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「ゴルゴ13・九竜の首」

1977年・東映/日本
○監督:野田幸男○原作:さいとう・たかを○脚本:中島信昭/杉本功○撮影:赤塚滋
千葉真一(デューク東郷)嘉倫(スミニー)ジェリー伊藤(ポランスキー)志穂美悦子(林玲)鶴田浩二(重宗千造)ほか




 前から存在は知っていて、会員になってるレンタル店にもしっかり置いてあり、見ようかな〜と思いつつ恐ろしさの余り(笑)手を出してこなかった一本。ひょっこりテレビ東京の深夜に放送していたんで見てしまった。言わずと知れた、さいとう・たかをの代表作にして長期連載を延々と続けている怪物的スナイパー劇画の実写映画化である。
 もともと映画的内容でもある「ゴルゴ13」については早い段階で映画化の企画が持ち上がり、原作者のさいとう・たかお氏が「主役は高倉健で海外ロケを行うこと」を条件に承諾、高倉健主演・佐藤純弥監督でイランロケを敢行し(当時イランはイスラム革命前で欧米的な文化・制度が導入されていた)、1973年に劇場公開されている。もともとゴルゴ13の容姿のモデルが高倉健当人であったこともあり、劇画・漫画の実写映画化にありがちな違和感はなかろう…と思ったのだが、結果から言うと違和感ありまくりで(笑)。リアル志向の劇画でありながら、やっぱり実写にするとウソっぽさが目立ってしまうのだなと思うばかりの一本だった。製作事情のためか唐突なラストになってたし。
 それで、と開き直ったのか(?)、この映画第2弾は主演の千葉真一が、最初見た瞬間誰もが苦笑を禁じえないほどバリバリのメイクで原作劇画のゴルゴになりすましている(笑)。ここまでやってしまえば、実写であろうとマンガ的世界。前作では条件を厳しくつけた「さいとう・たかを」氏がどう思ったかは定かではないが、もうあきらめていたのかな。

 さて、この千葉真一版「ゴルゴ」だが、タイトルのとおりで舞台は主に香港(そういえば「ポリスストーリー2」のサブタイトルが「九竜の眼」だったな)。原作同様に国際的活躍をするゴルゴならではの舞台設定だ。詳しい事情は知らないが、この映画の製作体制は実質香港との合作であったようで、香港側の主人公・刑事スミニーを演じる嘉倫がストーリー的にも千葉真一と完全にタメを張っており、役柄上出番も口数もあまり多くないゴルゴよりこっちのほうが主役に思えるぐらい。俳優も大半が香港の人たちで、日本側からは香港刑事を演じる志穂美悦子とか、ゴルゴと旧知の間柄らしい怪しげな日本人武器屋役で特別出演の鶴田浩二、国籍不明の外国人ならお任せのジェリー伊藤が出ている程度。
 俳優のみならず撮影スタッフも大半が香港人だったのではないかと感じさせるのが、妙に慌しいストーリー展開と各種アクションシーンの香港映画くささだ。もっとも日本のアクション映画が香港映画に影響を与えた過去もあるので一概には言えないかもしれないが。

 映画は冒頭、香港で殺し屋が返り討ちで殺されるところから始まる。その事件の捜査をするのがスミニー刑事で、のっけから「こっちが主役」アピールをしている。場面は変わってカリブ海のリゾート地のヨットの上でゴルゴ13に殺しの依頼をするシーンになるのだが、千葉ゴルゴはアクアラングで海中から登場したり、ターゲットの写真をその場で焼いちゃったり、様子をホテルのテラスから双眼鏡でうかがっていた依頼主の部下二人を遠撃ちで殺しちゃったり(かえって我が身を危険にさらす気もするのだが…)と、いきなり快調に飛ばしている(笑)。ここからゴルゴは香港に入り、ようやくタイトルが映し出される。オープニングで流れる曲にも「ゴルゴ〜♪」と女性のスキャットが流れ(このゴルゴのテーマ曲(?)は映画中節々で流される)、「なんだかなぁ」と思いつつ本編に入っていく事に。

 ゴルゴが暗殺を依頼されたのは表の顔は慈善事業にも熱心な実業家だが実は麻薬取引のボスだという男。スミニー刑事も彼を逮捕しようと捜査を進めていて、狙撃を図るゴルゴとの競争になる。スミニー刑事とその部下達のパートは完全に香港映画の麻薬捜査モノのノリで、「ゴルゴ13」の話だったことを忘れちゃうぐらい(笑)。一方のゴルゴも忙しいだろうに行きずりの女に人助けしたり、どうも「らしくない」。そしてなんだかんだでゴルゴがついにターゲットにライフルを向けたその時(どうも映画内時間的に早い気はしたんだ)、ゴルゴより先に別のスナイパーがターゲットの男を射殺してしまうという意外な展開に。
 原作でもそうだが「依頼と話が違う」ということになった時のゴルゴは怖い(汗)。このパターンだと依頼主がゴルゴに殺されてしまうのだが、依頼主はまったく関知しないところで、どうやら殺された当人の背後に本物の麻薬組織のボスがいるらしい、それを殺してくれという依頼に切り替わる。報酬金も跳ね上がったことでゴルゴは気分を治して(?)仕事を続ける事に。

 で、ここからゴルゴは真のターゲットを探す捜査を開始(もっとも観客には最初から真犯人はバレバレである)。もちろんそこはゴルゴだから、刑事のそれとは違って、あの手この手の謀略で手段なんか選ばない(特に子どもをダシに使うあたりなど)。この辺からようやくゴルゴらしくなってくるというか…しかし話の途中でスミニー刑事ともども日本、それも京都へ行くくだりがあるのだが、ほとんど意味が無いような。日本に留学しているスミニーの妹というのが出てきてお兄さんと一緒に新幹線に乗ってる場面とかもあったのだが、結局どういう意味があったんだろう?「ゴルゴ」でこの手の女性が出てくるとだいたいロクなことにならないのでヒヤヒヤしてしまったんだが…(TV放映のものだったのでカットされてたのかもしれないが)

 同じターゲットを、それぞれ逮捕と暗殺を目的に追うスミニーとゴルゴだが、クライマックスでは一見協力関係に。敵一味が立てこもる基地(?)にスミニーら刑事達が総攻撃をかける展開は、「燃えよドラゴン」とか、それこそ「九竜の眼」とかを思い起こさせる。だって銃撃戦のみならずカンフーもどきでケリつけてるようなところが大だし(笑)。しかし警察の総攻撃も実はゴルゴの作戦のうちだった…というオチになる。
 クライマックスの狙撃シーンはさすがは日本を代表するアクション俳優・千葉真一ならではの名場面。断崖に宙吊りになってヘリを狙撃するのだが、宙吊りになってるのはやはりノースタントの千葉真一本人なのかな(ロングショットでは確認できない)?「戦国自衛隊」でやっぱり宙吊りの狙撃シーンがあったような気がするし…。そのゴルゴの狙撃と作戦の凄さを強調しようと直後に入れた解説ナレーションが耳障りなのが残念。

 ラスト、香港を立ち去っていくゴルゴを、スミニーが見送り(?)に現れる。劇中二人が直接会うシーンはこの場面を含めて二度しかない。自分をまんまと利用して「仕事」をやり遂げたゴルゴに、スミニーが怒りの鉄拳をお見舞いし、ゴルゴは黙って立ち去っていく。どうしても香港側主役の嘉倫に花を持たせるためだけのラストシーン…という気がしてしまう。やっぱり半分以上香港映画なんだよな、これって。

 その後、現在に至るまで「ゴルゴ13」の実写化は試みられてはいない(CGを導入したアニメ化は一本だけある)。最近日本でもマンガ原作の実写化が相次いでるので、もしかすると企画が出てくるかもしれないが…高倉健も千葉真一も、今はさすがに無理だよなぁ、って、ゴルゴさんっていったい何歳になってるんだ? (2005/7/17)
 
 

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