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「将軍家光の乱心・激突」

1989年・東映
○監督:降旗康男○脚本:中島貞夫/松田寛夫○撮影:北坂清○美術:井川徳道○音楽:佐藤勝○アクション監督:千葉真一
緒形拳(石河刑部)、千葉真一(伊庭庄左衛門)、長門裕之(多賀谷六兵衛)、丹波哲郎(堀田正盛)、真矢武(堀田正俊)、胡堅強(猪子甚五右衛門)、二宮さよ子(お万)、加納みゆき(矢島局)、浅利俊博(祖父江伊織)、織田裕二(砥部左平次)、茂山逸平(竹千代)、京本正樹(徳川家光)、


 

 東映といえば、かつて映画全盛期に娯楽時代劇を量産した映画会社。TVの出現と黒澤時代劇のようなリアル系時代劇の登場とで時代劇製作が下火になると、時代劇を舞台設定だけ移したような任侠ヤクザ映画を量産してしのいだ。任侠ものがすたれてくると実録ヤクザ映画に走るが、その方面も飽きられると時代劇の復活をはかり、1978年に「柳生一族の陰謀」を公開して大ヒットを飛ばす。
 ただしこの「柳生一族」はかつてのような正統派ではなく、史実なんぞおかまいなしのハチャメチャストーリー、勧善懲悪なんかではなくみんなワル的なドロドロの対決模様、千葉真一らの体当たりアクションといった新要素を盛り込んでいた。この大あたりに気をよくした東映は以後定期的に似たような傾向の時代劇大作を作るようになり、これもその一本。こうした一連の作品を僕は勝手に「東映ハチャメチャ時代劇」と総称している。
 この「将軍家光の乱心・激突」は以前テレビで放送した時に鑑賞したことがある。つい先日BS民放で放送していたのでなんとなく再鑑賞することになったのだが、いずれもカットバージョンであるため、僕はいまだにこの映画をノーカットで見たことがない。もっともノーカットで見たところでさして評価が変わるわけでもなさそうだが。

 内容は妙に長いタイトルがそのまんま表していて、三代将軍徳川家光(演:京本正樹)がなぜか乱心、息子の竹千代(演:茂山逸平。調べたら狂言の家の子だった)を抹殺するべく、伊庭庄左衛門(演:千葉真一。「戦国自衛隊」の役と同姓なのはワザと?)ら刺客団を送り込む。竹千代危機一髪とみえたとき、突然石河刑部(演:緒形拳)ら七人の雇われ武士たちが現れて竹千代を救出する。刑部たちは竹千代を守って敵中を次々と突破、ゴールとなる家光のいる江戸を目指すことになる。
 とまぁ、こんなストーリー。もともと千葉真一当人が企画したものだそうで、結集したスペシャリストたちが次々と大敵の待ち構える難関を突破してゆくというプロットは、「七人の侍」「隠し砦の三悪人」という趣き。ラストの決闘場面は「用心棒」っぽくもあるし、東映の「十三人の刺客」の雰囲気もある。そこに千葉真一とJAC得意の体当たりアクションを加え、さらに中国の「少林寺」に出ていたカンフー名人まで引っ張り込み、おまけにハリウッド映画の爆発&ファイヤースタントまでくっつけて邦画らしからぬ派手さも加えた。オープニングで千葉真一が出演者としてではなく「アクション監督」としてクレジットされているように、アクションシーンの撮影現場では千葉真一が実質監督役だったようだ。監督は高倉健の人情物で定評のある降旗康男だが、こういうアクション時代劇作品はあとにも先にもないみたい。

 これだけいろんな要素を詰め込むと、一見凄く面白くなりそうな気もするのだが、残念ながらたいていはハズレ。この映画もその一例だ。個々の場面自体はそれなりに見せるのだけど、一本の映画として一貫性に欠けるというか、リズムが悪くてノれないのである。見せ場の体当たりアクションシーンも改めて見ると「さあ、どうだ!」とこれみよがしにしつこく見せ過ぎ、それが全体のリズムを悪くしてる気もする。橋の爆破シーンも見どころといえば見どころだが、「ワイルドバンチ」そのまんまというのは…あそこまでいっちゃうとオマージュの域を超えてると思う。
 ラストの宿場を使っての大決闘は大掛かりなのは分かるのだが、やたら屋根に登ったり落っこちたりする上下方向のアクションは目新しいとは思うけど単なる体力の消耗だろう。その割にケリはアッケなくついちゃうし。

 また緒形拳の一党に「七人の侍」よろしくいろんなキャラを集めておいて、その個性がほとんど生かされず、半分ぐらい終盤まで識別不能というのが痛すぎる。はっきりとキャラが立ってるのはカンフー名人くらいのもので、あとは相談役っぽい立場でラストは火だるま(もちろんスタント)になる長門裕之が印象に残る程度。七人のうち一番の若手で顔もろくに映らないしセリフもほとんどない上に、一見似ている浅利俊博のアクション場面に食われてしまうという悲惨な目に遭っているのがブレイク前の織田裕二であるというのが今となってはお宝映像(笑)。そのBSの映画番組でも冒頭の「見どころ」紹介で「ちょっとしか出ない織田裕二」に注目、と注意喚起を促していた。七人の中で最初の戦死者となり、派手に自爆死(もちろん人形だけど頭部らしきものが飛んで行くのが見える)するので全く印象に残らないわけでもないんだが。調べてみたら織田裕二はこの映画の直後にテレビドラマで徳川家光を演じているという変な縁があった。なお、彼が時代劇に出ることはこの時期以後ほとんどなく、映画では主演した「椿三十郎」リメイク版まで出ていない。

 この手の東映時代劇に出演しているのがやや場違いな気もする緒形拳だが、さすがに貫録の主演。正直なところあまり剣豪には見えないのだが(笑)、竹千代とのやりとりの自然さ(もちろんこのやりとりに深い意味がある)、厳しいけれども「いい人」的な存在感はやっぱりこの人ならでは。竹千代と一緒に宙づりになって水に浸かってしまったシーンのあと、竹千代が「お尻が冷たい」と棒読みセリフを言うと、その口調に合わせて「わしも冷たい」とボソッと言うシーンは実に自然で笑いを誘うのだが、もしかしてアドリブなんと違うか?

 笑いを誘うと言えば、前半で侍の一人が忍者のように水中に潜って竹筒で呼吸していたら、そこへ警備の役人がやってきて立ちションをし、本能的に(?)目の前にある竹筒の穴に狙いを定めてしまい、竹筒が苦しそうにもがく(笑)シーンがある。その報復(笑)として直後にこのお役人は気の毒にも抹殺されてしまうのだが、僕にとってはこの映画で一番好きなシーンだったりする(爆)。だって他のシーンはほとんど忘れてたのにこのシーンだけ詳細に覚えてたんだもん。

 ラストは家光と竹千代の「対決」。家光がなぜ乱心したのか、竹千代は実は誰の子なのか…は最初から丸分かりだよね。もう少し分かりにくくしてもよかったのに、と思うぐらい。一連の東映ハチャメチャ時代劇ではこのパターンが繰り返し使われるので、何本も見てると「またかよ」と思うばかり。余談ながらハリウッド映画「仮面の男」および「ブレイブハート」でもまったく同じパターンが使われており、しかも脚本が同じ人なので、もしかしてこいつは東映時代劇を見てるのではないかと疑っている。「まむしの兄弟」とか「新幹線大爆破」とか、東映作品も結構あっちにパクられてますからね、油断できませんよ。

 ネタばれというほどでもないから書いちゃうが、家光ってなぜか映画やドラマでよく殺される将軍である。「柳生一族の陰謀」のインパクトが強すぎたのか。この家光のことも含めて一連の東映時代劇映画は史実を無視したショッキングが展開が一つのウリにもなっていた。あんまり同じこと繰り返すから飽きられたんだろうけど…だがこういう豪快なオオウソがつけなくなったあたりにも時代劇業界のパワーの衰えを感じてしまう。「茶々・天涯の貴妃」(2007)の大阪城大爆破のラストにその面影がほんのりと感じられたが…(2012/6/16)




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