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「近藤勇 池田屋騒動」

1953年・新東宝
○監督:池田富保○脚本:井手雅人
嵐寛寿郎(近藤勇)進藤英太郎(芹沢鴨)阿部九州男(土方歳三)徳大寺伸(沖田総司)花井蘭子(小梅)ほか




 昨年の大河ドラマは「新選組!」で、NHKの衛星映画劇場でも秋にこれとタイアップさせる形で往年の新選組関係映画を次々と放映していた。僕はそれまで新選組について特に関心があるわけでもなかったのだが、いくつか連発で見ているうちにいささかハマってしまったらしい(笑)。それにしても新選組も「忠臣蔵」並みにいろいろと作られて来ているのだなぁ…共通のコスチューム集団であること、多彩な登場人物の銘々伝が作れること、そして最終的にはみんな滅び去っていくこと(忠臣蔵の方は一応「本懐を遂げた」上でだが)など、似ている点は確かに多い。新選組連中は幕末の志士達、とくに長州人から見れば不倶戴天の仇だったから明治以後は評価が低いんじゃないかと思うところだが、意外に「新選組映画」は映画史の早い段階から登場している。なぜかみんな好きなんですよね。

 さて去る5月にNHK衛星が昼間の懐かし映画劇場で新東宝の新選組映画を連発で放送していた。これがその一本で、昭和28年という時期に新東宝が看板スターの嵐寛寿郎主演で製作したものだ。昭和28年ごろというと、恐らくは日本映画最大の黄金期、映画が産業として一番元気な時期だったかという印象がある。小津、溝口、黒澤といった有名監督たちの代表的名作はほぼこの時期に集中しているのも「日本映画全盛期」と言われちゃうゆえんだが、とにかく作れば客が入るという状態でとんでもない本数の映画が週刊ペースで大量生産されていた時代でもあり、そうした多大の「母数」の中からいくつかの名作が出たという面もあるわけ。つまり圧倒的多数はそれっきりほとんどかえりみられることのない、今からすると明らかに珍作・駄作のたぐいだったということで。ゲーム史におけるファミコン時代と似ているかもしれない(笑)。
 さすがに放送されたフィルムはかなり状態が悪かった。同じ時期の名作は保存状態がよく修復作業が施されてるものも多くてそこそこ鑑賞に堪えられるのだが、失礼ながらこんなありふれた一本にはそこまでの好条件はないようで、画質はともかく音質がはなはだ悪かった。セリフなんてほとんど聞き取れない部分もあり…まぁそういうところは「なんとなく分かる」で済む映画ですけどね。

 この「近藤勇 池田屋騒動」だけど、タイトルのとおりで新選組の組長、もとい局長となる近藤勇を主人公としており、それをアラカンこと嵐寛寿郎が演じている。調べてみるとこのときアラカン50歳。幕末の近藤勇の実年齢は30前後だったことを考えるとかなり無理がある気もするが、昔から近藤勇役というとだいたい年配の貫禄たっぷりの人がやってるもの。昨年の大河で実年齢に近い香取慎吾が演じた際には賛否両論、いや明らかに「否」の意見の方が多く、その根拠が「昔の人は現在よりも10歳は老成していたのだ」という論だった。そう言われる割に源義経とか沖田総司といった「美男子の若者スター」だと昔からだいたい実年齢かそれ以下の人がやってるわけで、所詮は「イメージ」ということなんじゃないかと。
 
 この映画は「池田屋騒動」とサブタイトルを打ってるものの、前半は近藤勇以前に局長をつとめていた芹沢鴨(進藤英太郎)を近藤たちが殺害するまでの話で占められている。芹沢鴨というとまぁたいていの映画やドラマでかなりのワルとして描かれるが、本作でも同様…というか、かなりワル度が高い。この映画で鴨関係のオリジナリティを探すと、鴨の愛人で鴨と一緒に殺されたお梅(花井蘭子)が実は鴨に復讐するために接近したという設定になっていて鴨と一緒に殺されない、鴨が近藤勇と直接対決し(これは三船プロ「新選組」でもそうだった)、なぜか井戸に落っこちて死んでしまう、というあたり。
 あと、前半に近藤勇を討ち果たすべくこっそり新選組に入って機会を窺う長州のスパイが出てきたりするのだが、結局は近藤に惚れこんじゃって何もしないままストーリーから消えていくのもよく分からない。

 オリジナリティといえば沖田総司(徳大寺伸)の設定もいろいろいじっている。沖田といえば肺結核(笑)だが、この映画では芹沢暗殺前から肺結核を自覚していて「長く生きられないから」と芹沢暗殺に積極的になったり、池田屋事件前にすでに安静療養状態になったりしている。近藤から安静を言い渡されたけど、池田屋への襲撃を知り居ても立ってもいられず病を押して駆けつけて喀血…というあたりが泣かせるところなんでしょう、たぶん。なんか沖田総司というより平手神酒が混じっちゃってる気がするが…まぁその平手神酒の話も沖田総司が混じっちゃったところもあるからそれはそれでいいんでしょうけど。

 クライマックスの池田屋事件はお約束の大階段転げ落ちのシーンもあるが(ところでこれを最初にやった映画は何なんだろう?)、別に小さい階段も用意されてて近藤がそっちから先回りしてたりするところが新味か(笑)。襲撃された側のリーダーであった宮部鼎蔵と近藤が一騎打ちになっちゃうのもよくあるパターンだが、屋根の上での決闘になってしまった。
 「池田屋騒動」の名のとおり、映画はそこで終わってしまう。喀血した沖田が運ばれてゆき、沖田と仲が良くなった娘が「沖田さん!しっかりして!」と声をかけるところで唐突に映画はオシマイ。続編でも作ったのかと思ったらそれもなかったみたい。えらく中途半端な印象で幕を閉じる映画だが、一日に何本立ても組んだプログラムピクチャーな興行ではこういう映画も結構あったもののようだ。(2005/6/4)




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