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「バトル・ロワイアル」

2000年・日本(東映)
○監督:深作欣二○脚本:深作健太○原作:高見広春○撮影:柳島克己
藤原竜也(七原秋也)、前田亜希(中川典子)、ビートたけし(キタノ)、山本太郎(川野章吾)、安藤政信(桐山和雄)、柴咲コウ(相馬光子)、栗山千明(千草貴子)ほか



 
 あー、とうとう見ちゃいました。公開と同時に凄まじい賛否両論を巻き起こし、その後もなんだかんだと話題になり続けてはや4年。中学生(一部留年含む)で出演していた子役たちもすっかり大きくなっちゃって多くが第一線で活躍中、という状態になった今ごろになって本作をレンタルビデオで初鑑賞した。「なんとなく気が向いた」としか言いようがないのだが、先ごろ佐世保であった小学生同級生殺しでこの作品がまたぞろ話題にのぼったこともキッカケの一つではある。

 以前、僕は自分の映画の掲示板でこの映画について書いたことがある。映画の中身のことではなく上映をめぐっての論争に関してだが。まず原作小説が出た段階で賛否両論を巻き起こしていたが、映画化ということでさらに注目度が増していた。そして国会議員・石井紘基氏がこの映画の公開が「青少年に悪影響がある」として強く反対し、深作欣二監督と直接論争したりもしていたのだ。それに関して僕も書いたことがあるのだが、映画自体は見てないけど石井氏の映画論にはかなり偏見と無知があるとしか感じられず、深作監督の肩を持った覚えがある。ただし「自分だったらそういう映画を作ろうとはしないだろうし、劇場まで見に行くのもなぁ…」といった感覚だった。
 で、実際4年経った今ごろになって見ているわけで。その間に石井議員はつきまとっていた右翼男によって刺殺されるという思わぬ最期を遂げ(今なおこの事件にはどーも裏があるように思うんだが…)、深作監督は続編「バトル・ロワイアル2」のクランクイン直後にガンのため死去している。そして佐世保の小学生による同級生殺人事件では、犯人の女の子がかなりディープにこの「バトル・ロワイアル」(どちらかというと小説のほうみたいだが)を愛好していたことが報じられ、なんだかんだと余波が続いている。

 今回ふと見てみようと思ったのは特に問題意識を抱いたというほどでもないのだが…自分も中学生・小学生を相手に商売している人間なので佐世保の事件については身近に感じるところもあったし、「実際のところどういう作品になっているのか?」という興味がわいたのは確か。そんなに女の子が夢中になるような作品なんだろうか、ととりあえず映画のほうに手を出してみたわけだ。
 
 映画の大雑把な内容については、それこそさんざん論議されたり報じられたりしていたから発端から結末まで、一部の細かい部分にいたるまで事前に知識としてはもっていた。深作監督に捧げられたタランティーノ監督の「キル・ビルvol.1」(2003)でも栗山千明が出てきて「バトロワ」からの引用シーンをやっていたし。
 今さら説明の要もない物語の設定だが一応導入で書いておくと、日本がとうとう「壊れ」ちゃって、失業率上昇、不登校急増といった状態になり、子供たちを恐れた政府・国会は「新世紀教育改革法」通称『BR法』を制定した。これは毎年抽選で中学生の1クラスを選び、無人島で最後の一人になるまで殺し合いをさせるというもので、今年は主人公達のいる3年B組が選ばれた…というものだ。まずこの設定を思いついた原作者に感心しなきゃいけないところ。いや、思いつく人はいそうだけどそれを中学校の子供たち、同級生同士にやらせる…というのはなかなか怖くて書けたものではない。
 しかし原作読めば説明があるのかもしれないが、映画の冒頭の部分だけではどうしてこういう法律が出来ちゃったのか、また法律の狙いはなんなのか、よく分からない。もちろん「壊れた」国家の話だしそもそも設定そのものが無茶を承知のアイデアものなのだからツッコミをいれてもしょうがないんだけど。

 映画冒頭の30分弱が一番きつかったかなぁ…いや、僕はそもそも血を見るのがダメなんですよ(^^;)。理科の時間の血液循環の説明聞くだけでダメだってぐらいなんだから(笑)。そして全般に怖いのダメ。特にこういう設定の怖さっちゅうのが一番くるかもしれない。
 いきなり訳も分からないうちに無人島の教室に連れてこられ、こわーい自衛隊員たちに取り囲まれ、首には爆弾つきの首輪が(目の前で一人「実演」で殺されてしまう)、ミョーに明るい殺人ゲームのルール説明ビデオ(声優の宮村優子さんだったんですね、あれ)、そして普段の授業のように殺人ルールを説明し、逆らった生徒を投げナイフで即死させる教師キタノ(ビートたけし)。いやー、怖い。マジでこっから先見るのがイヤになってきた。
 だが、辛抱して見ているうち「ゲーム開始」となり、あとはもう目が離せないまま話がズンズン進んでいく。むろん陰惨な話ではあるんだけど、意外に気にならない。爽快感はさすがにないけど、それぞれの場面のアクションのキレはかなりあるし、展開もテンポよくハラハラドキドキ。ここはさすがにアクションベテランの深作演出、だと思う。

 中学生たちが殺し合いをする…ということで激しく非難もされる本作だが、実際に観て気をつけなくちゃいけないな、と思った点は、これは「子供たちが殺し合いをする話」ではなく「子供たちが殺し合いをさせられる話」だということ。殺しあわなければ自分が死ぬしかない、子供たちが大人によって意に反する極限状態を強制される話であることを見落としてはならない。冒頭の部分でこれはかなり強調されており、武装した自衛隊員たちが子供たちを扱う様子などはまさに戦争に駆り立てる軍人そのまんま。原作がどうだか知らないが、少なくとも映画ではこれを戦争のメタファーとして描こうとしているのが感じられる。
 実際、深作監督はこの映画の子供たちと同じ15歳の時に敗戦を迎えた世代。没後にNHK教育で放送された「仁義なき戦い」特番でもこの点に触れ、深作少年が勤労奉仕に動員されて艦砲射撃を受けた水戸で死体の後片付けをやらされたエピソードが紹介されていた。当時15歳と言うとまさに「本土決戦でみんな死ぬ」と本気で信じていた世代ですな。だから敗戦後大人をまったく信用しなくなった世代でもある。
 それが念頭にあったせいか、そういったメタファーを強く感じたところもある。世の中理不尽極まりない状況にいつの間にやら置かれるかもしれない、それは子供だって同じこと。その際たるものは戦争なんだと。

 この映画を見ていると誰もが思うのが「自分がもしこの状況に置かれたら…?」ということだろう。原作もそういうシチュエーションを設定したシミュレーション小説といった趣きを感じる。この映画でも中学生達は様々な対応をしていく。見てない人には誤解している人も多いのだが、実のところ積極的に殺人に走るのはほんの一部で、多くは友達同士グループを組んでなんとか生き残るすべを模索し、あるいは殺人を拒否して自殺してしまう。むろん疑心暗鬼から友人同士殺し合いになってしまうケースもあるが、多くは望まずしてやむなく殺人にいたってしまう。主人公となる秋也(藤原竜也)と典子(前田亜希)のカップル(?)だって全編にわたってほとんど殺しはしない。ちなみに僕なんかはこの状況に置かれるとやっぱり自殺しちゃいそうだと思った(汗)。
 42人の生徒が出てくるが、やはりメインとなる生徒は絞られてくる。印象的なのは男子では転校生である川野章吾(山本太郎)、桐山和雄(安藤政信)の二人。まぁこの二人はいわば特別枠参加であって厳密な同級生ではないのでキャラクター創造上自由度が高いんだけど。この映画の中でほとんど唯一安心して見ていられるキャラクター・章吾はこの映画の一服の清涼剤といったところだ。女子で印象に残るのはやっぱり積極的に殺しもしちゃうキャラである相馬光子(柴咲コウ)、千草貴子(栗山千明)か。今になってみると柴咲コウさんってコレに出てたんですね、ってな感じだ。
 意外と多いのが恋愛ばなし(キタノにまであるんだもんなぁ)。まぁちょうどそういうお年頃の設定だし、こうした極限状態になると死を前にして色恋関係が一気に吹き出してくるものだろう。それにしてもさすが美少年、実は密かにやたらにモテてる藤原竜也(笑)。しかし典子を最後まで守る、と誓うのはいいんだが、最後の二人になった場合どうする気だったのか、映画の中では全く分からない。実のところ僕などは見ていてその問題が最後のクライマックスになるのではないかと思っていたのだが…拍子抜けするほどアッサリとクリアされてしまう。まぁだから鑑賞後の印象が意外に爽やか、ということも言えるんだけど。

 ラストの秋也と典子の渋谷の逃避行は映画的には余計、という気がする。話に聞くと深作監督はもっとぶっ飛んだラストを考えていたが中止したと言うんだけど…島を去っていく海のシーンで綺麗に終わったほうが良かったんじゃないかな。
 鑑賞後の感想としては、やっぱりこれ映画として傑作の部類に入ってしまうと思う。「問題作」には違いないんだけど、話に引き込まれ、ハラハラドキドキ、終わって爽やか…という映画としてツボをしっかり押さえているのだ。タランティーノも言っていたが「人生の最後にあんなパワフル作品を作るなんて!」と深作欣二に賛辞を贈るほかは無い。
 ま、実のところ15歳未満には見せたくないな、と思いましたけどね…(2004/7/6)
 


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