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「忍者武芸帖・百地三太夫」

1980年・東映京都
○監督:鈴木則文○脚本:石川達男/神波史男/鈴木則文○撮影:中島徹○美術:佐野義和○音楽:バスター○アクション監督:千葉真一○企画:日下部五朗/本田達男
真田広之(鷹丸)、蜷川有紀(おつう)、志穂美悦子(愛蓮)、佐藤允(弥藤次)、渡辺文雄(徳川家康)、小池朝雄(豊臣秀吉)、夏八木勲(服部半蔵)、千葉真一(不知火将監)、丹波哲郎(戸沢白雲斎)ほか




 「忍者武芸帳」というタイトルなら、白土三平の代表作の劇画であり、それを紙芝居状態で映像化した大島渚の映画のことだが、こちらは「帖」と一字違い。おまけに「百地三太夫」というサブタイトル(?)のおまけつきだ。この「百地三太夫」というのも忍者ものの講談や劇画ではおなじみの存在で、やはり白土三平の忍者劇画の中で彼が登場する作品もある。
 ま、そんなことより、この映画はなんといっても真田広之初主演作」であることが重大。今や国際的に活躍する日本人スターとなったこの人だが、もともと子役出身で千葉真一とはその時から親子役の縁がある。そして本格的な映画デビューは「柳生一族の陰謀」。あれも千葉真一がアクション監督で、千葉真一率いるJACが大挙出演、真田広之はすでに注目の新人扱いで強い印象を残していた。そのJACの秘蔵っ子・真田広之を肉体派アクションアイドル(アイドル、でもあったんですな、当時は。エンディング主題歌も歌っている)として全面的に売り出そうと企画されたのがこの「百地三太夫」ということになるらしい。このため出演している顔ぶれも映画のノリも「柳生一族の陰謀」にかなり似ている。
 以前からその存在は知っていて、今はつぶれたビデオレンタル店にVHSが置かれているのは目撃していたが、ついつい見逃していた。先日、BS民放でひょっこり放送していたので予約録画をしたのだが、プロ野球中継がなんと2時間まるまる延びてしまい、別に録画予約していた番組とぶつかる事態となってしまったためやむなく録画をキャンセルして放送をそのまま見た。思えばテレビの映画番組を録画もせずにそのまんま見たのもずいぶん久しぶりだ。

 映画の冒頭、伊賀の百地砦が秀吉の命を受けた不知火将監(演:千葉真一)に襲撃される。将監は実は百地三太夫の莫大な隠し金を狙っており、そのありかを示す短刀を手に入れようとしていたが、三太夫は短刀を遺児・鷹丸に託して討ち死にする。鷹丸は国外へと逃れ、そして十数年の歳月が流れ、都には石川五右衛門と呼ばれる盗賊が――
 ってな感じで始まる本作。いくつか忍者ものの映画を見た人なら、「あれ?どっかで聞いたような見たような」と思うかも。例えば山本薩夫監督の「忍びの者」シリーズがそうだし、二度映画化された司馬遼太郎原作の「梟の城」も伊賀の壊滅と石川五右衛門の出現をテーマにしている。そもそも百地三太夫(百地丹波ともいう)は実際に伊賀の忍者の首領だった人物で織田信長の侵攻に抵抗しているし、石川五右衛門は伊賀出身で百地三太夫の弟子だった、という伝承もあるので、何かとこのネタは使いやすいのだ。
 ただしこの映画では肝心の百地三太夫は冒頭で死んでしまい(左右の壁から突き出される槍をかわしながら天上へ登ってゆく妙なアクションをする)、主人公はその遺児、すなわち「二代目三太夫」といったところ。石川五右衛門も実は伊賀の残党が複数で演じていたという設定になっている。

 ようやく青年となった主人公・鷹丸を演じる真田広之が登場すると、驚いたことに香港カンフー映画を思わせる中国服姿。当時の中国、明に渡って修行をしていたという設定なのだが、明代の倭寇を専門としている僕からみると「この時代にそんなカッコの中国人はいないだろ」とツッコんでしまう。この鷹丸を慕って日本まで追いかけて来るカンフー美少女・愛蓮(演:志穂美悦子)もチャイナドレスみたいなかっこうだし。丹波哲郎が演じる白雲斎だって日本というよりは中国に出て来る仙人風、タランティーノ「キル・ビル」にまで出てきたカンフー映画によくある白髪老人の武芸達人そのまんまのイメージだ。

 まぁ正直なところそんな考証はどうでもいいのだ。日本の忍者映画にカンフーアクションが乱入するという異種格闘技状態がこの映画の狙いなんだから。真田広之はこの映画の中で天守閣から飛び降りたり、空中でくるくる回転したり(予告編によると「人間扇風機」だそうな)、林の中でサーカスのブランコ演技したり、宙づりで縛られたままスイングしてロウソクを手にとったりと、スタントなしの体当たりアクションを次々と披露してくれるのだが(余談だが、ずっと後年、大河ドラマ「太平記」に足利尊氏役で主演した際にも真田広之はいつくかノースタントのアクションをさりげなく披露していた)、その目指すところが香港カンフーアクション映画にあることは明白だ。とくにこの当時スタントなしの曲芸的体当たりアクションで人気を博しつつあったジャッキー=チェンを意識したであろうことは疑いない。後年、「ラッシュアワー3」でジャッキーと真田の共演が実現するのだが、その際にもお互い昔から意識していたような発言を双方がしていた覚えがある。

 そういった見世物的アクション場面をまず想定し、そこへ持っていくストーリーを作ってみた、という感じなので、どうしても話に無理がある(いきなり危ない所に飛びこんでやたらと危機に陥る主人公!)。基本線では仇討ち話、宝探し、挫折から修行して復活へ、という王道ストーリー(そういえばこういう流れも香港カンフー映画そのまんまだよな)なんだけど、アクション場面を「さあご覧あれ」とばかりに見せつけるばかりでつながりの悪さが目につき(僕が見た奴がカット版だったから、というのもあるかもしれないけど)最後まで話にのめりこめなかった。宝探しの謎解きもあまりピンとこなかったし、夏八木勲の服部半蔵も何をやってるんだかよくわかんなかったし。面白いな、と思ったのは複数人で演じる「石川五右衛門」の設定ぐらいかな。(2014/2/7)




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