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「バグジー」
BUGSY
1991年・アメリカ
○監督:バリー=レビンソン○脚本:ジェームズ=トバック○撮影:アレン=ダビュー○音楽:エンニオ=モリコーネ
ウォーレン=ベイティ(ベン=シーゲル)、アネット=ベニング(バージニア=ヒル)、ベン=キングズレー(マイヤー=ランスキー)、ハーヴェイ=カイテル(ミッキー=コーエン)、ジョー=マンティーニャ(ジョージ=ラフト)ほか




 公開当時から微妙に気にはなっていたけど、とうとう14年も手をつけなかった一本。NHK衛星放送のアカデミー賞特集で放映していたので初めて鑑賞することになった。この映画、1991年度アカデミー賞の作品・監督・主演男優・助演男優・撮影・作曲・美術監督・美術装置・衣装デザインの9部門でノミネートされたそれなりに注目作だったのだが、実際に獲得できたオスカー美術部門と衣装デザインの3つだけだった。なお、この年の作品賞受賞は「羊たちの沈黙」で、「JFK」が対抗馬。「美女と野獣」が長編アニメ作品として初めて作品賞ノミネートされたという、いま改めてデータをみるとなかなか話題の多い年だ。

 公開当時気になったのは、この作品が実在のギャングをモデルにした映画だったから。この前年に「ゴッドファーザーPARTIII」が公開され、それをきっかけにこのシリーズにハマってしまった当時の僕はちょこっと惹かれるものを感じたわけ。「ラスベガスを作ったギャング」という宣伝文句はそれなりに魅力的だったが…結局見なかったんだよな。今となっては記憶は判然としないが甘いマスクのウォーレン=ベイティの演じるギャング、というのがピンと来なかったというのもあったかもしれない。

 「バグジー」とは「虫けら」の意で主人公ベンジャミン=シーゲルのあだ名。もっとも当人はこのあだ名を毛嫌いしており、彼の目の前でこのあだ名を口にした日には文字通り半殺しの目にあうことになる。とにかくいったんキレるともうどうにも止まらない状態になってしまう凶悪ギャングではあるのだが、日ごろは甘いマスクで妻や娘にやさしく接する良き夫、良きパパを演じているところが大ギャップ。娘の誕生日にギャングのお友達たちが押しかけてきて、ケーキを作ったエプロン姿で両者の間をウロウロしているところなんかは面白いとは思うのだけど、しかしどうしてシーゲルがこんな二重生活を送るようになったのか、そして「バグジー」というあだ名がなんでついたのか、映画は一切説明してくれないのがもどかしい。

 2時間15分ぐらいはあるやや長尺映画だが別にバグジー=シーゲルの人生を描く伝記映画というわけでもない。この「バグジー」がギャング仲間の愛人でもあるハリウッド女優のバージニア=ヒルにぞっこん惚れこんでしまい、ストーリーの大半はそのバージニアとの痴話ゲンカ的愛憎劇で占められる。似たもの同士の二人は愛し合ったり嫉妬したりケンカしたりを繰り返し、とにかく表現がストレートで激しい。お互いキレやすいバグジーとバージニアはしばしば手近なものに八つ当たりするので、全編を通してやたらに物を壊す映画だな〜などと変なことを思いつつ見てしまったものだ(笑)。

 で、話の中盤、バグジー=シーゲルはネバダ州ラスベガスの砂漠のど真ん中に豪華なカジノホテルを建設しようという「天啓」を得る。そして湯水のように金を注いでホテル「フラミンゴ」(バージニアの愛称)建設に没頭し、結局はそれが彼の命取りになってしまうわけだが、この彼の「夢」がその後のラスベガスの繁栄につながっていった…というお話になる。しかしこの「天啓」があまりに唐突でシーゲルがなんでそんなに夢中になっちゃうのか見ていてピンと来ないし、バージニアや妻子とのドラマの絡め合いも今ひとつ。そういえばムッソリーニ暗殺計画に夢中になるくだりもあったが、総じて「夢想家」だったと言いたいのだろうか。
 ちょっと調べてみたのだが、映画のストーリーは史実とは大きく離れるものらしく、バグジーはそんなに二枚目でもなく別にハリウッド業界とのつながりも深くはなく、彼がラスベガス建設のきっかけを担っていたこと自体は事実ではあるものの、ホテル「フラミンゴ」の計画を立てたのは別人で、映画の「バグジー」はその人物のキャラも含めて「創作」されているようだ。

 なお、時代は1940年代で映画中にムッソリーニの死や日本降伏のニュースが流れる場面もある。つまり「ゴッドファーザー」とさして変わらぬ時代を扱っているわけで、実際「ゴッドファーザー」の方にもバグジー・シーゲルがモデルと思われる男が殺されるシーンがあった。映画に出てくるバグジーの親分「マイヤー」も一応はイタリア系マフィアということのようだが、インド人やらユダヤ系ドイツ人やらを演じているベン=キングズレーではちと無理があるのではなかろうか。
 「バグジー」と「ゴッドファーザー」のリンクといえば俳優さんが一人かぶってますね。映画スターのジョージ=ラフトを演じているジョー=マンティーニャ。出てきた途端、「あっ!ジョーイ=ザザだ!」と言ってしまった「ゴッドファーザー」ファンは少なくないはず(笑)。

 ノスタルジックでとヒューマンなストーリーを得意とする印象が強いバリー=レビンソン監督だけど、この「バグジー」は「ノスタルジック」な部分ではいかにもの雰囲気を醸し出しているものの、中途半端にヒューマンなギャング映画しちゃってるところが物足りない。主演のウォーレン=ベイティは製作も手がけていて、どうも彼の方が主導の企画だったんじゃないかという気がするが、ただただキザな女ったらしという印象しかないのが残念。音楽は名匠モリコーネだが、ほとんど印象に残らなかった…正直なところアカデミー賞主要部門にあんなにノミネートされるような映画だったんだろうか…というのが14年目にして見た率直な感想だ。(2005/3/13)



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