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「仁義なき戦い・頂上作戦」

1974年・日本・東映
○監督:深作欣二○脚本:笠原和夫○撮影:吉田貞次○美術:井川徳直○音楽:津島利章○原作:飯干晃一○企画:日下部五朗
菅原文太(広能昌三)、小林旭(武田明)、金子信雄(山守義雄)、木村俊恵(山守利香)、小池朝雄(岡島英次)、松方弘樹(藤田正一)、田中邦衛(槙原政吉)、山城新伍(江田省一)、加藤武(打本昇)、室田日出男(早川英男)、梅宮辰夫(岩井信一)、黒沢年男(竹本繁)、小林稔侍(谷口寛)、三上真一郎(川田英光)、小倉一郎(野崎弘)、長谷川明男(福田泰樹)、三重子(渚まゆみ)、夏八木勲(仲本博)ほか




  「仁義なき戦い」シリーズもとうとう第4弾。当初からのメインであった広島第二次抗争(いわゆる「代理戦争」)が描かれる。本来は前作「代理戦争」でそれを描くはずだったのだが情報量膨大のため前作は第二次抗争勃発までの経過が描かれ、抗争そのものの経過はこの「頂上作戦」で描くことになった。脚本の笠原和夫も、監督の深作欣二もこの第四部でシリーズ終了と決めていて、ラストもシリーズ終焉にふさわしいものとなっているのだが、結局このドル箱シリーズを会社が逃がすはずはなく、このあともう一本「完結編」が作られることになってしまう。

 そういう事情なので「頂上作戦」は「代理戦争」の完全な続編であり、登場人物の多くがそのまま続投している。それでも一本一本の独立性が高いシリーズでもあるので、前作の内容を忘れていてもそう問題はないと思う。前作で二転三転複雑な経緯をたどった対立構図もここでは一応固まっていて、新たな第三勢力として「義西会」が登場するけど全く新規の登場なのでそう戸惑わないはず。むしろ戸惑うのは一作目で死んだ松方弘樹とか、二作目で死んだ小池朝雄が何食わぬ顔で別人の役で登場してまた死ぬ(笑)ことだが、もうこれは「仁義」ワールドのお約束のようなもんである。

 広島ヤクザの跡目相続争いから始まった対立はそれぞれの陣営が明石組(山口組がモデル)・神和会(本多会がモデル)という神戸の二大勢力をバックに付けた「代理戦争」となった。いろいろややこしい経緯があったが山守義雄(演:金子信雄)からとうとう破門をくらった広能昌三(演:菅原文太)は打越会と明石組陣営に身を置き、武器も用意して抗争へ本格的に突入する。広能の子分たちは金属パイプ製槍の先に青酸カリを塗ってるとか恐ろしい準備もしているし、神戸の神和会の会合に出かける山守を直接殺しにいくとか、かなり戦闘的なのだが、実のところ映画の中ではほとんど肩透かし。
 だいたい主人公である広能自身が山守らのタレコミで警察に早々に逮捕されて戦場から姿を消してしまい、後半ほとんど出てこない。こういうところも史実だからしょうがないのだが(映画で文太の「それは山守しか知らんはずじゃが」のセリフも現実に吐かれたもの。ただし映画の山城新伍の役のモデルの名を出したという)、つくづく主人公不在が多いシリーズである。

 前作同様に多くのキャラクターが出て入り乱れるストーリーだが、「頂上作戦」は特にキャラが多い。各グループの親分クラスはもちろんその下っ端の連中までスポットが当てられていて、夏八木勲小林稔侍といった後年の大物がほとんどチンピラ役ながら強い印象を残す。毎回メンバーが違う気がする広能組(野口貴史だけが唯一全作で子分役)には当時はまだアイドル的存在でもあった黒沢年男がゲスト出演。男たちに翻弄され続ける薄幸の女を演じた渚まゆみは大筋にはほとんど無関係なんだけどやはり記憶に残る。なんか、この「頂上作戦」ではこういう人たちの「脇道」エピソードが本筋よりも記憶に残る気がする。
 ところでタイトルにもなった「頂上作戦」とはヤクザ側の作戦の事ではなく、世論に押されてヤクザ撲滅にとりかかった警察側の作戦名。このためこれまであまり描かれなかった警察側の描写もあり、また「暴力に屈するな」と命をかけた抗争取材を進めるマスコミ(広島新聞社がモデル)の活動もチラッとではあるが挿入され、名優・鈴木瑞穂が編集長役でほぼ1シーンのみの登場ながら名演説をぶって場面をさらう(この人、次の「完結編」では警察役なのでややこしい)。この抗争時の新聞記者たちの取材は「ある勇気の記録」という書籍にまとめられドラマ化もされているのだが、実は刑務所でこの本を読んだ美能幸三が激怒して自ら手記を綴り、それが「仁義なき戦い」になったという経緯があり、映画のこの1シーンはさりげなくそのつながりに触れているわけだ。

 この映画でもっとも「劇的」なシーンは、小池朝雄演じる岡島が小学校の同級生や老恩師と一緒に温泉に行き、そこで一同の目の前で射殺される場面だ。あまりにも「劇的」なので映画用のフィクションだろうと思ったらさにあらず。実はほとんど史実そのままの再現なのである。さすがに「見てのとおりじゃ」と犯人が言ったりはしなかったそうだが。あと映画では暗殺の背後に山守がいることになっているが、それも事実ではないようだ。
 事実関係ということでは、抗争の最中の敵同士なのに打本(演:加藤武)武田(演:小林旭)にヒットマン襲撃を教え、「代わりに二千万ほど都合してくれ」と頼んで「ケンカ相手に金貸すバカがおるか、ボケ!」と言われちゃう大笑いの場面があり、「さすがに創作」とする発言や書籍もあるのだが、どうもこの逸話、武田のモデルである人物が笠原和夫に教えたネタの一つらしく、事実であるらしい(この人物は「広島死闘編」のネタ提供者でもある)。だとするとそのヒットマンたちと同じ車に「呉越同舟」で乗りこんでしまい、その車がエンコして敵味方一緒に押すはめになるというおかしな場面も、実際にそれに近い状況があったのだと思われる。
 もちろん明白なフィクションもあり、例えばラストで松方弘樹を殺してしまう小倉一郎のキャラクターは、悲惨な境遇に育ってヤクザに入るものの使い捨てのように利用される悲劇性が強調されているが、このモデルの人物はこの暗殺直後に自主した上にその「功績」により出世してその後しっかり幹部になっているそうで。

 いろいろややこしいことになった末に、抗争の構図は全国区の巨大組織・明石組と、広島在地ヤクザ連合の対決という、変な例えだがプロ野球の巨人広島戦みたいな形になってくる(神戸だからといって阪神に例えるのはこの場合適切ではあるまい)。「広島極道はイモかもしれんが、旅(よそ者)の風下に立ったことはないんで。神戸のもんは猫一匹通さん」「おどれら、吐いたつば飲まんとけよ!」とやる応酬も凄い。とうとう武田は神戸の明石組組長宅(そういえば丹波哲郎は今回は出てこない)をダイナマイトで襲撃という主人公・広能もやらないような強硬策をとり、後半はほとんどこっちが主役の観。「地方VS全国」の構図でいうと広能は広島ヤクザでありながら全国区側についちゃったわけで、この点でも主役らしくない。

 物語のラスト、結局警察の「頂上作戦」により抗争に参加していた幹部のほぼ全員が逮捕され、刑務所送りになってしまい、抗争はなんら実りのない結末を迎えてしまう。広能の本来の目標である山守打倒は全くの空振りというわけでもないのだが、本人も「間尺に合わん仕事をしたのう」とつぶやくように、まるで釣り合いのとれない結果に。広能と武田が極寒の網走刑務所で、お互い実りのない抗争をしたあげく、もう贅沢を覚えてしまい若いころのようにハングリーにはなれない状況を共感し合い、「もうわしらの時代はしまいで…」と語り合うラストはとても物寂しい。その直前、明石組からの豪華な弁当の差し入れを弁護士が皮肉り、「ヤクザの親分」を強烈に批判するシーンも印象的だ。本人としてはそうじゃないと主張したいところだが、はたから見れば広能もまた山守同様に若者の命を利用し、散らして上昇した存在だったのかも、という問いかけでもある。

 そんなわけでカタルシスとは程遠い結末で「仁義なき戦い」はひとまず完結した。少なくとも深作欣二も笠原和夫もこの第四部で完結させたつもりだった。ところが完成直後に東映の岡田茂社長は「もう一作作れ」と指示、結局笠原は降板して第五部「完結編」が製作されることになる。だから「仁義なき戦い」ファンの一部ではこの第四部までしか「本編」と認めず、広能と武田の刑務所での別れの場面こそシリーズラストシーンであり、あとは蛇足、とする意見もある。まぁ「完結編」は「完結編」なりにきちんとシリーズにケリをつけてる…という話はそっちのほうで。(2012/7/7)



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