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「銀河鉄道999」

1979年・東映動画
○製作:今井智憲○企画・原作・構成:松本零士○監督:りん・たろう○脚本:石森史郎○作画監督:小松原一男○美術:椋尾篁・窪田忠雄○監修:市川崑○音楽:青木望○主題歌:ゴダイゴ
野沢雅子(鉄郎)、池田昌子(メーテル)、肝付兼太(車掌)、富山敬(トチロー)、井上真樹夫(ハーロック)、田島令子(エメラルダス)、麻上洋子(クレア)、久松保夫(アンタレス)、来宮良子(プロメシューム)、納谷吾朗(ドクターバン)、城達也(ナレーション)




 恐らく僕が映画館で最初に観た映画である(もちろん小学校低学年)。そして記憶が脳裏にこびりついたまま成長し、大学入学直後にビデオで再会。完全に私個人の中で不動の一位の座を占めてしまった名作である。とにかく「アニメ映画」として完璧に近い完成度を誇っている(と個人的に思う)。公開年度邦画の最高配給収入を記録し、今なお名高いゴダイゴの主題歌と共に一種の社会現象となった。あの「キネマ旬報」の読者投票ランキングでアニメ映画としては初のベスト10入りも果たしている。当時のアニメに対する認知度を考えると、今だったら1位は間違いなかったかと思える。

まずシナリオが素晴らしい。原作の熱烈ファンはあれこれ言うだろうが、あれほど長大な原作を大胆に改造しながら、見事に原作のもつ魅力をピックアップした例はちょっと他に例がない。特に原作からの引用でありながら原作以上に生かされたトチローの母や山賊アンタレス、そして何といってもガラスのクレアの配置はもう見事と言うほか無い。さらに原作では冒頭に置かれていた機械伯爵への復讐を中盤クライマックスにすえ、鉄郎が命の尊さに目覚めるという展開に説得力をもたせている。これに絡むトチロー、ハーロック、エメラルダス等は原作では映画製作と同時進行で組み込まれているので比較論がやりにくいが、映画の中では非常にすんなりとストーリーにとけ込んでいる。特にトチローの死は本作中の名シーンと言えよう(ハーモニカのテーマが良すぎた)。考えてみると主人公の鉄郎自身も原作とかけ離れた風貌となり、年齢も上がっていた。結果としてこれも成功している。

総じてとても長編連載漫画の原作付きとは思えぬ「映画」としての構成の見事さは、原作者が製作に深く関わっている事もさることながら、映画監督である名匠・市川崑が監修にあたっていることが大きいようである。あくまで原作とは別個の、独立した「映画」としての完成を目指したスタッフ達の意図が、大きな成功をもたらしたと言えるだろう。またこの映画は原作より先に物語の結末をつけているため、原作が後からこれをなぞったという一風変わった経緯がある。双方を見比べると、どうしても映画のラストの方が強烈で、物語としての完成度の高さをより強めている。これに関しては「原作を越えた」希有なアニメ映画と言えるだろう(もちろん、原作は原作で違った味わいがありますけどね)。

またアニメならではの映像美が忘れがたい。SLが宇宙空間を疾走するという設定自体がアニメ的なのだが、これがまた非常に美しく、文字通り「絵」になるのだ。地球を出発した999の旅立ちを見送るように、丸い地平線から太陽が昇ってくるシーンを見よ!鳥肌が立ちますよ、今でも。土星の輪をくぐり抜ける999,崩壊する時間城、機械化母星の大破壊シーン(ちょっとやり過ぎって気もしなくはないが)、美しい音楽と共に消えて行くプロメシューム、そしてもう涙が止まらない状態の鉄郎とメーテルの別れのシーン。いやー、こう書いてても書き足りないぐらい名シーンが詰まっている。「映画」としての完成度が高いと何度も言ってるが「アニメ」のメリットを最大限に生かしている演出である。その後監督のりん・たろうには一部で「アニメ界の映像の魔術師」なんて異名が奉られてしまった(まぁその後は当たり外れが大きいような気もするが)。

松本作品特有のナレーションを城達也が担当し、これもカッコよかった。「さらばメーテル、さらば銀河鉄道999、さらば少年の日よー」ラストの名セリフ。そしてトドメを刺したのは、その後に流れてくるゴダイゴの主題歌であろう。当時のゴダイゴの人気といったら凄いモノで、何か耳に入ってくる音楽がみんなゴダイゴだった様な記憶もある。線路の上を走り去って行く鉄郎を映しながら流れて行くスタッフロール。そこにかぶさる名曲。僕は実は「予告編」と「スタッフロール」を楽しみに劇場に行く妙な奴であるが、このエンディングはその目から見ても絶品である。スタッフロールが始まると席を立つ不届きモノをも座らせておく絶妙のエンディングと言えよう(笑)。

近頃原作の続編が書かれ、映画も作られ、再びブームの予感も感じる「999」だが、ま、僕自身の「999」の最高傑作はこれ、ということで動かないだろう。幼児体験とは恐ろしいモノだ(笑)。(98/3/30)


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