通は」

 

 アキラじいさん、タクトと楽譜をもってあらわれる。

 

アキラじいさん「おまえらか、わしと練習がしたいというのは」

ジュンくん「うん、そうだけど」

コーちゃん「すっげーよ、本物だよ」

カズちゃん「うん、うん!」

一同「よろしくお願いします!」

アキラじいさん「そうか・・・とりあえず、音を聞かせてもらおうか」

 

 一同、楽器を手にして演奏をはじめる。

 不協和音に、アキラじいさんずっこける。

 

アキラじいさん「やめぇーっ、やめんか、へたくそ!」

ライカ「はっきり言ってくれるぜ、チェッ」

アキラじいさん「こんなにひでぇとは思わなかったぜ・・・合奏はやめだ。いまからパートごとに分かれて、基礎からみっちりと鍛え直してやる!」

一同「えーっ!」

アキラじいさん「・・・いやだったら、やめてもいいんだぜ」

ジュンくん「厳しい人だね」

コロナ「あたし、こわいわ」

 

 コロナの家、食事中。

 おとうさん、おかあさん、ターくんに向かってコロナ、練習の厳しさを話している。

 

ターくん「へぇ・・・おっかない先生ですね」

コロナ「うん、これから毎日、練習するんだって」

おかあさん「まあ、少しくらい厳しい方が、上達も早いだろうね」

コロナ「でも、すぐ怒るの。・・・あたし、やめちゃおうかな」

おかあさん「こら、おまえたちから言い出したんだろ。最後まで続けるんだよ」

コロナ「はーい・・・」

 

アキラじいさん「ちがうだろおめぇ! なんべん言わせたらわかんだよ」

コロナ「(食事のアングル。少し疲れた表情)・・・」

 

アキラじいさん「ふん、ちったあ上達したようだな」

コロナ「(同じ構図。少し嬉しそう)・・・」

 

アキラじいさん「ヘタヘタヘタヘタ、下手くそ!」

コロナ「(同じ構図。青ざめた顔)・・・」

 

 原っぱ。練習する生徒たち、アキラじいさん。

 少し離れておかあさん、ベルカ、ターくん見に来ている。

 

アキラじいさん「やめだ、やめぇーっ!」

おかあさん「おやおや、やってるねぇ」

ターくん「ほんと、怖そうですね」

ベルカ「いいんだよ、あのくらいで。・・・いやぁ、思い出すねえ、傭兵学校を

 

 演奏をやめる一同。チカ、ひたすら鈴を鳴らし続ける。

 

アキラじいさん「おいっ、やめって言うのがわかんねぇのか(鈴を奪う)」

チカ「(鈴を奪われた途端、羽根を鳴らし始める)」

アキラじいさん「(のけぞり)・・・まあいい、おい、お前!」

 

 アキラじいさん、ライカを指さし叱る。

 

アキラじいさん「てめぇ、このフレーズはやさしく演奏しろっていってるだろ? 力まかせにやるんじゃねえよこの、男女っ!

ライカ「なんだとっ!」

 

 ライカ、ホルスターに手をかける。

 原住民たち、ライカを必死に押さえる。

 

アキラじいさん「(うろたえながらも)なんだ、文句あるのか」

ライカ「・・・・・・・・・・・・・・・フン、やってられねーぜ」

 

 ライカ、銃をおさめ、静かに立ち去る。

 不安な表情で見送る生徒たち。

 

アキラじいさん「ボケナスが・・・ホラ、次行くぞ」

 

 ライカ、おかあさんたちとすれ違う。

 

ターくん「ライカさん・・・」

ライカ「(すれ違いざまに)ケッ、くだらねえ

 

 引き続き、練習をする生徒たち、

 アキラじいさん、突然タクトをたたきつけ、コロナを指さす。

 

アキラじいさん「おいお前ッ!」

コロナ「(おびえた顔)・・・」

アキラじいさん「ここはビブラートだろ・・・どうしてブレスが入るんだよ!」

コロナ「だって、息が・・・」

アキラじいさん「うるせえ、なんべん同じこと言わせたらわかるんだよ、おめぇはバカか!?」

コロナ「(涙目で)・・・ばかじゃ・・・ないもん・・・」

アキラじいさん「バカだよバカ、バカバカバカバカバカ!

 

 コロナ、大声で泣き出す。

 驚きあわてる原住民たち、トム。

 

ジュンくん「あーっ、泣かした!」

ショウちゃん「まずいぞまずいぞ」

ヤッくん「逃げろ、大変だぁ!」

アキラじいさん「ガキが・・・泣きゃそれですむって思ってやがる、甘ったれんじゃ・・・」

 

 突如、アキラじいさんを襲う爆発。

 おとうさん、完全戦闘態勢でアキラじいさんを狙っている。

 

アキラじいさん「な、何だ・・・」

おとうさん「激怒」

 

 おとうさん、集中攻撃。たちまち爆発につつまれる、アキラじいさんのシルエット。

 いち早く脱出した生徒たち、おかあさんたちの隣でその光景を見守る。

 

トム「あーあ、すっかり怒らせちゃったよ」

ジュンくん「危なかったね・・・」

ヤッくん「だから、いったのに」

ショウちゃん「いけーっ、とどめじゃーぁ!」

 

 攻撃がやむ。文字通りの焼け野原に、アキラじいさんがくすぶりつつ倒れている。

 そのそばには、羽根を鳴らし続けるチカ。

 

ジュンくん「あれじゃ、練習は中止だね・・・」

ライカ「(離れた木の上に横たわって)けっ、ざまーみろ」

 

 ベルカ、アキラじいさんに近づき、介抱する。

 その後方でおかあさん、通常形態に戻ったおとうさんを追い回している。

 

おかあさん「(おとうさんに)こら、なんてことしたんだい!」

ベルカ「大丈夫、まだ、息はあるぜ」

アキラじいさん「・・・くそ、くたばってたまるか」

 

アキラじいさん「・・・俺の音楽を、誰かに伝えなきゃならねえんだよ・・・」

 

 翌日、同じ原っぱ。

 たったひとり、アキラじいさんがタクトを手にたたずんでいる。

 

アキラじいさん「・・・・・・・・・・・・フン、根性なしどもが」

 

 カズちゃん、コーちゃん、楽器を手に登場。

 

カズちゃん「あ、いたいた」

コーちゃん「遅れてごめんなさい」

アキラじいさん「お、おめーら・・・やんのか?」

カズちゃん「(演奏の支度をしながら)うん、じいさんみたいに上手になりたいしね」

コーちゃん「ぼくたち、じいさんの曲を聴いて大きくなったんだ。一緒に演奏できて、みたいだよ」

アキラじいさん「・・・おだてたって、容赦はしねえぞ。よし、びしびし鍛えてやる!」

 

 3人、練習を始める。

 他の生徒達、遠くからその様子をこっそりとうかがっている。

 

ライカ「・・・ふんっ」

 

 学校の教室。

 カズちゃんとコーちゃん、他の生徒に練習の様子を話している。

 

コロナ「怖くないの?」

カズちゃん「そりゃ、相変わらず厳しいけどね」

コーちゃん「うん、すぐ怒るよね」

カズちゃん「だけど、リズムが正確に刻めるようになって、楽しいんだ」

トム「楽しい?」

コーちゃん「ホント、上達していってるのが、自分でわかるんだよね」

カズちゃん「もっとも、二人とも打楽器だから、全然演奏になってないんだけどね」

コーちゃん「あ、そうだっけ。そういえば」

 

 カズちゃん、コーちゃん、笑う。

 不思議そうに見つめるコロナ、ライカ、他の生徒。

 

 コロナの家、食事中。

 食卓を囲むコロナ、おかあさん、おとうさん、ターくん。

 (デン助もいるが、コマの隅にしかあらわれない)

 

おかあさん「ほんっとに、困った子だね・・・」

コロナ「だって、すぐガミガミいうんだよ」

おかあさん「何でも途中で投げ出すんじゃないよ、行きなさい!

コロナ「やだっ、絶対行かない!

おかあさん「こら、コロナ!」

ターくん「(おかあさんを止め)まあまあ、アネさん」

 

 ターくん、食器を持ってコロナの隣に移る。

 

ターくん「コロナちゃん、練習、やめちゃうんですか」

コロナ「うん。だって・・・」

ターくん「そうですか・・・残念ですね」

コロナ「え?」

ターくん「いえね、だんだん上手になってたっていうのに・・・もう聴けないんですね

コロナ「(嬉しそうに)ほんと?」

ターくん「ええ。練習の様子を見に行くのが、とっても楽しみだったんですがねぇ・・・(ため息をついて)そうか、残念だなぁ。上手だったのに・・・

コロナ「えへへ、そうかなぁ・・・」

 

 照れるコロナ。

 おかあさん、ターくんにウインクしてみせる。

 

 原住民の家。食事の支度をしているヤッくん、ショウちゃん、ショベルマウス。

 ライカ、ひとり寝っころがっている。悩んでいる表情。

 

ライカ「・・・・・・」

ショベルマウス「どうかしただか、ライカさん」

ライカ「だーっ、畜生!(突然起きあがる)」

 

 原っぱに向かう道。

 コロナ、おとうさん、ターくんが歩いている。

 

コロナ「いい、見に行くだけだからね。・・・どうせみんな、練習してないんだから」

ターくん「はい、はい」

 

 原っぱ。アキラじいさん、カズちゃん、コーちゃん、3人きりで練習している。

 アキラじいさん、アコーディオンを取り出す。

 

アキラじいさん「よし、次から曲をいれっからな」

カズちゃん「えっ、じゃ誰が指揮するの?

アキラじいさん「バカヤロ、何のために今までリズムをたたっこんできたと思ってんだよ」

コーちゃん「あぁ、じいさんの演奏だ!」

 

 3人、演奏を始める。楽しそうな表情。

 それを伺うコロナ達。

 

ターくん「楽しそうですね」

コロナ「・・・・・・」

ライカの声「なんだ、お前も来てたのか」

 

 ライカ、原住民、トム、チカ、楽器を手に登場。

 ライカをのぞく全員、なぜかそろって殴られたあとがある。

 

コロナ「ライカねーちゃん・・・」

ライカ「まあ・・・さ。けなされっぱなしじゃ、くやしいじゃん。びしっと演奏して、あのジジイを見返したいからな(他の生徒を引ったて)こいつらも、そうだってさ」

 

 ライカたち、練習に加わる。

 一人残されたコロナ、躊躇している。

 おとうさん、コロナにピアニカをそっと手渡す。

 

コロナ「あ・・・・・・」

ターくん「コロナちゃん・・・行ってらっしゃい」

コロナ「うん!」

 

 コロナ、練習に加わる。

 アキラじいさん、集まった生徒たちにぎょっとしながら、タクトを握る。

 

アキラじいさん「て、て、てめえら。今までなにサボってやがったんだ!」

ライカ「何をっ!」

アキラじいさん「このオタンコナスども・・・くそっ、てめえら見てたら、目にゴミが・・・入っちまったじゃねーか・・・(目頭を押さえる)」

ライカ「・・・ケッ、見てろよ老いぼれ。てめーが腰抜かすくらいの音楽を、聴かせてやるからな」

アキラじいさん「何をほざくか青二才が。おら、アタマからやんぞ(タクトを構える)」

 

 一同、練習を始める。みんな、楽しそう。

 おとうさんとターくん、その様子を見ている。

 

ターくん「本番が楽しみですね」

おとうさん「けひょ」

 

(Fin)

(H10.9.19)