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「ベスト・キッド」(2010年版)
The Karate Kid
2010年・アメリカ
○監督:ハラルド=ズワイト○脚本:クリストファー=マーシー○撮影:ロジャー=プラット○音楽:ジェームズ=ホーナー
ジェイデン=スミス(ドレ)、ジャッキ=チェン(ハン)、タラジ=P=ヘンソン(シェリー)、ハン=ウェンウェン(メイ・リン)ほか




  「ベスト・キッド」は英題のくせに日本独自の訳題。原題は「TheKarateKid」で、1984年のオリジナル版もこのタイトルだったが、肝心の日本では「カラテ」なんて日本語がつくと売れないとでも思ったのか「ベスト・キッド」というよくわからん和製英語タイトルにされてしまった。そしてそれがリメイクされたわけだが舞台は中国は北京に移され、登場する武術は当然空手ではなくカンフーになってしまった。それなのに原題はやっぱり「カラテ・キッド」のままで、日本ではやっぱり「ベスト・キッド」の訳題で公開するという実にややこしいことになってしまった。

 最初のオリジナル版を、僕は中学校の「三年生を送る会」なる事実上の映画観賞会で生徒全員で見せられている(ちなみに他の年度は「ゴーストバスターズ」と「炎のランナー」で、選択の基準がよく分からなかった)。いじめられっ子の少年が風変りな日系老人から空手の手ほどきを受け強くなり、大会でいじめ相手に勝利するという、まとめてしまえば単純かつ王道なストーリーで(だからこそヒットしたのだ)、単調なペンキ塗り作業が実は空手の型の練習になってるところとか、盆栽とバンザイがゴチャゴチャになるところとか、いろいろ印象に残った。「ミヤギさん」を演じたパット=モリタの存在感も忘れ難い。この映画はヒットしてシリーズが4作も作られたのだが、僕は続編は一本も見たことがない。

 さて、その「ベスト・キッド」を舞台を中国に移してリメイクと聞いた時には、「アメリカにおける80年代ごろの日本の存在感が今の中国のそれに代わってるわけだな」などと勝手に納得してしまった。デトロイトの自動車工場に勤めていた母親が不景気で中国に転勤することになり、主人公の少年も不本意ながら北京に移り住むことになるという冒頭部分も、80年代の「ガン・ホー」を連想させる(状況はずいぶん違うけど)。ちょうど北京オリンピック前後の時期の北京でロケをしているので昔ながらの古い街並みと最新のビルが立ち並ぶ光景とが入り混じる「いまどきの北京」が見られるのも僕には興味深かった。

 リメイクだけに物語の基本構造はオリジナルに沿っている。主人公の少年はいじめられ、そこを風変りな武術の達人に救われる。そしてその達人に弟子入りして一見奇妙な特訓をさせられて主人公は上達、空手大会でいじめっ子を破り、同時並行で初恋も実らせる、といった展開はしっかり踏襲されている。ただ舞台そのものが中国に移ったことで「カラテ」がずばり「カンフー」になり、特訓部分はより本格的かついっそう神秘的になった(そもそも「ヘンな特訓」という演出は香港カンフー映画にルーツがある)。そしてなんといってもオリジナル版の「ミヤギさん」にあたる役どころをカンフーアクションの大スター・ジャッキー=チェンが演じたことで、なおさら説得力がつくことになった。

 ジャッキー演じるアパートの管理人さんはオリジナルの「ミヤギさん」に比べるとやや若い。それでも最初にその配役を聞いた時は「ジャッキーもとうとうそんな役を演じる年になったか…」と感慨深く思ったものだ。先に「ラスト・ソルジャー」を観ていたので、最近のジャッキーが思いのほか順調に老け役に移行していることは分かっていたから、その点についてはこの映画も安心して(?)観ていられた。結論から言うとミヤギさんとはだいぶ違うんだけど(もっと頼りになるというか…)、「いい味」を出せていたと思う。オリジナルの細かいところは忘れたけど、この管理人さんに悲劇的な過去があったことになってるところとか、主人公の少年と単なる師弟関係を越えて「父子」のような感じになるのはこの映画の追加点のはずだ。

 北京が舞台になったことで、カタキ役の少年も、初恋相手の少女も中国人。女の子の方は美少女かどうかは人により意見が分かれそうだけど、どっちかというと欧米人の目から見たエキゾチックさを優先したようでもある。主人公のアメリカ少年が黒人というのも前作との大きな違いで、おまけにその子役ジェイデン=スミスが大スター・ウィル=スミスの息子さんだというのもオドロキだ。予告編の映像等であの髪の結い型を観た時は女の子を主役にしたか(シリーズではそういうのもあった)と思ってしまったほどだが、まったくの異郷に飛び込んでしまったアメリカ少年の戸惑いと鬱屈とがなかなかリアルに演じられていた。もしかすると撮影現場での素の姿だったかもしれないな。(2013/2/14)



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