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「ステキな金縛り」

2011年・フジテレビ・東宝
○監督・脚本:三谷幸喜○撮影:山本英夫○音楽:荻野清子
深津絵里(宝生エミ) 西田敏行(更科六兵衛)、中井貴一(小佐野徹)、阿部寛(速水悠)ほか




  更新頻度が低いからでもあるが、あまり数は多くないこのサイトの映画記事の中でも、「コメディ」系統は特に少ない。別に僕がその手のを嫌っているわけではなく、むしろ好きな部類。ただし「見る気になる」状況に至ることが少ないのだ。
 それで気が付いてみると、このジャンルに入れてる邦画の半分は三谷幸喜関係。そしてまたそこにもう一本三谷映画を追加することになる。それだけこのジャンルではこの人が奮闘していて、宣伝に乗せられてる自覚もあるが僕も見に行ってみようかな、という気になるわけで。

 映画冒頭はこの映画の主軸となる殺人事件(事故にも見えるが)の場面。オシャレなオープニングからとても日本とは思えない洋館での事件へと移って行くあたりは、この人の映画にしばしば見受けられる欧米コメディ映画チックなノリ。そこから和風としか言いようがない「古びた旅館に出る落ち武者の亡霊」の話に移り、その落ち武者の亡霊が21世紀現代の裁判(それもまた明らかに日本風ではない裁判所)に出ちゃうという、和風とバタくささを組み合わせたところがこの映画の妙だろう。
 
 アイデア自体は面白いと思ったし、実際結構笑わせていただいた。冤罪の疑いをかけられた男の唯一のアリバイが「旅館で金縛りにあっていた」というもので、金縛り=幽霊と安直に結びつけちゃうのはどうかと思ったが、まぁここで科学的ツッコミをしても仕方あるまい(ただ世間的に「金縛り」を幽霊と結び付ける考えがそんなに広まってるのかな、という気はする)。とにかく戦国時代に無念の死を遂げ、絵に書いたような落ち武者幽霊になって現代を彷徨う西田敏行を裁判に引っ張りだす、というアイデアは素直に秀逸と思う。
 戦国時代の幽霊ではあるがちゃんと21世紀現代の事情も知っていて「裁判員裁判なのか」と聞いたり、ファミレスで腹に入れるわけでもないのに今風料理をあれこれ注文しちゃうところも笑えたし(こういう場面の西田さんの顔演技が最高)、「幽霊が見える人と見えない人がいる」というひねった設定のため、宿敵となる検事の中井貴一がオカルト否定派であるにも関わらず幽霊が見えちゃう、という場面が特に面白い。前半までは絶好調、といっては言い過ぎかもだが(もそっとテンポが速い方がいい気はした)、大いに楽しんでいた。

 ただ映画後半はちょっと話について行けなかったというか…ピンチになる展開は王道っちゃあ王道なんだけど、小日向文世が演じるあの世の公安だというヘンなキャラの登場は必要だったのか。これまでの三谷映画にもよくあった昔の映画へのオマージュもいささか露骨で、これを見たことで関心を持った人も出てくるとは思うけど、かなり無理もあったと思う。あの世の人たち(人以外もいたな。「ネアンデルタール人」というセリフには笑った)をこの世に引っ張りだしてくるところとか、阿部寛のキャラの使い方(念のためネタばれ回避)なんかは面白かったので、そっちを生かした方が良かったように思うんだけど。

 あと…これは好みの問題なんだろうけど、主人公の父親・草なぎ剛の幽霊が出てくることは予想はついた。裁判が終わってからその父親の登場で「泣かせ」の場面に入るんだけど、その部分が妙に長くてウェットで…う〜ん、日本人好みの傾向だとは思うんだけど、正直「そこまでせんでも」と思った。本来の三谷さんの趣味からいうとミスマッチでは?とも思った。
 そしたら後日、何だったか媒体は忘れたが、三谷さん本人がこの映画の「泣かせ」要素について「あれは邪道」と自己批判する発言をしているのを見て、「やっぱり」と思ってしまった。それでもその要素を入れたにあたってはいろいろ事情があったかもと推察はするけど、映画は出来ちゃったものが全てなので、あとから「邪道」と弁解したことについてもちと残念。
 最後に付け足しのように書いてしまうが、主役の深津絵里はこれまでの出演映画の中でもいちばん「可愛く」撮れていたと思う。クライマックスの、「アルプス一万尺」の鼻歌と共にシナモンをふりまくところとか、ずいぶん脳内再生が繰り返された。
 
 
 締めくくりに個人的体験談。
 この映画はいつものように車で25分ほど走ったところにあるシネコンで見たのだが、映画鑑賞後にショップでこの映画のプログラムを買ったところ、なぜか袋の中には同じものが二冊入っていた。こんなのサービスしてもらってもしょうがないし、店員のミスだと思うのだが、後日この映画館で「山本五十六」を見たらプログラムが品切れ。そしてさらに後日に「マーガレット・サッチャー」を見に行ったらやっぱりプログラム品切れと言われてしまった。もしかしてこれって二冊もらっちゃった祟り?それとも金縛り?(2012/4/21)



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