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「オネアミスの翼・王立宇宙軍」

1987年・バンダイ・ガイナックス
○原案・脚本・監督:山賀博之○作画監督:貞本義行・庵野秀明・飯田史雄・森山雄治○助監督:赤井孝美・樋口真嗣・増尾昭一○美術:小倉宏昌○音楽:坂本龍一○スペシャルエフェクト:庵野秀明○企画・プロデューサー:岡田斗司夫
森本レオ(シロツグ)、弥生みつき(リイクニ)、曾我部和恭(マティ)、大塚周夫(グノォム)、内田稔(将軍)ほか




 この映画、最近は「王立宇宙軍」というタイトルがメインに据えられ、「オネアミスの翼」はサブタイトルに回されている。本来の企画タイトルは「王立宇宙軍」のみだったらしく、名前が地味だからと「オネアミスの翼」というタイトルをつけて「王立宇宙軍」をサブタイトルに入れたという経緯だったようだ。確かに「王立宇宙軍」では客は入りにくいだろう。音楽担当の坂本龍一もタイトルを聞いたとき「右翼の映画か」と思ったと言うし(笑)。実は僕も当時「宇宙軍」と言うタイトルには何かキナ臭いものを予想した覚えがある。しかし内容はコメディー調だったので良い意味で裏切られたと思ったものだ。確かに内容的には「王立宇宙軍」がピッタリ(そのいかめしさとのギャップこみで)なんだけどね。

個人的には「ナウシカ・ショック」の次に体験したアニメショックだったと思う。直後ぐらいに観た気でいたのだがデータで調べると3年も後だったんだ、と気づかされた。当時この映画について宮崎駿が「僕たちの後継者が出来た」などと映画の宣伝広告で言っていたような記憶がある。正直なところ当時それほど話題にはならなかったような気がする(少なくとも「ナウシカ」の時ほどには)が、僕も含む一部の人の間では強烈な印象を残した作品だ。アニメファンよりも「映画」のファンが高く評価したかも知れない。
 それでも今改めてこの映画のスタッフを眺めていると「アニメ史」において歴史的な意味を持つ映画だと思わされる。この映画が「ガイナックス」のデビュー作品であることは良く知られているが(正確にはこの映画を作るために「ガイナックス」が設立されたらしいが)、このためスタッフにはかの「ナディア」「エヴァンゲリオン」の庵野秀明と貞本義行、ゲーム「プリンセスメーカー」の赤井孝美、「平成ガメラ」の特撮監督・樋口真嗣、今や「オタク」以外にも幅を広げている気がする評論家・岡田斗司夫などなど、そうそうたる人脈が名を連ねている。今でこそいずれもビッグネームだが当然当時はほとんど無名だったと言って良い。だいたい脚本・監督の山賀博之からして当時弱冠24歳。今でこそ凄い人達と分かっているが、当時においてよくこのスタッフにこんな超大作(確か8億円ぐらいかけたはずだ)を作らせてくれたもんだと感心してしまう。まだバブル時代だったし企業も余裕があったのかなぁ。

この映画は舞台設定が独特だ。「地球」であり「人類」が出てくるものの、我々が住む現実の地球とは異なる世界となっている。その徹底した架空世界の構築は何度観ても凄いと思う。しかし別にSF的設定や魔法が飛び交うわけでもなく、いたって等身大のなじみのある異世界だ。なんでわざわざ異世界を舞台にする必要があったのだろうか。これは僕の勝手な想像なんだけど、作者はとにかく人類が宇宙に初めて出る話を作りたかったのだと思う。宇宙開発話が大好きな少年だった僕も似たようなことを考えていたことがある。しかし現実の地球ではソ連のガガーリンが初の宇宙飛行士だが、彼個人の体験にこれといって劇的なものはない(映画にするのも困難だと思う)。そこでもっと劇的に「人類初の宇宙飛行士」のドラマを描くために「異世界」を舞台にしたのではないかなぁと思うのだ。「宇宙開発ドラマ」としても好きなんだよね、この映画。「アポロ13」が好きなのと同じ理由。

ところでこの映画には日本映画としては珍しいほど軽快で洗練されたギャグセンスがある。「宇宙軍」の仲間達のやりとり、「宇宙旅行協会」の老人達のユーモラスな存在感、そしてシロツグ自身のどこかすっとぼけたキャラクターが印象的だ。この声を上手く「抜けた」感じの森本レオが当てているがまさに適役。このシロツグのキャラクターが、ともすれば大上段に構えたテーマ押しつけ映画になる危険を見事に回避させていると思う。結局最後の最後まで生真面目にならないためにクライマックスの打ち上げで素直に感動させられるのだ。この手の設定、「ダメ人間が集まってガンバって大成功する」というお話は映画史上けっこうあるんだけど、「王立宇宙軍」はそのかなり成功した例に挙げて良いと思う。

もちろんただただお笑いに終始しているわけではなく、ヒロインのリイクニの存在など生真面目な、宗教色を強く感じさせる要素もバランスよく挟み込まれる。個人的にはリイクニのような宗教系キャラクターはかなり苦手なのだが…(^^;)。それと歴史を学ぶ者として面白く共感するところも多い。とくに「歴史家になりたかった」と告白する「将軍」のセリフは深く感じ入るところがある。うーん、このセリフを今の私より年下の人間が書いた訳かとちょっと慄然とするな。あ、ただラストに延々と人類史を復習していく場面は映像的には面白いと思ったけどちょいとやり過ぎと感じましたがね。(2000/3/27)



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