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「みんなのいえ」

2001年・フジテレビ・東宝
○監督・脚本:三谷幸喜
唐澤寿明(柳沢英寿)、田中邦衛(岩田長一郎)、田中直樹(飯島直介)、八木亜希子(飯島民子)ほか



   三谷幸喜監督映画第二作。こういう注目クリエイターの2作目ってのはご本人にとっちゃ大変なプレッシャーだったんじゃなかろうか、と思う。すでにTVドラマなどで定評ある人気を得ていた三谷氏が映画監督としてデビューした第一作の「ラジオの時間」は、あまりにも見事に和製喜劇映画の1エポックをなす傑作となってしまった。もともと舞台劇の映画化だったが、ご本人の映画オタクぶりもいかんなくはっきされ、観ていて実にすがすがしい映像作品となっていたという印象がある。
 これはある程度偏見の入った意見かもしれないが、日本における「喜劇」というと「日常」をベースにしたものがほとんどだったように思う。職場や家庭や学校といった実に日常的な、誰でも覚えがある世界を舞台に「ああそういうことあるよな」という共有感覚が笑いを呼ぶ、そんなタイプが多かったと思う。これはこれで日本人好みの喜劇感覚(もっとも日本に限った現象ではないと思ってもいる)と言うことで大事にしていきたいなと思うところもあるが、僕は本音のところ苦手なんですよね、こういうの。それもあって日本映画で「喜劇」ジャンルはあんまり観ていないのだが、「喜劇」として個人的に気に入っているのは本多猪四郎監督「キングコング対ゴジラ」だとか岡本喜八監督「大誘拐」なんかが挙げられる。共通しているのは「非日常」的設定で繰り広げられる笑い、という点だ。
 三谷監督の「ラジオの時間」を観たとき、非常に気に入ってしまった要素の一つにこの「非日常」要素があったように思う。映画の内容そのものは決して非現実な話ではないのだが、誰もが身近に経験できるものでもないことも確か。そこで繰り広げられるドタバタ騒動に、観客はジェットコースターに乗った気分で大笑いさせられる。非日常ゆえにそこには「俺の作った世界で観客を存分に楽しませよう」とする作者の強烈な意図がなければならず、これが成功している場合、観客はその作者が繰り出す「名人芸」に酔うことができるわけだ。

 前置きが長くなったけど、この「みんなのいえ」は僕的には前作とかなり違うコンセプトのものだと事前に感じていた。そう、かなり「日常」な設定の話なのだ。家を一軒建てるにあたって起こるドタバタ騒動…らしいと聞いたとき、思ったのが伊丹十三監督の路線かいな、ということだった。「お葬式」「マルサの女」「ミンボーの女」「スーパーの女」…いずれも「日常の中に潜む非日常」とでもいうのかな、身近なようでいてよく知らなかった世界を映画の題材に選び、観客に新鮮な驚きを与えるというあのパターンだ。特に「お葬式」の流れを汲んでいるような気配を感じたのは僕だけではないはず(作者本人の体験をもとにして喜劇映画に仕立てるという企画自体が瓜二つだし)。もしくは「ハウツーものコメディ」とでも呼ぶべきジャンル(思い返してみると特に邦画界にはこれが結構多い)に近いものになるのではないかという予測もあった。
 結果としては当たり外れがいろいろとある。本音のところを言えば個人的には「ラジオの時間」のドタバタジェットコースターの方が好きだったな、という感想を持つ。実のところそれを期待して観に行った人も多かっただろう。だがそれだと本作は拍子抜けするはず。もちろんそれは単に「期待していたものとは違うものだった」という失望感であって映画自体の出来とは別問題なのだが。

 映画は三谷さん自身を連想させるTV脚本家の夫婦がマイホーム建築を企て、これに新進気鋭の若手デザイナーと昔気質の老大工職人が同時に参加して世代格差やら文化格差やらで対立ドタバタを繰り広げる、とまぁ簡単に紹介文書くとこんな風になっちゃう。おかげで前半においてはこれが前作同様のジェットコースターをなしているところがあり、なおかつ建築界のハウツーもの的要素も併せ持っている。この調子でエスカレートしていくのかな、と「ラジオの時間」的な期待をしている観客は期待を高めると思われる。
 しかし中盤から映画は意外に展開が落ち着いてくる。少なくとも僕はそう感じた。そして映画は人情喜劇モノの空気を漂わせ始める。いや、ともすれば喜劇ですらなくなってきている観もあった。当初からこっちが狙いだったのかな、と思ったりもするのだが、前半で期待を高めた「ドタバタ喜劇派」の観客には気が抜けてしまう展開なのは否めないだろう。「期待とのすれ違い」ということも考慮しなきゃいけないんだけど、僕なども後から映画を頭の中で再上映(笑)してみて、ドタバタとホロリのバランスがいまいち良くないんじゃなかろうかという印象を改めてもった。
 「面白うてやがて悲しき…」ってな言葉がある。悲劇にしろということではないが、笑いに笑わせ、ラストにホロリ、と来ると観客は大満足で帰る喜劇になるだろうな、と僕は思う。さもなきゃオールドタバタギャグ連発で一気に駆け抜ける映画であるのも良い。この「みんなのいえ」は凄くイイところもあるのだけれど、それが部分部分であって、一本の映画として総合化されたときにそれらが今ひとつ力を発揮できなかった印象が強いのだ。(2001/9/27)  


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