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「なにはなくとも全員集合!」

1973年・日本
○監督:渡辺祐介○脚本:石松愛弘/渡辺祐介○原作:田波靖男○撮影:堂脇博○美術:加藤雅俊○音楽:萩原哲晶○製作:青木伸樹/脇田茂
三木のり平(白坂栄三)、中尾ミエ(白坂悦子)、古今亭志ん朝(新川)、いかりや長介(碇矢長吉)、荒井注(荒井)、高木ブー(山田風太)、加藤茶(加藤登)、仲本工事(仲本幸助)、丹阿弥谷津子(白坂政子)、水谷八重子(みゆき)ほか




  僕ははっきり言ってドリフ世代、「全員集合」世代である。ただし、志村けんが正式にメンバーになったあとしか知らないが。僕の住む茨城県取手市の市民会館は「全員集合」の公開収録が行われる場所の一つで、3ヶ月にいっぺんくらいはここから生放送がなされていた。僕も一度だけ抽選に当たって公開収録を市民会館で生で見たことがあるのがさりげない自慢の一つだ(笑)。
 さてドリフターズというと「8時だヨ!全員集合」にしても「ドリフの大爆笑」にしても、まず「テレビ」のイメージがある。だが実はドリフターズが出演する映画も数多く作られており、東宝・松竹と2社から配給されていた。もっとも志村けんがまだ国民的人気者になる前の段階の話なので、僕がそれを知ったのはずいぶん後になってからだが。
 ドリフと同じ事務所で先輩格だったのが、やはり一時一世を風靡した「クレイジーキャッツ」で、こちらは東宝で数多くの映画が作られ、東宝の大黒柱のシリーズとなっていた。ドリフの人気が出て来ると、やはりクレイジーと同じように映画を、ということで企画されたのだと思う。その第一作目がこの「なにはなくとも〜」なのだった。

 ただし第一作目ではドリフもまだまだ一本立ちというわけにはいかなかったらしく、主役は三木のり平である。その血のつながらない娘を中尾ミエが演じ、その娘が古今亭志ん朝の恋人を見つけて、最終的に結婚にいたるまでの葛藤やドタバタを描く人情喜劇になっているのだ。「全員集合」のPTAの目に敵にされたギャグを見なれた僕なんかには「これがドリフ映画一作目?」と正直驚いた。
 もちろんドリフターズの面々もみんな出演している。ただしメンバー5人がまとまって登場することは少なく、立場によって3グループに分かれている。映画は温泉地・草津が舞台で(と聞くと、「ババンババンバンバン〜♪」が出てきそうな気がするが意外にも出てこない)、地元のローカル鉄道と東京からの直行便で進出してきたバス会社の客の奪い合いの話が先述の三木のり平の娘の結婚話と絡んで進んでいく構成。いかりや長介荒井注がバス会社社員、加藤茶仲本工事が鉄道会社社員(駅員)、高木ブーが地元ホテルの従業員といった配置になっていて、三木のり平は鉄道会社の新任駅長で、バス事務所所長のいかりや長介と丁々発止やりあうという構図だ。

 バス会社の名前が「西武バス」となっていて、「実在する会社じゃないのか?」と不思議に思ったのだが、調べてみたらこの映画で描かれている草津での鉄道VSバスの競争は実際に起こったものをベースにしているそうで、実際に西武系のバスだったのだそうな。鉄道はかつて存在した「草軽電気鉄道」で、映画の中では「草津高原鉄道」の名前で登場している。
 いちおう鉄道ファンでもある僕としては、このローカル私鉄をどこでロケしたのか非常に気になる。僕も最初見た時に「草軽電気鉄道で撮影したのかな?」と思ったのだが、調べてみるとこの映画が製作される10年も前に廃止されていて、映画の中で描かれているように電車がちゃんと走れる状態であったとは思えない。恐らく他のローカル私鉄を使って撮影していると思うのだが、それがどこなのか分からず気になっている。

 草津に東京の新進バス会社が進出し、ローカル鉄道の駅は客を奪われ戦々恐々。そこへベテランの新任駅長として三木のり平がやってくるのだが、手違いでバス会社が地元名士を集めて開いた宴会に連れて行かれてしまい、勘違いから大騒動に。駅長の娘が美人で、加藤茶の駅員はなんとかお近づきになろうとするのだが、ひょんなことからバスの運転手古今亭志ん朝が娘の心を射止めてしまう。しかし商売がたきのバス社員に娘をやれるものかと三木のり平が起こり出し、いかりやらバス社員たちは二人の駆け落ちを画策する。ところがその隠れ場所となった飲み屋の女将のかつてのヒモであったヤクザが彼女の居所を探しあて、いきなり話はサスペンス調に…そしてそれまで対立していた一同が「なにはなくとも全員集合!」の声と共に大作戦を開始することになる。

 まぁ、面白いといえば面白い。かつては大量に作られていたが今ではすっかり消滅してしまった、プログラムピクチャーとしての「喜劇映画」の香りが濃厚に漂っていて、そういうのを「寅さん」「釣りバカ」くらいでしか知らない僕にはなかなか新鮮だった。他の作品を見てないので、もしかするとこうい雰囲気のはこれだけなんじゃないかという気がするのだけど、ドリフ映画といえどもこういうノリにならざるをえなかった、ということか。あまり下品なギャグはなく(便所関係の部分なんかはほのかにその気配があるが)、あれだけケンカしたり陰謀をめぐらしたりしていても、結局はみんな「いいひと」といった見ていてホッとする「笑い」だ。いかりやが時計を無理やり食べちゃうところなんかはその後のドリフっぽくもあるけど。
 そういう映画のせいか、ドリフの面々が妙に演技力たっぷりに見えてくる。いや、あくまでドリフ世代の僕の主観でしかないんだけど、「全員集合」終了後にドリフメンバーがシリアスなドラマに出ていると物凄く浮いて見え、演技は下手なんじゃないかという印象をついつい持ってしまっていたのだが、この映画ではそれぞれに実に自然な演技を披露していて、これがまた新鮮だった。すでに人気者だった加藤茶の福島訛りのセリフだって不自然さがまるでないし、いかりやはその顔のインパクトもさることながら、やはり存在感たっぷりだ。

 シナリオは、よくまぁこれだけの要素をこんな短い時間に詰め込めるもんだ、という構成。往年の怪獣映画を見ていても思ったことだが、映画全盛期の2本立て興行が当たり前のプログラムピクチャーでは、短い時間内に濃密に話が詰め込まれていて、見ていてよく破綻しないものだと感心してしまうことがある。この映画でもそれは多分にあり、途中から唐突に出てくるヤクザがいきなりサスペンスな展開を見せ、それがきっちり「全員集合」の爆笑クライマックスにつながっていくところは無理やりでもあるが神技という気もした(汗)。

 もう40年も前の映画だから無理もないのだが、主要出演者に物故者が多い。主演の三木のり平、なんと二枚目役(?)の志ん朝、そしてドリフメンバーでも荒井注、いかりや長介がすでにこの世の人ではない。ドリフ世代だけに(といっても実は荒井注にはなじみがない世代)彼らがまだ若くて元気で売り出し中だったころの映像を見ていると、笑いながらもついついしんみりしてしまうのだ。(2013/8/15)

 
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