映画のトップページに戻る
「家族ゲーム」

1983年・日本・ATG
○監督・脚本:森田芳光○原作:本間洋平○撮影:前田米造○美術:中澤克巳
松田優作(吉本勝)、伊丹十三(沼田孝助)、由紀さおり(沼田千賀子)、宮川一朗太(沼田茂之)、辻田順一(沼田慎一)ほか




  昨年末(2011年12月)に森田芳光監督が急逝した。森田監督の映画というと、僕自身はとくにファンというわけでもなく、見たことがあるのはリメイク版「椿三十郎」と、公開一年遅れで見た「武士の家計簿」の2本しかない。映画監督や俳優の訃報記事では見出しに「代表作」が示されるのが通例で、ついつい僕もそこに注目してしまうのだが、森田監督の訃報ではやはりほとんどの記事がこの「家族ゲーム」を挙げていた(それ以外は「失楽園」だった)。公開当時のことを直接的には知らないが、この映画は当時かなり注目を集めたそうだし、長らく森田監督というとこの作品の名前が挙がっていた。結局訃報でもこれが代表作ということになっちゃって、NHKBSの追悼企画でもこれが放送され、それを僕が4カ月遅れで見ることになったわけだ。

 もうかれこれ30年も前の映画であるから出演者の一人や二人物故者になってるものではあるが、この映画の場合主役級の二人、松田優作伊丹十三がいずれも早死にで亡くなっていて、監督もまた早死にしてしまった今見るとなおいっそう感慨深いものがある。もっとも僕自身はこの映画の公開当時は映画もTVドラマもロクに見てないので、この二人が出ている作品を見たのは全部その死後のことであるが。伊丹十三なんか映画監督としてバリバリ現役だった時期しか知らないので、こうして俳優として出ているのを見るとかえって新鮮なんである。なぜかいつも図鑑を抱えて何を考えているか分からない松田優作の「いつもと違う」不気味な雰囲気も出色だし、狭い風呂に丸くなってストローを吸ったり、目玉焼きの黄身をチュウチュウするするのが大好きな伊丹十三も見ていて楽しい。ついでに言えば助監督に金子修介がいることにも時代を感じてしまう。

 「家族ゲーム」は原作小説があり、TVドラマシリーズ化もされてるそうだが、とりあえずこの映画版しか見てないので実のところどういう話なのかは映画からしか語れない。要するにある団地に住む平凡な一家が舞台、高校受験を控える次男は同級生のいじめにあって成績も低迷、そこで両親は家庭教師を雇うことにする。この家庭教師が一風変わった男で…という話で、映画は一応その家庭教師の「活躍」により次男の高校受験といじめ克服を成功させるというサクセスな展開、また同時に受験生の青春ドラマっぽい内容にはなっているのだが、それを突き離したように淡々と、見る側の期待をはぐらかすようにユーモラスに描き、短いエピソードの羅列として並べて行くといった作りになっていて、特に盛り上がる場面や感動があるわけでもない。それらを意識してハズしてみせているところが当時新鮮だったんだろう。

 まぁ現実というのは映画みたいにカッコいいものではなく、思うようにはいかずはぐらかされることは多いものだし、逆にフィクションよりもヘンな言動をする人がいるのも事実。多くの少年少女はこの映画に描かれるようにボソボソとはっきりしない言葉をしゃべり、はたから見れば奇矯な行動をしているもの。その意味で、この映画はえらくリアル。僕もこの主人公とかなり近い世代なので「時代の雰囲気」的にかなりリアルであると実感する。当時騒がれ出した「いじめ」問題とか(もちろん人類史始まって以来「いじめ」はずっとあるんだけど騒がれ方として)、「金属バットで親殺し」とか時事ネタがさりげなく入っているのも注目点。

 リアルということでは、僕自身家庭教師をやったことがあるし、塾講師の立場で一応受験産業の一角にいるもんだから、この松田優作の家庭教師による指導シーンには自分の体験を重ね合わせてしまうほどのリアルさがあった。僕自身の体験ではないが、家庭教師やってるとそこの家族からの期待と要望のプレッシャーやら、家族との付き合いであれこれ問題が起きるとか、他人の体験としては聞くところで、そこら辺も結構リアル。家庭教師の話から離れて、自分の家の問題を必死に一方的に訴えて「自分の事ばかり考えてないで話を聞いてください!」と怒る困ったチャンな近所の人が出てくるが、あれも怖い話だが近い体験をしたことがあり、なかなかリアルなんである。

 この映画、何かというと「横に並んだ食卓」のシーンが語られるので、映画を観る前に予備知識がついてしまっていたのだが、なるほどラストの10分近くはあるんじゃないかと思える1カット長回しの合格祝いの食卓シーンはついつい見入ってしまった。はじめのうちは普通に食事をしてるんだけど、だんだんそれぞれおかしなことをし始め、しまいには大混乱になってしまい、ついには家庭教師が家族全員を叩きのめし、テーブルも倒して料理をぶちまけて立ち去ってしまう。だからなんなんだ、とあっけにとられてしまうシーンだが、なんだかドリフのコントみたいと思ったのは僕だけだろうか。
 他にも意味深のような意味不明のようなシーンが多いこの映画、ラストの延々ヘリの音が聞こえ、兄弟と母親が眠りこんでしまう長回しシーンも不思議。なんだかヘリから毒ガスでもまかれたんじゃあるまいな、とトッピなことを思っちゃったのだが、それもまた作り手の狙ったところか。ともかく妙に記憶に残る不思議な映画には違いない。(2012/4/23)

 
映画のトップページに戻る