「クレオパトラ」 CLEOPATRA 1963年・アメリカ |
○監督:ジョゼフ=L=マンキーウィッツ |
エリザベス=テーラー(クレオパトラ)、レックス=ハリソン(カエサル)、リチャード=バートン(アントニウス)、ロディ=マクドウォール(オクタヴィアヌス)ほか |
いろんな意味で有名な歴史映画の超大作なのだが、なんとなく食わず嫌いで手をつけてなかった一作。有名であるのは間違いないところで、大女優エリザベス=テーラーに「歴史を変えた美女」代表を演じさせ、総制作費は3000万ドル強(当時日本では「一秒間120万円のお楽しみ」というポスターまで出た!)におよび、その製作費膨張のあまり製作していた20世紀フォックスの経営が破綻しかけ、ひところハリウッドの定番となっていたスペクタクル史劇大作が事実上これで打ち止めになってしまったとまで言われる、とにかくいわくつきの大作だ。歴史映像蒐集家を志しながら、あまりにメジャーなこともあってついつい手を出さずにいたのだが…とうとうだしてしまった次第。レンタルDVDだけどね(笑)。 食わず嫌いになる一因にストーリーがあまりにもよく知られ、かつ何度も映画化されてきたものであるということもあった。つい最近でもアメリカのTVムービーで製作されていたし、過去には白黒映画時代の大作や、シェークスピア劇を原作とした「ジュリアス・シーザー」や「アントニーとクレオパトラ」が製作されていて、いずれもチェック済み。数あるジャンヌ=ダルクものと並んで女優が主役に使える華のある史劇大作の題材としてクレオパトラものというのは定番の一つとも言える(たぶんこのまま史劇ブームが続けばまた一本ぐらい作られそう)。その中でも一番金のかかったのが本作なのだが、ハッキリ言って巷の評価もボロクソであるために今まで手をつけづらかったのだ。 そう、ハッキリ言って映画史の本なんかを見ても「クレオパトラ」といえばとにかく金がかかっただけの駄作、というのが定番の評価だ。しかも映画会社ひとつ潰しかけたという事実もあり、実際に映画会社を潰してしまった大作「天国の門」なんかと並んで引き合いに出される一本でもある。 聞くところによると「クレオパトラ」は監督も相次いで交代、脚本も次々と書き換えられて撮影当日にようやく間に合わせるという展開だったそうだし、出演者も主役のテーラーが病気でダウンしたため撮影期間が延び延びとなり、テーラー以外の出演者を総入れ替えしたなんてこともあったとかで、かなり混乱した現場となっていたらしい。当初の予算は300万ドルだったとかで、終わってみれば10倍にふくれあがってしまったという「計算違いの超大作」というのが実態だったみたい。 上映時間はまるまる4時間。古いスペクタクル映画のお約束の序曲・インターミッション・終曲もついている。前半はカエサルとの、後半はアントニウスとのメロドラマが描かれるという非常に分かりやすい構成だ。絨緞の中から出てくるカエサルとの初対面など有名どころのシーンは漏れなくそのまんま登場し、これといった史実改変もなく安心して見ていられるけど工夫はないシナリオとなっている。あえて特徴を挙げればまさにそのまんま「女王様」然としたテーラーを主役としているためにクレオパトラのキャラクターがかなり高慢(よく言えば誇り高い)で自己顕示欲の塊みたいに見えるところだろうか。 この映画、とにかく金がかかっているとわかるシーンはたびたび出てくる群集シーンと巨大セット。とくにそのクレオパトラの自己顕示キャラクターをむき出しにしてくる盛大きわまる「お大名行列」シーンが最大のスペクタクルとなっている。前半ではカエサルに迎えられてローマに大仰に入城するシーン(さる映画本でも「延々と続くねぶた祭り」などと書かれていたがまさに的確)、後半ではアントニウスの度肝を抜く黄金の大船での訪問とその上での大宴会シーンなどで、これでもかとばかり贅沢ぶりが示されるのだが、正直なところ「しつこい」という印象しか受けない。やたら見栄を張るクレオパトラのキャラと合っているといえば確かにそうなんだけど、時間配分を明らかに間違ってるんじゃないかと思うほどこの手のシーンが妙に長いのだ。もうちょっと編集して3時間程度にまとめておけば締まった作品になった気もするんだが…。 クレオパトラ様といえばカエサル、そしてアントニウスと歴史上の大物を相次いで虜にしてしまうほどの美女、ということになっている。そんなわけでこの映画でもテーラーの魅力を引き出そうとあの手この手をやってるんだが、まずエジプト風の「くまどり」のメイクを施したために時々誰だかわかんなくなっちゃってるのが痛い。しかも登場するたびに衣装が変わるし(「スター・ウォーズ:エピソード1」のアミダラ女王がこれとソックリなことをしているが、ヒントになっているかどうかは不明)。そして武将二人を虜にするクレオパトラの「魅力」の表現も、胸の谷間もバッチリな入浴シーンやら太ももも露わな肌のお手入れシーンやら結構「即物的」なお色気表現(もちろんテーラー様としてはギリギリの露出度なので中途半端でもある)になっているのも安っぽくて残念なところ。カエサルとのくだりでは彼女の知性派なところを見せようとしているんだけど、だんだんどうでも良くなってくる感もあり(笑)、脚本の乱れも感じるところ。 あと、この映画の裏話として有名なのがアントニウス役のバートンとリズ=テーラーが撮影中実際に恋愛関係になってしまい、大スターの不倫騒動として世界的に話題をふりまいたということ。映画の後半はそれをふまえつつ鑑賞すると映画本来の内容より面白かったりする(笑)。 映画のクライマックスはやはり天下分け目のアクティウム海戦だ。だがさすがに軍船を大量に繰り出さねばならないこの場面はすでに膨大になっていた予算では無理があったか、ほんの数隻実物大セットを組んで、あとは適当にごまかしちゃっている。ごまかし方でアイデア賞ものだと笑ってしまったのが、クレオパトラが自分の船の上で「図上演習」よろしく報告で入ってくる海戦の推移を模型で再現していくところ。船に火がついたという報告が入ると図上の模型船にも火をつけるんで実に分かりやすい(笑)。 なお、後にローマ初代皇帝アウグストゥスとなるオクタヴィアヌスはこの手のクレオパトラ映画では概ね悪役回りで(最近製作されたTVムービーではカエサル暗殺に絡んでさえいた)、この映画でもだいたいそんなポジション。この映画のオクタヴィアヌスは演説上手の扇動政治家といったところで(クレオパトラの和平の使者を槍で突き刺しちゃったりするが)、戦争になると病気で寝込んでしまい、全部部下のアグリッパが片付けてしまうというあたりもこの映画はちゃんと描いている。アグリッパが渋くていいですね、ラストカットもクレオパトラの遺体を見つめるアグリッパという構図になってるし。 見終えてみると、やっぱり長い。見ごたえが全くないとは言わないが、特にこれといった工夫もない4時間というのはかなりしんどい。 借りてきたDVDには音声解説がついている。画面を見ながら関係者があれこれ製作裏話をしゃべるというアレだ。それを全部見るためにはまた4時間見なきゃいけないので(汗)さすがに一部にとどめたが、監督の息子さんが証言している、脚本が同時進行状態という現場の混乱、当時中東戦争があったエジプトロケでユダヤ系のテーラーが当初入国を拒否され結局「改宗ユダヤ人ならOK」という解釈を引っ張り出してなんとか入国できたといったエピソードは面白い。どうせストーリーはわかってるんだから、この音声解説だけ見ればよかったかなぁ〜などと思ってしまった(笑)。(2004/6/29) |