映画のトップページに戻る
「ネットワーク」
Network
1976年・アメリカ
○監督:シドニー=ルメット○脚本:パディ=チャイエフスキー○撮影:オーウェン=ロイズマン○音楽:エリオット=ローレンス
フェイ=ダナウェイ(ダイアナ)、ウィリアム=ホールデン(マックス)、ピーター=フィンチ(ハワード)、ロバート=デュバル(ハケット)、ベアトレス=ストレイト(ルイーズ)、ウェズリー=アディ(チェイニー)ほか




  シドニー=ルメットという監督、僕は初見が「ファミリービジネス」(キャストは凄いんだけどねぇ)だったせいか、どうも印象がよくなかったりする。「12人の怒れる男」が監督デビューでそれが代表作ともなっているんだけど、あれも元の脚本によるところが大きいし。「オリエント急行殺人事件」もまず原作が…という映画ではあったし、「狼たちの午後」はまぁまぁ面白いとは思ったがあれも脚本とアドリブ展開がミソなのでは、となんだか思い返すとケチばかりつけてきた気もする(^^;)。第一印象ってやっぱり大きいんだよなぁ。

 そのシドニー=ルメットが全盛期とも言える時期に視聴率至上のテレビ業界を皮肉った社会派作品として撮ったのが、この「ネットワーク」。もっともこれもまた脚本のパディ=チャイエフスキーの力によるところが大きい映画と言われている。映画の「作者」が監督なのか脚本家なのかは微妙な議論になる問題なのだが、この「ネットワーク」に関してはもともとTV関係者だったチャイエフスキーが実話や体験をヒントに脚本を仕上げ、その映画化に自ら奔走、映画化が決まると脚本通りか撮影現場に足しげく通ってチェック、タイトルクレジット上でも単なる脚本担当ではなく「作者」と明記もされている。その甲斐あってアカデミー脚本賞を受賞している。

 TVネットワーク「UBS」のニュース番組の看板キャスター・ハワード(演:ピーター=フィンチ)が視聴率低迷を理由に解雇を言い渡された。ヤケになったハワードは番組放送中に「来週の放送中に自殺する」と表明してしまう。当然大騒ぎになり、局上層部は激怒して彼を即時降板させようとするが、ハワードの友人のニュース部門担当のマックス(演:ウィリアム=ホールデン)はなんとか彼をかばい、出演を続けさせる。次の放送時、ヤケ酒と共に精神的に不安定になってきていたハワードはTV業界をはじめとする社会への「怒りの告発」の大演説をぶつが、これがかえって視聴者の熱狂的共感を呼んでしまい視聴率がアップ(笑)。
 これに目を付けたのがエンターテイメント部門のやり手女性プロデューサー・ダイアナ(演:フェイ=ダナウェイ)で、「預言者」状態になってしまったハワードをメインに据えて観客と共に社会への怒りをぶちまけるショー番組を編成。さらにテロ活動もする左翼過激派とも結託して「毛沢東アワー」なんてものまで放送し、抱き合わせで視聴率をあげてしまう。万事うまくいくかに見えたが、ハワードがスポンサーであるアラブ石油企業の批判を始めたために事態は思わぬ方向へ…

 というようなストーリーで、一応のメインの主役はフェイ=ダナウェイ。この演技でアカデミー主演女優賞を受賞した。対する男の主役は彼女と一時恋愛関係が描かれるウィリアム=ホールデンのような気がするのだが、アカデミー主演男優賞を取ったのは狂気の名演を見せたピーター=フィンチ(狂気とか障害者役は演技賞を取りやすい、とはよく言われてしまう)。もっともこの「ネットワーク」出演直後に彼は急死してしまい、史上初の「死後受賞」となってしまい、映画史上の伝説の一つとして残ってしまった(最近だとヒース=レジャーの例がある)

 確かに話としてはよく出来てると思うし、面白くはあるのだけど、今回見ていて思ったのが、やっぱりこれって「70年代」な映画だなぁ、と。今だって高い評価を受けてるし、時代を超えた普遍性もないわけではないけど、やっぱりこの製作当時のリアルタイムの雰囲気が分からないとピンとこない映画という気もする。
 映画を見たあとで知ったことだが、地方局の話とはいえキャスターが本番中に自殺するという事件が実際にあり、この脚本もそれをヒントにしているらしい。「毛沢東アワー」には驚かされるが、これも当時の文化大革命と呼応した世界のマオイストたちの活動が念頭にないとわかりにくい(TV局に接触してくる過激派幹部も実在モデルがいるらしい)。テロリストに誘拐されて一緒に銀行強盗をしちゃう令嬢のエピソードも当時は誰もが知る有名な事件がモデルになってるし、アラブ諸国の石油価格操作の話がちらほら出てくるあたりもまさに70年代。当時見ていると実話を巧みにとりまぜたリアリティの高い話と認識されたんだろうなぁ、と。

 視聴率至上主義、そのためなら何でもしちゃうというTV局の暴走を皮肉った映画であり、ラストは(予想は途中でつくものの)衝撃的ではある。ただ僕なんかは日本におけるTV事情が念頭にあるせいか、キャスターが預言者になっちゃったり左翼過激派が出てきたりといったあからさまな過激番組にはもう一つリアリティを感じず、実際のTV局が視聴率稼ぎに走るならそんなあぶなっかしいことではなくもっとセコくて安全な企画で稼ぎにくると思った。オカルト企画をやってるところがチラッとでてはいたけど、そちらの方面とか悪ふざけネタとか、下ネタとか、そちらで来るのではないかと。それでコメディー調にした方が面白かったんじゃなかろうか、とも。
 視聴率至上主義の部分よりも、局のスポンサーが資本主義の論理でハワードを「折伏」してしまうところの方が怖さがあった。この場面の名演技が評価されてウェズリー=アディも助演男優賞をとってしまっている。この映画、マックスの妻を演じたベアトレス=ストレイトも助演女優賞をとってしまっていて、主演と助演の女優男優全部独占だったというのも驚き。

 その助演女優賞をもたらしたのは、ウィリアム=ホールデンとフェイ=ダナウェイの無理のあり過ぎる「歳の差不倫関係」なのだが、この映画、この部分は必要だったのかなぁ…。なんだか尺が足りないしやっぱりスターの濡れ場の一つもないと客が来ない、と半ば強引に話に盛り込んじゃった気がする。それこそ「観客動員至上主義」だったのではなかろうか(笑)。 (2012/7/13)



映画のトップページに戻る