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「郡上一揆」

2000年・日本・映画「郡上一揆」製作委員会
○監督:神山征二郎○脚本:加藤伸代・神山征二郎○テーマ音楽:姫神
緒形直人(定次郎)岩崎ひろみ(かよ)古田新太(喜四郎)林隆三(四郎左衛門)加藤剛(助左衛門)ほか




  確か一年以上ぶりの映画評コーナーの復活。以前を知る訪問者もほとんどいないだろうな、と思いつつ21世紀を期して見た映画はビデオだろうと映画だろうとちゃんと文章とイラストなんぞ書くことにしたいと思います。

 で、21世紀最初の劇場で鑑賞した映画は昨年末から公開されていた映画『郡上一揆』だ。昨年は「どら平太」やら「雨あがる」やら珍しく時代劇映画が多く制作されていた、この『郡上一揆』は時代劇は時代劇でもややテーマが特殊。なにせ「一揆」であります。時代劇ではしばしば登場はするものの、添え物的な存在でしか無いことが多い農民達が主人公となっているわけで。特にこの点で、僕などは製作開始を耳にしてからその完成を楽しみにしていた次第。
 「一揆」というと、僕は子供時代から白土三平の一連の劇画を熟読していたもんで、一般の方よりは強烈に思い入れがある。とにかく白土作品では忍者劇画のくせにやたらに農民一揆が登場するのだ。書かれた時代が時代(大学紛争期)なもので「階級闘争史観」の色が濃いものだったが、白土作品の一揆はとにかく甘っちょろくなかった。生活の苦しい農民達が一揆に至る過程が濃密に描かれ非常に説得力をもっており、なおかつそれが決して確実に勝利をものにするわけではない。むしろ白土作品に登場する一揆はかなりの確率で敗北していく。そしてこれでもかとばかりに鎮圧・弾圧されまくるのである(白土作品の残虐描写は知る人ぞ知るだ)。子供時代にあんなの読んでたからトラウマになっているかもしれない(笑)。

 おっと、本題は映画『郡上一揆』だったっけ(汗)。そんなわけで「一揆」には思い入れのあった僕だが、その歴史のほうとなるとかなり疎く、「郡上一揆」なるものの名前もこの映画の話で初めて知ったぐらいだった。聞けばなんと足かけ4年に及ぶ闘争で、最終的に藩は改易され、幕府でも処分が行われるという異例の事態になった一揆なのだそうだ。全面的に農民側の勝利となった一揆といっていいだろう。もちろんその陰で多くの「義民」が出たであろうことは予想できたが。

 監督は神山征二郎。この人の監督作で観たのは特攻隊をテーマにした「月光の夏」しか無い。あの一作だけ観た印象から言うと、非常に誠実にというか、良くも悪くもケレン味のない作り方をする人だな、という印象だった。内容的にもそれが上手く合っていたように思う。『郡上一揆』はこの監督の長年の宿願であったそうで(岐阜出身だそうですしね)、ご本人も書いているがとにかく多くの難関を乗り越えて製作にこぎ着けたのだそうだ。また、郡上の農民のご子孫の方々も全面的に協力(というより製作主体と言っても良いような)し、資金面やロケなどで映画実現に尽力してくれたそうである。まさに「一揆」のような映画製作だったわけだ。

 映画の冒頭、この地元の人達が1000人も参加したという大モブシーンがいきなりやってくる。年貢の取り方を「検見取り」に変更しようとする藩に対し、郡上の農民達が竹槍つかんでムシロ旗を立て、怒濤のように城下に押し寄せてくる。日本の歴史映画における群衆シーンってたいてい武士達による華やかな大合戦シーンとかだから、こんな泥臭い農民たちの大群の映像は実に新鮮だ。冒頭から観客を映画に引き込んでしまおうという作戦は見事に成功している。ま、ただその一方でどうして農民達がそんなに怒り狂うのかピンと来ない人もいるかもしれないな。

 農民達の怒りに恐れを為した藩は、ひとまず家老の書き付け一つを与えてその場をしのぎ、結局年貢シーズンになったら約束を反故にして検見取りを強行しようとする。これに対して農民達は命を懸けて幕府へ訴え出るという作戦を採り、各村から募った60名が江戸へと向かう。
 ただただ竹槍持って騒ぐだけではなく、指導者たちで相談して綿密に作戦を練り、現実的な闘争を展開するところがこの映画の見ものだ。もちろん農民達は必ずしも完全に一枚岩であるわけではなく、庄屋にも敵味方がいるし、指導者内部でも強硬派と穏健派がいる。江戸へ訴えに行くときにかなりの人数が命惜しさに脱落していくのも「やっぱりねぇ」とリアルに感じるところ。しかし紆余曲折、さまざまな場面を展開するこの一揆、総じて農民達の団結力は感嘆すべきものがある。劇場パンフレットでも書かれていたが、一人のカリスマ的指導者がいるわけでもないのにここまで闘い通せたってのはやはり驚異だ。ま、だからこそ歴史上特筆される事件になったんだろうけど。
 そうそう、江戸へ訴え出た時の宿代等の出費を各村ごとに負担を決めて回収するなんてのも、これまでの一揆もの(?)では余り描かれてこなかったところで、面白かった。他にも「駕籠訴」をした際に水呑百姓が差を付けられて文句を言ったり、家族から「義民」が出たことで破局する恋があったりと、細かいところでリアルな描写がある。あと、出演する馬がいずれもサラブレッドでない本物の日本馬ばかりというのも異例だろう。ホントはあんなのなんですよね、昔の日本人が使ってた馬って。

 「一揆」を描いた映画ということで、期待はしていたけどストーリー展開が苦労しそうだなと予想していた。しかしなかなかどうして、この一揆って一筋縄でいかないところが面白い。とにかく二転、三転と局面が変化して行き、一揆指導者達も江戸と郡上を行ったり来たり。めまぐるしく場面は展開し、結果が分かっていても飽きることなくスリリングな展開を遂げていく。こりゃー「郡上一揆」を映画に、って話が出るのも無理もないわ、などと思ってしまった(もしかして…と思っていたのだが、やっぱり山本薩夫監督で企画があったのだそうな)。映画向きですね、ホントこの一揆は。
 それと、映像として見応えがあるのは冬の郡上の山並みかなぁ。雪の中、決死の江戸行きに旅立つ緒形直人たちが郡上を眺めおろすシーンなどはとっても印象的。また忘れてはならないのが姫神による美しい音楽。もともとこの映画のために書いたワケじゃないらしいが、ピッタリと映像にマッチして映画を盛り上げている。

 出演者は時代劇見まくってる人にはおなじみの顔ぶれが多い。緒形直人、加藤剛、林隆三、山本圭、永島敏行なんかが演じる一揆指導者たちは、いつもは武士役なんかが多い方々だけにボロ着て集まっててもカッコ良くて壮観。「武闘派」役の古田新太も熱演。農民というとどうにも情けなく描かれることが多いが、この映画ではそうした農民像への挑戦という意図もあるのだろう。緒形直人の妻を演じる岩崎ひろみも単純な「夫の留守を悲しむ妻」像にとどまらない良い味を出しているし、農民達に親切な宿の主人を演じる篠田三郎など、とにかく達者な俳優さんたちをピッタリの役どころに揃えており安心して観ていられた。チャンバラなんか無くたって(まぁ農民と武士のちょっとしたドタバタはありますけど)時代劇ファンは必見ですぞ。


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