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「テルマエ・ロマエ」

2012年・日本・フジテレビ/東宝/電通/エンターブレ
○監督:武内英樹○脚本:武藤将吾○原作:ヤマザキマリ○撮影:川越一成○美術:原田満生○音楽:住友紀人
阿部寛(ルシウス)、上戸彩(山越真実)、市村正規(ハドリアヌス)、北村一樹(ケイオニウス)、宍戸開(アントニヌス)、勝也(マルクス)、竹内力(館野)、キムラ緑子(山越由美)、笹野高史(山越修造)ほか



 原作の漫画はタイトルを聞くだけでまるで読んでいなかった。「ほう、そんなのがあるのか」と興味を持ったのも映画化が決まってからのことで、アニメ版もノーチェック。映画だけ見てみる気になったのは風呂とタイムスリップがからむブッ飛んだアイデアと、日本人ばかりで「古代ローマ帝国」を描いてしまおうという恐れを知らぬ企画に「怖いもの見たさ」に近い気分を抱いたからでもある(笑)。もひとつ言えば、当サイト内で「歴史映像名画座」なんかやってるので、この作品は「古代ローマもの」および「タイムスリップもの」の映画に追加できるから、というのもあった。

 日本人も昔から風呂好きで知られるが、ローマ人も大好きで共同浴場が存在した。それが「テルマエ」で、そのテルマエの設計者であるルシウス(演:阿部寛)が風呂に浸かりながら設計のテーマに悩むうちにいきなり21世紀日本の銭湯へタイムスリップしてしまう。タイムスリップなど分かるはずもなく、ローマ属州のどこかの風呂場なのだろうと思いこんだルシウスは日本の銭湯のペンキ絵(おなじみの富士山なのだがベスビオス火山と勘違い)や洗い場の鏡に「ケロリン」の洗面器、そして湯上りの一杯のフルーツ牛乳に大感激。古代ローマにもどるとたちまち自分の見たものをローマのテルマエに可能な限りそのまんま再現してしまう(この微妙に間違った「再現」っぷりに日本人は爆笑してしまう)
 その後再び日本の家庭用風呂にタイムスリップしてしまったルシウスは個人用風呂やシャワーを可能な限り再現、彼のデザインは評判を呼んで時の皇帝ハドリアヌス(演:市村正規)の専用テルマエの設計を任されてしまう。悩むうちにまたまたタイムスリップしてしまったルシウスは現代日本のジャグジー風呂やウォシュレットのトイレを体験、それらをハドリアヌス帝のために「再現」してしまう。電気なんかはない時代なので、自動で動くしくみは全て裏方の奴隷たちの労働力に頼ることになるんだけど、そこがまた笑いを呼ぶ。

 原作は読んでないが、映画の後半はほぼオリジナルの展開だと聞く。ルシウスがタイムスリップするたびに顔を合してしまう現代日本の漫画家志望の女の子・真実(明らかに原作者をモデルにしている)上戸彩が演じていて、もう一人の主役という扱い。後半になると彼女やその取り巻きの人々が逆に古代ローマにタイムスリップし、現地に「風呂」を作るという展開になってゆく。ルシウスとの淡いラブコメ展開もあり、未来から過去に飛んだことで歴史改変のタイムパラドックスが微妙に絡んでくるなど、映画独自の展開については原作ファンだとやはり賛否両論であるらしい。しかし映画は2時間枠で話をまとめなきゃいけないから、独自展開は避けられないところだろう。原作を知らないで見た僕は後半の話が盛り上げに大いに乗ったし(その代わりやや笑いの要素が減った気はしたが)、ラストもうまいこと収束していたので、映画としてはこれでかなり成功していると思った。なお、上戸彩の入浴シーンはエンディングのみに存在する(笑)。

 原作のアイデア自体がブッ飛んでいるが、それを実写映画にしてしまおう、しかも登場人物をみんな日本人が演じる、という企画がまたさらにブッ飛んでいる。古代ローマ人をみんな日本人が演じることになり、日本人離れした「濃い顔」の俳優たちが集められた。阿部寛がキャスティングされるのは自然な成り行きだっただろう。この人がドラマ「坂の上の雲」で演じた秋山好古も西洋人に見間違えられるほどのバタ臭い風貌であったといい、あれも敵役と思ったが、今度はホントに西洋人役だ。原作は未読ながら、映画の中でも根が物凄くマジメで、マジメにやればやるほど可笑しみが出てくるというこの人独特の雰囲気は主人公にぴったりだったと思う。役柄上裸になるシーンが多いのだが、ほれぼれしちゃうほどの肉体美。漫画家志望の真実の部屋に「北斗の拳」のケンシロウの絵がやたら目につくのは、当然阿部寛がケンシロウの声をやっていることにひっかけたものだろうが、あの肉体美だと実写でもいけそう(笑)。
 世界史の教科書でもおなじみのハドリアヌス帝を市村正規というのもメイクしてみればなかなかサマになってるし、北村一樹宍戸開も同様。そもそも過去に大量に作られたハリウッド製のギリシャ・ローマものだって金髪のゲルマン系俳優がローマ人を演じてたんだから、このぐらい濃い顔の日本人ならそうムチャでもないかと。ま、イタリア人が見ればやっぱり違和感ありありなんだろうが、それも含めてギャグとしては国際的に通用する気がする。

 タイムスリップするたびに盛大なテノール独唱があるだけでも笑ったが、それが休んでる所を不意を突かれ、慌てて歌い出すという楽屋的ギャグには大受け。また、細かい所で「ワニ」とか「バイリンガル」と字幕が出るところもツボだった。
 こういうかなりふざけた映画(良い意味で)なんだけど、冒頭のシーンなどをかつてハリウッド製イタリア製史劇の多くが撮影されたチネチッタ・スタジオの大オープンセット(最近評判になったTVシリーズ「ローマ」で使ったものとのこと)を使って本格的に撮ってるところが映画ファンの心を史劇、もとい刺激してくれる。(2012/6/16)
 
 
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