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「アザーファイナル」
THE OTHER FINAL
2002年・オランダ/日本
○監督:ヨハン=クレイマー
ブータンサッカーチーム、モンテセラトサッカーチームほか




 僕自身はまるっきり関心がなかったのだが、スポーツコーナー担当の弟「K・E・N」がその企画にいたく気に入り、秋葉原でDVD探しをさせられた一本。なんせドキュメンタリー映画、それでいてスポーツドキュメントものDVDには分類されていない劇場公開作品でもあるため、その発見は困難を極めた。どうにか発見して鑑賞することになったわけだが、どれほど売れたのか疑問なDVDかもしれない。

 ご記憶の方も多いと思うが、2002年日韓共催ワールドカップの決勝戦、6月30日横浜でのブラジル-ドイツ戦の直前に「FIFA世界最下位決定戦」がヒマラヤ山中の秘境・ブータンで行われていた。「もう一つの決勝戦〜アザーファイナル〜」というわけだ。
 対戦したのは202位のブータンと、203位のカリブ海の島国・英領モンテセラト。世界ビリ決定戦という思えば不名誉な決勝戦であったわけだが、この映画はその企画の立ち上げから試合の終了後までを追った異色のドキュメンタリー映画で、むしろ「サッカー国際交流の本来の素晴らしさ」を訴えるちょっとした感動作になっている。「甲子園ばかりが高校野球ではない、真の高校野球は地方大会にこそある」がモットーのK・E・Nが気に入るわけだ。

 ところでこの「世界ビリ決定戦」は誰が企画したのかといえば、実はオランダのドキュメンタリー映画監督、つまりこの映画の監督であるヨハン=クレイマー自身が勝手に思いついたことなのだ。キッカケたるや実に個人的なことで「オランダがワールドカップ予選で敗れてガッカリしたから」というもの(笑)。オランダのいないワールドカップを観戦するのもシャクなので(とは本人は言ってないがそういうことだろう)、何か企画がないかとFIFA公式サイトの世界ランキングを眺めていて202位と203位の「ブータン」「モンテセラト」の名前を見て「どこだ、それは?」とこの企画を思いつくことになったらしい。一歩間違えれば侮辱的とも思えるこの企画の打診を両国のサッカー協会に送ってみたところ、ここまでランクが低いとそういうことも気にならないようで両国とも強い関心を示し、話はトントン拍子に進んで、実際にワールドカップの決勝戦に合わせてブータンで試合を行うことが決まっていく。
 この映画はその過程もちょっと面白おかしくしているフシもあるがドキュメントとして追いかけていく。オランダからブータン、モンテセラトにサッカーボールが飛び、場面を展開させていく演出は、監督がCM出身の人と聞くとなるほどと思うところ。


 これ、むしろスポーツより地理の勉強になるんじゃないかなと思えたのが両国の文化や社会事情を紹介してくれるくだりだ。ブータンは海抜2000m以上のヒマラヤ高地にあるチベット仏教の国であり、大臣から庶民までみんな日本のドテラみたいな着物を着て貧しいながらも結構楽しくやってる感じ。一方の英領モンテセラトはカリブ海の火山島だけが領土で火山の被害にもたびたび遭う小さな島国。「英領」なのでイギリスから任命された総督がおり、住民の大半は黒人でカリブ海らしいノリのいい音楽をなにかというと流す国だ。この環境も人種も文化もまったく違う国同士が「サッカー」を絆として交流することになる、そこらへんがこの映画の面白さであり感動を呼ぶところだ。
 だがどちらも最下位を競うだけにサッカー競技場の事情はいい勝負で劣悪(笑)。そもそも両国ともそんなにサッカーが盛んというわけではない(それでもブータンには外国のプロで活躍した選手がいるが)。ブータンなんかクウェートに0-20で負けちゃったこともあるとか。しかしこの対戦は両国ともに初めて経験する「全世界注目の大試合」であり、両国民ともかなりの熱狂を見せていく。各国のマスコミ報道を報じる中で決勝戦の開催地でもあるためか日本の報道がチラチラ入るのも面白い。「ブータン史上最大の記者会見」というのにもちょっと笑ってしまったところ。


 と、調子よく話は進んでいくのだが、そこは劇映画ではなくドキュメンタリー。現実には次々と思わぬハプニングが発生する。モンテセラトのコーチが急遽クビになり(選手起用の意見相違が原因)、ブータンのコーチはなんと急死(!)してしまう。両チームともコーチがいない上に、試合をジャッジする審判がギリギリまで調達できない。立て続けのトラブルに頭を抱える企画者のクレイマー監督(笑)。カリブ海から何度も何度も飛行機を乗り換えてブータンまでやって来るモンテセラトチームもなかなか着かないし、着いたら着いたでウィルスに感染したとかで選手の大勢が寝込むしで(これ、高山病なんじゃないかと思うんだけど)、ホントに実現するのか?と危ぶむほどの展開になる。まさに事実は映画より奇なり。

 まぁなんとかコーチや審判もギリギリで調達でき、雑草ボウボウ、水溜りだらけのグラウンドで試合が行われることになる。客席なんかあって無いようなもので、当然チケットなんか売らず見たい奴がみんな集まって見に来る、なにやら中学校の町内対抗戦みたいな雰囲気(笑)。試合の最中に野良犬がノコノコとグラウンドに入って来ちゃったりもするし(笑)。実況のアナウンサーが横浜の豪壮なスタジアムとの比較をして自嘲しているが、少なくとも観客の盛り上がりに関してはいい勝負といったところ。これならチケットがあるとかないとかで目を血走らせなくていいけどね(笑)。

 で、試合の方はほとんど一方的な展開でブータンが4-0でモンテセラトを下した。コーチが臨時ということもあっただろうが、やはりアウェイの試合、しかも慣れぬ高地での試合だったからモンテセラトにはかなりハンデがあったものと思う。しかしもともとそうすることに決まっていたのだが、「優勝(?)カップ」は縦に真っ二つにして両国チームに手渡された。まさに「参加する事に意義がある」的なフィナーレでこのイベントは終わる。うーん、ただ、今度はブータンの選手達をモンテセラトに行かせて試合をさせなきゃフェアじゃないんじゃなかろうか?
 

 もともと映画のために立ち上げられたスポーツ企画、という時点で異例の国際試合だが、それだけに映画のほうも単なるニュース映像ではない映画的な演出・編集を本作に施して面白さを盛り上げている。一歩間違えると「サッカー後進国をバカにしてる」ように見えなくも無いんだけど(汗)、まぁサッカーに限らずスポーツの本来の楽しさを描き出して見せたところは評価されていいと思う。
 なお、つい先ほどFIFAの公式サイトで世界ランキングを調べてみたところ、英領モンテセラトは相変わらず205位の最下位。ブータンはいつの間にやら188位までランキングを上げていた。(2004/11/10)  


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