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「赤と黒」
Le Rouge et Le Noir
1954年・フランス
○監督:クロード=オータン=ララ○脚本:ジャン=オーランシュ/ピエール=ボスト○撮影:ミシェル=ケルベ○音楽:ルネ=クロエレック○原作:スタンダール
ジェラール=フィリップ(ジュリアン)、ダニエル=ダリュー(レナール夫人)、アントネラ=ルアルディ(マチルド)、ジャン=マルティネリ(レナール氏)、ジャン=メルキュール(ラモール公爵)ほか


 

 「題名だけは知ってるが読んだことはない」というのが多い「世界的名作古典小説」。この「赤と黒」、誰だかが選出した「世界十大小説」にも選ばれてるくらいだから僕も題名だけは知っていて(中学か高校の時に見た文学史年表にも載ってた)、内容にもどっかで軽く触れているのを読んだことがある程度。半世紀以上も前に本国フランスで製作されたこの映画版がNHKのBSで放送されたので見ることになったのだが、こういう名作文学映画の常で「読んでから見るか、見てから読むか」と悩まされた。以前ソ連版「戦争と平和」の一挙上映を見に行った際には原作を事前に読破しておいたことはあるのだが、そういう例は実はそれきり(汗)。古典的名作ってやつはやっぱりそう簡単に読み飛ばせないんだよなぁ。
 というわけで、この「赤と黒」については全くの白紙状態で映画に臨んだ。なお、このとき放映されたのは主演のジェラール=フィリップ没後半世紀を期して製作されたデジタルリマスター版である。

 ときは18世紀前半。ナポレオン失脚後の「王政復古」ブルボン朝の時代。一度はフランス革命で打倒された貴族や教会等の旧支配階級が息を吹き返していた。そんな時代に生を受けた貧乏人のこせがれのジュリアン=ソレル(演:ジェラール=フィリップ)はナポレオンにあこがれる野心満々の青年で、聖職者として出世しようと考えている。そんな彼が神父の紹介でレナール家の屋敷に子供たちの家庭教師として住み込むことになり、その子たちの母親であるレナール夫人(演:ダニエル=ダリュー)と恋仲になってしまう。危険な不倫関係ということでかえって燃え上がってしまう二人だが、子供が病気で死にかけたことをきっかけに二人は関係を解消、ジュリアンは聖職者としての出世をしようと決意する。ここまでが第一部。
 第二部では神学校で聖職者の道を歩もうとしたジュリアンが、今度はラモール公爵の令嬢マチルド(演:アントネラ=ルアルディ)と恋の駆け引きをする展開に。めでたく公爵令嬢の婿となって軍人としての出世街道を進もうということになるのだが、その直後に彼の転落が始まる。詳しいネタばれは避けるが、映画では第一部冒頭が彼が裁かれる法廷から始められているので原作を知らなくても「転落」の結末は観客にはわかっている仕掛けだ。

 原作はまったく読んでいないのだが、ちょうどこの小説が書かれた直後にブルボン王家が打倒される「七月革命」が1830年に起こり、この小説はたまたまだがフランス王政復古時代の旧勢力が堕落していた革命直前の状況を描写することになり、歴史的名作と評されることにもなった。だが映画の方は、服装や美術などは手間暇かけていて時代をよく再現しているとは思うのだけど(細かいところだが、シャンデリアのたくさんのロウソクにババババッと仕掛け花火みたいに点火するカットには「おお、なるほど」などと感心した)、そういった時代背景、時代の空気といったものはさして感じられなかった。意図してやったところもあるんだろうけど、野心満々美青年の二つのラブストーリーに話をしぼってメロドラマ調に仕上げた感じだ。文芸大作、歴史ものと思ってみるとやや拍子抜けという気もしなくはない。

 そんなわけで恋愛もの映画のノリが強い映画なのだが、なにしろ前半は年上人妻との不倫、後半はタカビーなお嬢様攻略、とそれぞれ結構危険でハード(笑)。しかもその間に喫茶店の娘にちょっかいも出したりする主人公ジュリアンの「女たらし」ぶりは相当なもの。下手に描くと単なるチャラ男のナンパ野郎で、感情移入しにくいキャラなのだが、それを当代きっての美男子ジェラール=フィリップが演じちゃうからサマになる。「この役は君しかやれない!」と監督が口説き落としたという逸話もなるほどとうなずく。
 結局は年上人妻のレナール夫人との恋愛が「本命」という形になるのだが、思えば「三銃士」もしかり、さらにさかのぼって「円卓の騎士物語」もしかりで、とくにフランスがらみではこの手のシチュエーションは定番になってる気もする。同じフランスのアルセーヌ=ルパンシリーズでも人妻との不倫話が良く出てくるし。
 
 2009年がジェラール=フィリップ没後半世紀だった、ということは彼の没年は1959年、この映画公開からわずか5年後のことである。男だけど「美人薄命」という言葉がピッタリしてしまう早死にであった。それで調べてみたら実際に年上だった相手役のダニエル=ダリューの方が90歳を超えて御存命と知り驚いたものだ。

 1954年といえば日本で「七人の侍」「ゴジラ」「二十四の瞳」、ハリウッドで「ローマの休日」と映画史上の「当たり年」と言われる年。今挙げたのは全て白黒映画で、カラー映画はまだまだ少なかったころ。その時期にフランスでカラー文芸大作として作られたのが本作というわけなのだが、やっぱりタイトルが「赤と黒」だけにカラーでやりたくなったのだろう(笑。一応戦前に白黒映画版があるそうだが、タイトルが「白と黒」だったなんてわけはない)。映画でもカラーを生かして表現してるが、主人公が進もうとする二つの道、軍服が「赤」で僧服が「黒」なのだ。(2012/7/29)




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