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「紅顔の密使」

1959年・東映
○監督・脚本:加藤泰
大川橋蔵(小田の武麿)、田崎潤(赤鷲)、一條由美(狭霧)、故里やよい(夜叉姫)、吉田義夫(悪路王)、加藤嘉(吉備の道玄)ほか




 僕が利用しているかなりマニアックな揃えをしているレンタルビデオ店の時代劇コーナーにこのタイトルがあるのを見つけて以来、気にはなりつつ手を出していなかった。パッケージ説明によるとどうやら平安時代初期、あの坂上田村麻呂と蝦夷アテルイの戦いに関係しているのが察せられ、「歴史映像蒐集家」としてはいずれチェックせねばなるまい、と思っていたのだ。しかしその一方で明らかに本格歴史劇などというものではない、かなり自由奔放な、さらに言えば今となってはかなり時代錯誤な史観に基づいた映画であることも感じられ、なんとなく先送りにしてきた経緯がある。
 そしてとうとう手を出しちゃったワケなんだけど…うーむ、期待にたがわぬトンデモ時代劇でありました(笑)。ただし、これ明らかに作り手もデタラメを百も承知で作っているはずで、その意味で厳密には「トンデモ映画」とは言い難いところもあった。

 公開年度は1959年。主演はまだ少年の面影すら残す(タイトルに「紅顔」とあるように)大川橋蔵。後年の銭形平次をかろうじて覚えている、という程度の僕だから本作での美少年ぶりにはかなり驚かされた。メイクでかなり子供っぽくしてる感も無くはなかったが…そもそもこの映画、見始めると分かるが明らかに子供向けの冒険活劇映画なのだ。
 まだTVが普及していない時代にはこうした「子供向け娯楽番組」は映画館で公開されるものだった。特に東映は時代劇でこの手の子供向けプログラムを組み、数多くの作品が制作されている。そうしたことは知識としては知っていたけど、実際に鑑賞するのは初体験。古い作品ながらその意味ではかなり新鮮な気分で見ることが出来た。

 時は都が平安京に移されたばかりの平安の始め。陸奥の国では蝦夷(映画では「エゾ」)悪路王(アテルイのこと)が指導者となって大和朝廷に対して反乱を起こした。これに大陸から流れ込むアジアの浪人数万らが加わってきて関東へ侵攻、一気に日本の半分を勢力下に置いてしまった…。
 と、冒頭いきなり映像とナレーションでこんな状況説明がなされている。いやぁ、これはこちらの事前予想をはるかに超えちゃってましたねぇ…(笑)。現在では蝦夷(えみし)はむしろ大和朝廷の侵略に対して抵抗した勢力として評価されることが多いが、この映画では完璧に逆で「日本」に対する侵略者として描かれている。ま、これは時代性もあるから仕方ないかとは思うが(昭和40年代に書かれた「漫画・日本の歴史」も完全にこうした史観だった)、「大陸からのアジアの浪人」っていったいいつの時代よ!?オープニングの配役に「ハッサン将軍」「サチコフ将軍」「カムチン将軍」などなにやらアラブやロシアやモンゴルを思わせる名前があったのでイヤーな予感はしたのだが、冒頭の描写で「蝦夷」が明らかにモンゴル騎馬軍団とソックリに描かれていることが判明する。それどころか明らかに白人の将軍とか半月刀を振り回すペルシャ人とかアラブ人の正装そのまんまの武将とかが「大陸浪人」として紛れ込んでいるのだ!もう史実もへったくれもない、単に無国籍冒険活劇が作りたかっただけなんだなーと冒頭数分で製作側の狙いは読みとれた(東宝でも「奇巌城の冒険」など同趣向の映画を製作している)。こうなったらこちらも開き直るしかない(笑)。

 おまけに蝦夷軍がいきなり日本を二分する勢力になっている、というところもブッとんでいる。映画の中盤で「常陸の国の府中」が蝦夷の勢力圏に落ちているように描かれているが、これって今の石岡市ですぜ(茨城人以外の方は地図を参照のこと)。関東北部まで蝦夷の勢力下に入り、しかも「平安京を攻め落とそう」なんて相談してるぐらいでなんだかやたらに強いぞ、蝦夷軍団(笑)。蝦夷の支配領域の中の胆沢(いさわ)城(現在の岩手県水沢付近)だけは照日の王子(てるひのみこ、伏見扇太郎)率いる大和朝廷の勢力がたてこもって抵抗していることになっているが、これも史実ではアテルイら蝦夷勢力が胆沢を拠点にして朝廷軍に抵抗していたはずで、まるっきりアベコベとなっている。

 さて映画の舞台設定の説明が長くなってしまったが、大川橋蔵演じる主人公は小田の武麿(たけまろ)という、まさに紅顔の美青年。彼は朝廷の命を受け、孤立無援の状態の胆沢城へ坂上田村麻呂の援軍の到来を告げる密使の役目を務めることになる。そしてこの武麿は父親から「燃える油水」、つまり石油が胆沢城のどこかに出ることを知っていてそれを胆沢城に伝えるという使命も帯びている。…うーん、新潟あたりだったらちょっとはリアリティのある話なんだが…。
 紅顔の密使・武麿クンは京を出て間もなく狭霧(さぎり、一條由美)という美少女とお知り合いになり、さらに蝦夷の一味で偵察活動をしている赤鷲(田崎潤)夜叉姫(故里やよい)らとも遭遇する。ここらへんは追いつ追われつ、難関突破の連続の典型的冒険活劇の連続で、悪役であるはずの赤鷲と夜叉姫がなかなか魅力的なキャラになっていることもあって結構楽しんでみられる。子供向けに作ってるだけに、とくにどぎついシーンもないしね。夜叉姫はお色気全般を引き受ける形になっていて、武麿に抱きついて迫るシーンなどはお子さまにはちょっと刺激が強そうですが(笑)。なお、この赤鷲と夜叉姫は完全に国籍不明な格好をしているけど一応部下達の衣装などはアイヌを意識してデザインされているみたい。

 途中経過はすっぽかして(笑)、なんだかんだで武麿たちは胆沢城に到達する。そこへ蝦夷の大軍団が総攻撃!のクライマックス。このあたり、もうどこの国の映画だかサッパリ分からなくなります(笑)。大和朝廷軍はそれなりにそれっぽくしてるけど、蝦夷軍は先述のとおりモンゴル・ペルシャ・アラブ・ヨーロッパがゴチャマゼになった「多国籍軍」(笑)。投石器や破城鎚といった日本じゃお目にかかれない大がかりな攻城兵器も登場、対する胆沢城側は武麿が城内の石油を掘り当て、それら攻城兵器を盛大に丸焼きにしてしまう。考証はともかくとして派手でスペクタクルな見せ場となっているのは確か(笑)。
 最後には悪路王はじめ悪人たちはみーんな死んじゃって、武麿は狭霧と結婚し、都に帰って帝からご褒美の御衣を賜ってめでたし、めでたしーーーーってな形で終わる。まぁ今となってはツッコミどころ満載の問題作だが、血脇肉踊る、ハラハラドキドキの冒険活劇、子供達は確かに楽しんだことだろう。また全体に安っぽい作りではあるのだがやはり映画全盛期の製作、今の日本映画ではかなり大変なことになっちゃう力の入った見せ場(とくにクライマックスの大合戦)には感嘆してしまったのも事実だ。(2004/6/29)

 

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