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「酔拳2」
醉拳II/Drunken Master II
1994年・香港
○監督:ラウ=カーリョン○脚本:エドワード=タン/トン=マンミン/ユエン=カイチー○撮影:チョン=イウチョン/マー=コンシン/チャン=トンリョン/ウォン=マンワン○音楽:ウー=ワイラップ○製作:エリック=ツァン/エドワード=タン/バービー=トン○製作総指揮:レナード=ホー
ジャッキー=チェン(黄飛鴻)、アニタ=ムイ(リン)、ティ=ロン(黄麒英)、ラウ=カーリョン(フク=マンケイ)、フェリックス=ウォン(ツァン)、ロウ=ホイクォン(ジョン)、ホー=ヨンファン(ファン)ほか




 「酔拳」は1978年公開のジャッキー=チェンの出世作。「2」なんだから一応その続編なんだけど、その間に実に16年の歳月が流れてジャッキーも40近い中年になり、世界的な大スターに成長した。こんなに間の空いた続編も珍しいが、たぶんだけどジャッキー自身や周辺が「原点回帰」な意図をもってわざわざ「2」を作ることにしたんじゃないかと。この時期ジャッキーも現代を舞台にしたものが続いていたので、ちょっと昔を背景にした「時代劇」をやってみたいということもあったのかも。

 ジャッキーが演じる主人公は前作同様、ファン=フェイホン(黄飛鴻)。伝説的存在の実在武術家だが、その青年期、実はかなりのドラ息子で親を困らせているという設定は相変わらず。さすがに前作に比べりゃジャッキーも年は取ったが、もともとこの人童顔の若作りだから特に違和感なし。
 嬉しいのは生真面目な父親役で往年のカンフー映画スターのティ=ロンが出ていること。と言いつつ僕も「男たちの挽歌」2作でしか見たことないけど。その奥さんにアニタ=ムイ。これがジャッキーの母親役って無理ないか?と最初は思ったのだが、よく設定を見たら父の後妻、継母ということなんですな。こちらは夫と違って奥様仲間とコソコソ麻雀はしてるわ、息子の隠蔽工作を手伝うわ、息子に酒をガンガン飲ませて禁じ手の「酔拳」を使うようにけしかけるわ、かなり笑えるキャラクターになっている。このお義母さんのおかげでフェイホンが前作よりいくらか真面目に見えるんだよな。僕はこの映画を吹き替え版で見たのだが、このお義母さんが「チョベリグ」なんて言葉を口にしてて、いつごろの収録だったんだか。

 時代は20世紀初頭の清代末期。中国が列強の食い物にされてる時代を背景にしていて、いくらか「愛国調」な要素もある。深読みすると、この時期香港返還が迫っていたことも製作事情にあったかもしれない。
 映画の冒頭、フェイホンは薬屋の父親と一緒に漢方薬の材料を仕入れて駅へとやって来る。ここで荷物に応じて税金をとられそうになったので、フェイホンは一計を案じて朝鮮人参をこっそりとイギリス人一行の荷物に紛れ込ませて税関を突破するのだが、それを取り戻す際に、偶然にもイギリス人たちが国外に持ち出そうとしていた玉璽(皇帝のハンコ)と形が似ていたために取り違えてしまう。列車の中で手荷物検査が行われるが、たまたま通りかかった「将軍の息子」が助け舟を出してくれて事なきを得る。この「将軍の息子」さんを演じてるのが、この時期すでにスターであったアンディ=ラウなのだが、「特別出演」ということで出番はこの列車関連のシーンだけ。あとでもう一度出てくるような雰囲気もあったんだが、それっきりである。

 一方、玉璽を外国に渡してなるかとフク=マンケイという武術家が追跡していて、そうとは知らぬフェイホンと列車やホームの下で大乱戦。このフク=マンケイを演じているのが「監督」としてもクレジットされているラウ=カーリョン(劉家良)だ。ジャッキーなんて小僧扱いと言っていいほどのカンフー映画の大古参で、事情はよく知らないがジャッキーが「原点回帰」を狙った「古典」の続編を作るにあたって、大ベテランを監督に招聘したんじゃないかと。
 確かにご老体ながら槍といい拳法といい、なかなかの暴れっぷりを披露してくれるのだが、鑑賞後に調べて知ったところによると、実は撮影中にラウ=カーリョンの演出する古風なカンフーアクションがジャッキー側のスタッフから批判を呼び、結局ラウ=カーリョンは監督を途中降板、そのあとのアクション演出はジャッキーが行っているのだそうだ。この降板騒ぎについてはジャッキーも自著で触れてるそうで「意見の相違はあったが友人関係はそのまま」と書いてるらしい。

 香港映画は現場でシナリオがどんどん変えられるという話も聞くのでそればかりが理由とは断定できないが、序盤の列車や駅のシーンの重厚歴史劇風味も感じさせる部分と、中盤からの黄家での家族コント的な部分に僕はずいぶんギャップを感じていて、降板事情を知ったらなんとなく納得してしまった(もちろん当初からその予定ということもありうるが)。特別出演とはいえアンディ=ラウだって何のために出てるのかわからず、それも降板による路線変更で出番がなくなったんじゃなかろうか。カーリョン演じるフク=マンケイの唐突な「戦死」も降板ゆえではなかろうか…などなど、いろいろ深読みしたくもなる。
 さらにネットで調べてて知ったことだが、この降板直後にラウ=カーリョンは頼まれ仕事としてやはり「酔拳」をテーマとする映画の監督・出演をして「酔拳2」と同年公開しており、日本ではこれが「酔拳3」のタイトルでビデオリリースされている(笑)。もちろんジャッキーは出てないがアンディ=ラウがこっちにも顔見せ程度に出演しており、一部では「酔拳2へのあてつけ」なんて憶測もあるみたい。ま、あくまで憶測だけど。

 フェイホンと両親がドタバタコントを繰り広げるほかに、フェイホンに気があるらしい(?)蛇つかいの女ファン(演;ホー=ヨンファン)、彼女をめぐってフェイホンとか恋敵になっている魚屋の武術家ツァン(演:フェリックス=ウォン)なども登場、フェイホンの協力者として話に絡んでくるのだけど、残念ながらそてほど印象に残らない。むしろ敵役、イギリス領事の子分でかなりの凄腕のジョン(演:ロウ=ホイクォン)の存在感が強烈。なんでももともとキックボクシングの選手で、ジャッキーに拾われてそのボディガード兼アクションアクターになったという人だそうで、ラストの製鉄所での長時間の決闘シーンで名演を見せてくれる。

 そうそう、この製鉄所が序盤に出てきて、イギリス人たちがジョンを使って労働者をこき使う場面が描かれるんだけど、出てきた時点で「ああ、ここがクライマックスの場になるんだな」と一目瞭然。特に「工業用アルコール」がチラッとだけど出てくるので、オチで使われるのは丸わかりだった。なんせ「酔えば酔うほど強くなる」の酔拳、映画の途中でベロベロになるまで酔って暴れてしまい、そのあと禁酒にされるフェイホンが、この製鉄所でのクライマックスでこの工業用アルコールを利用するという、いささか分かりやすすぎる伏線という気もしたな。
 工業用アルコール(映画でどういうものを使ったかはわからない)を飲んだフェイホンが、口から火を吹く大道芸みたいなことをやる場面がある。僕はこれを見て「おお、白土三平が漫画で描いてた火炎縛りの術ってできるんだ!」と喜んじゃったもんだが(あれもアルコールを口にふくんで、という種なんだよね)、実のところ体に悪そうな…ラストに「飲みすぎ」で口からシャボン玉を吐くカットがあるが、あれも何か薬品を飲んでるらしく、あとで大変だったとか。ホントに体を張ってしまうジャッキー、製鉄所という舞台でのアクションだけに、文字通り火だるまになるような危険カット(NGカットにもバッチリその危険さが映っている)を連発してくれる。

 で、僕が見たバージョンでも映画はジャッキーがジョンとの決闘に勝って口から泡を吹くカットでジ・エンドになっていて、ずいぶん中途半端な終わり方に感じたのだが、見終えてから知ったところによると実は香港での公開時はこのあとのエピローグが存在した。他のジャッキー映画でおなじみのトン=ピョウ演じる「将軍」(ってことはアンディ=ラウの父親ってことか?)が黄家に表彰に訪れるが、肝心のフェイホンはアルコールの飲みすぎで目も見えなくなり頭もおかしくなってしまっていた…というブラックジョークなオチがついて終わっていたのだ。youtubeでその実物を拝んだが、まぁドリフのコント的な笑えるオチであり、これがないと映画がどうもしまりのない終わり方になってるのは確か。こんな「結果」になっちゃうのは恐らく「真似しちゃいけません」という特に子供向けの注意のつもりだったかもしれないし、フェイホンは実在人物なので「一時的な症状」というつもりでもあったんだろう。でもやっぱり障害を笑いの種にしたと言われかねないオチでもあるので香港以外の公開ではカットされ、今も基本的には封印されてるようだ。

 このオチの有無とは別に、本来ならラスボスになるはずのイギリス領事がそのまんまになってることとか、監督交代や路線変更の影響に思える中途半端要素がほかにもある。ジャッキー映画としては十分に楽しめるとは思うんだけど、映画としての完成度は今一つという気がした。ジャッキー自身、本物の「酔拳3」を作る気があるとかないとかいう話もあるみたいなんだけどね。(2015/11/1)



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