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「時をかける少女」

2006年・日本
○監督:細田守○脚本:奥寺佐渡子○作画監督:青山浩行/久保田誓/石浜真史○キャラクターデザイン:貞本義行○美術:山本二三○音楽:吉田潔○原作:筒井康隆
仲里依紗(紺野真琴)、石田卓也(間宮千昭)、板倉光隆(津田功介)、原沙知恵(芳山和子)ほか




 見るのがずいぶん遅れた作品。公開当時口コミでじわじわと話題になってることは知っていたし(当時「ゲド」の不評と対で語られやすかった)、「BSアニメ夜話」で取り上げられた回も見ていて、その評判と大体の話は聞き知っていた。それで2008年にテレビで放送された際に「じゃあ話の種に見ておくか」とHDDレコーダーに録画はしたものの(当時デジタル放送録画がなんか面倒だったのでわざわざアナログ録画していた)、なんとなく手をつけぬまま数年が過ぎ、ようやく見たのはなんと昨年(2012年)の秋のこと(笑)。この一本が大きな出世作となった細田守監督の「サマーウォーズ」を録画したんで「いい加減、先に見ておかないと」と見たのだった。
 なんでそんなにほったらかしにしたかといえば、まぁ「食わず嫌い」と言っちゃってもいいのだが、もともとアニメ好きというわけでもないし、そもそも恋愛映画、青春映画は苦手にしている方なので(嫌い、なのではなくあくまで苦手なのデス)、ついつい敬遠してしまっていた、というところ。実際に鑑賞してみればなるほど評判になるだけのことはあるわな、とは思ったけど、それほどお気に入りになったというわけでもない。

 「時をかける少女」自体、何度も映像化されていて、一番有名なのはやはり大林宣彦監督・原田知世主演版(1983年)のものなんだろうけど、僕はこちらもその評判は知りつつもまだ見ていない。このアニメも少なからずこの大林・原田版の影響下にあるようなんだけど、話自体はまるで変えられた。一応主人公のおばで相談相手になる国立博物館(?)の学芸員が大林・原田版の主人公・和子というつながりは残され(これも最初からそう決めてたわけではなく、脚本作りの過程でそうなったらしい)、未来から来た少年との淡くせつない恋といったコンセプトは残されている。
 
 このアニメ版の大きな特徴は、主人公がかなり早い段階でタイム・リープができることを自覚し、しかもそれを自発的にいつでも行えるようになって、それを盛大に、かつかなりワガママに利用しまくってしまうという点。確かにそんな能力をもてたら、ここで描かれているようにテストやらおやつやら、あれやこれやと勝手なことに使いまくるだろうなぁ、とは思う。カラオケの「延長」を繰り返す場面なんかは大受けだったし、ちょっと都合が悪くなるとすぐ時間を戻してまた同じ場面が繰り返される描写はアニメならではの面白さで、キーとなっている「坂と踏切」の場面の描き込みの激しさも特筆もの。タイム・リープする際にいちいち大きくジャンプしなくちゃいけないのもアニメならではで、この「飛ぶ少女」のイメージはこのアニメの象徴にもなり、ラストの「ジャンプ」の感動演出にもつながっている。

 そんなふうにタイム・リープをつかいまくるうち、友達と思っていた男の子の一人から告白を受けてしまった主人公・真琴は慌てて告白前の時間にタイム・リープを繰り返して「なかったこと」にしてしまうが、そこからじわじわと、それこそブレーキの壊れた自転車で坂を転がりどんどん加速がついていくように事態が思わぬ方向に向かっていく。この展開もなかなかテンポがよく、ドキドキしながら見てしまった。タイム・リープの「残り回数」が手に浮かび上がるというのも面白いアイデアで、それもまた終盤の盛り上がりにつながっている。

 ただその終盤の盛り上がり、最後のタイム・リープに真琴が飛ぶ場面はBGMにかかる主題歌のよさもあってとても感動的ではあったんだけど、ちとそこに至る過程でツッコミだすときりがない「ひっかかり」も目についた。タイムトラベルものには多かれ少なかれそういった問題は起こるのだけど、このアニメの場合は主人公がひっきりなしにタイム・リープし、しまいにはほとんどまるごと元に戻してしまう(予想はできたけど)ため、未来から来た少年のこととか、和子のことも含めて「それでいいのか?」と思わないでもなかった。本作のタイム・リープ設定に穴が多いことは前述の「BSアニメ夜話」で原作者の筒井康隆もやんわりとツッコんでいたが、気にし出すときりがないのも確か。まぁ僕はあの「ゴジラVSキングギドラ」ですら許容できちゃうので(笑)…ただこのアニメ、構成や展開、細かい描写のリアルさとか作りこみが激しいのでかえって気になるということもある。

 僕はTVの録画で見たわけだけど、これを劇場で見終えて外に出ると、なんだかすごくさわやかな気分にはなったのではないかなぁ、とは思った。「さわやか青春・恋愛」といったネタが苦手な僕ではあるが、確かに後味はすこぶる良かった。あとで知ったがこのアニメで主人公・真琴の声を演じた仲里依紗が主演でまた別の設定の実写映画「時かけ」も作られてるそうで、このアニメ版「時かけ」がさらなる「時かけ」を産む事態にもなってしまったわけだ。(2013/3/2)



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