「ライトスタッフ」 The Right Stuff 1983年・アメリカ |
○監督・脚本:フィリップ=カウフマン○撮影:キャレブ・デシャネル○音楽:ビル=コンティ○製作:アーウィン=ウィンクラー/ロバート=チャートフ |
サム=シェパード(チャック=イエーガー)、スコット=グレン(アラン=シェパード)、エド=ハリス(ジョン=グレン)、フレッド=ウォード(ガス・グリソム)、デニス=クエイド(ゴードン・クーパー)ほか |
この映画、どこに分類するかちょっと迷った。アメリカ宇宙開発史がテーマなので結局「歴史物」のコーナーに入れたのだが、時代が近いこと、宇宙ものということでやや違和感もある。といって「SF」というわけでもないからなぁ…「アポロ13」もそうだが実録系宇宙開発ものは独立したジャンルでも作った方がいいのかも。 アメリカ宇宙飛行士で最初に宇宙を飛んだアラン・シェパードが国民的英雄として大々的にもてはやされる一方で、2番手として宇宙に打ち上げられ無事帰還するものの「事故」あるいは「操作ミス」によって宇宙船を海に沈めてしまい、ひどく冷遇を受けるガス=グリソム(演;フレッド=ウォード)のエピソードも強く印象に残る。大統領夫妻との面会どころか田舎の海岸保養地(?)の安ホテルに宿泊という「ごほうび」に憤慨する妻と大ゲンカになり(それでいてマスコミが来た途端にさっと「よき妻」を演じるたりもアメリカ的)、「俺は必ず月に行くぞ」とぶつやくグリソム。この映画だけ見てると分からないが、このあとグリソムは「アポロ1号」の乗組員となり、訓練中の火災事故で悲惨な死を遂げてしまうことになる(そうそう、これも「アポロ13」の冒頭で描かれてた)。それを知った上でこのシーンを見ると、余計に彼の悲劇が際立って印象に残ってしまう。 三人目で打ち上げられたのがジョン=グレン。今回の鑑賞のきっかけになった人物であり、のちに高齢ながらスペースシャトルに乗ってもう一度宇宙に出たことで知られる人物だ。演じたエド=ハリスは「アポロ13」に管制の指揮官として出演していて、両作が「続編」のような錯覚を起こさせてくれる。 グレンの地球周回成功で宇宙開発史の方は話が終わってしまうが(それにしてもグレンの帰還パレードシーンの大規模再現ぶりの凄いこと!)、映画は最後に、最初に音速を越えながら宇宙飛行士には進まなかったチャック=イェーガーに再びスポットを当てる。宇宙飛行士たちが栄光に包まれるなか、すでに忘れ去られたようなイェーガーが勝手に最新鋭戦闘機に乗り込み、丞相高度の世界記録更新に挑むのだ。記録は達成するものの操縦不能に陥り、戦闘機をオシャカにして本人は無事助かるというタフっぷりを見せて映画は終わるんだけど、さすがに無断で戦闘機に乗っちゃったというのは脚色らしい(目的を告げずに飛んじゃったのはホントらしいけど)。この人で映画が終わることで、人類が音速を越えてから宇宙にバンバン出て行くまでの年月がいかに短いものだったかを実感できる。そしてそのあとのアポロ計画については映画なら「アポロ13」、ドラマなら「人類、月に立つ」あたりを見て補習のこと。 最後に他の映画との関連ばなしを。アメリカの宇宙ロケットが次々と打ち上げに失敗する場面(記録映像が巧みに使われてる)、その連発ぶりがコントのようでかなり笑えるのだが、見たことある人は思い出すはず。アニメ映画「王立宇宙軍 オネアミスの翼」を。ガイナックス結成のきっかけとなった一本であり、その後有名になる多くのクリエイターが参加した傑作だが、この中で主人公たちが「映像講習」としてロケット打ち上げ失敗映像を「笑える映画」として鑑賞してるシーンがあり、これは恐らく「ライトスタッフ」の影響で挿入されたものだと思う。そもそも「王立宇宙軍」自体、異世界を舞台にしているとはいえ「人類初の宇宙飛行」に挑む話であるため、宇宙飛行士の訓練シーンでも「ライトスタッフ」に似たコメディ調の演出が見られる。 以前「BSアニメ夜話」で同作が取り上げられたとき、プロデューサーであった岡田斗司夫氏が「ライトスタッフ:についてチラリと言及していた。「王立宇宙軍」製作の資金集めのため奔走しているころに「ライトスタッフ」が公開され、岡田氏らはむしろ企画の類似に「しまった」と思ったそうなのだ。これでは便乗企画、二番煎じと思われると危惧したのだろうが、むしろ「ライトスタッフみたいなのを作ります」とアニメに詳しくないオエライさんたちに説明しやすくなるという効果があったんだとか。全然違う映画といえばそうなんだけど、やはり作るにあたって影響はそこかしこに受けたんじゃないかな、と。(2017/2/10) |