〈其の十二〉

 

あっと言う間に、桜の花も散り。川原では、柳のと

ぼけた穂も落ち、一斉に今年生まれの若葉たち

が、腕を伸ばし始めた。春の神様は大忙しで、花

見気分に浮かれていたと思ったら、もう山々の重

い雪どもを、谷へと落とし、渓流は白濁とした雪代

で増水している。この増水が、湖にいるワカサギの

産卵遡上に深く関わっている。 毎年この時期に

必ず、それを観に行くのが楽しみで、ついでにホ

ンのちょっぴり頂いて、春を満喫しています。(何

と云っても、この時期のワカサギが、卵を持ってい

るので一番「うまい!」。) でも、春の神様は気まぐれ

で、里に下りてスミレ達を起こしていたかと思うと、川

原の土手でお昼寝している。僕は春の神様とも友達

で、よく庭先で一緒に日向ぼっこをしながら世間話な

んかしたり、沢でフライを流し、ちびイワナに馬鹿にさ

れたりすると、岩陰からちゃぁんと観ていて笑われたり

している。

 そろそろ山の上に逃げていった冬の神様の尻を叩

いて、自分の居場所を造る頃だ。

 

四月某日(うたた寝気分)