「邪馬台国はどこですか?」
鯨統一郎



【内容紹介】連作短編集です。
 カウンター席だけの地下のバーに3人の客。某私立大学で歴史を専攻している三谷教授と助手の早乙女静、そして在野の歴史研究家らしい宮田六郎。この3人が集まると何故か毎度の如く濃密な歴史談義が交わされ、白熱したトークバトルが展開される。

『悟りを開いたのはいつですか?』
 ”仏陀の悟りが世界にとってどんな意味があるのか”というテーマで研究している静に、宮田は「仏教が宗教だとは思えないけどな」と一言。さらに宮田は「仏陀は、本当に悟りを開いたのだろうか?」と続ける……。

『邪馬台国はどこですか?』
 古代日本の女王国、邪馬台国がどこに存在していたのかはいまだ定かでない。学会を二分するという幾内(関西)説と九州説に対して、宮田が唱えたのはそのどちらともかけ離れた東北説だった。

『聖徳太子は誰ですか?』
 「聖徳太子と推古天皇が愛人関係にあったのでは?」という静の大胆な仮説に対して、宮田は失笑気味に「ひとりの人間が、自分自身と愛人関係に陥ることができるだろうか?」と答える。宮田は聖徳太子と推古天皇、さらには蘇我馬子までもが同一人物だと唱えるのだった。

『謀反の動機はなんですか?』
 本能寺の変。光秀の動機も定かではなく、主犯が光秀以外であるという説も飛び交う日本史史上空前の大事件。事件の黒幕が秀吉であるという説を新聞の記事で読んだ松永は3人の前で説明するのだが、静に頭から否定される。松永から助け船を求められた宮田が唱えた驚愕すべき説とは……。

『維新が起きたのは何故ですか?』
 開国反対、尊皇攘夷をうたった倒幕派が起こした明治維新。しかし、宮田は多くの人間が見逃してきた謎を提唱する。「維新が起こっても開国は行われ、政治は天皇の手には戻ることはなかった。維新があってもなくても、日本の政策に何の変化もなかったんだ。なのになぜ明治維新が起こったのだろう?」。

『奇跡はどのようになされたのですか?』
 イエスの復活は真実だったという宮田。「神話や伝説というのは普通、長い年月をかけて創られるものだろう? しかし、イエスの復活伝説だけは、彼の死後ただちにできあがっている。おかしいとは思わないのか?」


【感想】
 面白いです!
 歴史に興味のある方はもちろん、歴史に疎い方も存分に楽しめる作品でしょう!
 実際、私も高校の時分に世界史を習って以来、歴史なんて全くと言っていいほど勉強してなかったのですが、とても面白く読めました。まあ私の場合、基本的に歴史好きということもあったとは思いますけど。(笑)
 歴史研究家を自称する宮田がそれぞれ唱える説には異常なまでに説得力があって、歴史の素人なら読者の多くは宮田の諸説が真相なのではないのだろうかと思ってしまうことでしょう。一見してアクロバティック過ぎて無理があると思えるその発想も、しだいに紐解かれていくうちに真実味を帯びてくるんですねえ。戦国時代を除いた日本史に詳しくない私には邪馬台国、聖徳太子の2つのネタはきっとそうに違いない!と思えたくらいです。勿論、他のお話も同じくらいに真実味がありそうです。

 惜しむらくは、早乙女静の言動でしょう。「日本史、西洋史、東洋史の三史を同時に研究しなければ歴史の本質は見えてこないという観点から、自ら”世界史”という区分を創り上げた一種の天才」とはとても思えない、その稚拙な口調。さらには新説を頑強なまでに受け付けようとしない、頭の固い旧態以前ともいえるくらいに意固地な学者ぶり。これらの描写がやたらと気になるんですよね。
 その点が解消され、会話の機微がさらに楽しく描かれていれば、もっと面白くなるのは間違いないのですが。
 ネタバラへ(こびい)




















 以下、ネタバラシしてます。

『悟りを開いたのはいつですか?』
 ”仏教は宗教よりは哲学的で、生き方のアドバイスなのではなのかも”という話を以前に友人から聞いたことがありますが、まさに同じように書いてありました。
 それにしても奥さんの浮気が原因で仏陀、いや、ゴータマ・シッダールタは悟りを開こうとしていたとは驚きですねえ。しかも悟りを得てなかったために再び、座禅の行に付いていたなんて。 ”仏陀”が悟りをひらいた人という意味であるなら、彼は仏陀とは呼べないのでしょう。
 しかし、もしそうならば彼に対して親近感を感じることが出来るというものです。やはり、彼も人間だったのか、と。

『邪馬台国はどこですか?』
 魏志倭人伝が書かれていた時代には、中国によって書かれた日本地図は南北が逆に記されてあったことからの逆転の発想ですよねえ。しかし、それによって全てのパズルがピタリと収まるのですから、この東北説こそが真相なのではないのでしょうか?

『聖徳太子は誰ですか?』
 この当時の時代背景や歴史上の人物などを特に知らないため、読んでいてちょっと辛かったですねえ。それでも、歴史の教科書にも登場するほどの歴史上の人物が架空だなんて説は大胆すぎるのだろうなくらいは判りますが……。
 この作品を読んで改めて思ったのは「今に残る歴史は全て勝者の記録であり、一から十まで鵜呑みにしてはいけない」ということです。

『謀反の動機はなんですか?』
 ”信長は自殺だった”だなんて、今まで一体誰が説いたでしょう? 戦国時代に興味のある私には全くもって青天の霹靂でしたねえ。そして全話中で唯一受け入れがたい説であります。
 まあ、結局は私も頭の固い静並の人間ってことなのでしょうね。(笑)。

『維新が起きたのは何故ですか?』
 勝海舟が催眠術によって明治維新を起こしたなんて、学会で発表されたら一笑にふされる説でしょうね。まあ、他の説もそれに近いものがありそうですが。(笑)。
 しかし、それでも読み進むうちにやはり宮田の説が本当だと思えてしまうのです。

『奇跡はどのようになされたのですか?』
 イエスの復活は起こるべくして起きたような印象を受けました。それによって、イエスは人間から神へと箔をつけたのでしょう。まあ、何にしても人を騙しちゃいけませんよ。(笑)
(1999 こびい)


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