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「桂小五郎・近藤勇 龍虎の決戦」

1957年・新東宝
○監督:並木鏡太郎○脚本:三村伸太郎
嵐寛寿郎(桂小五郎)大河内伝次郎(近藤勇)相馬千恵子(幾松)筑紫あけみ(お雪)明智十三郎(由松忠三郎)ほか




  先日の「近藤勇 池田屋騒動」と立て続けに鑑賞した一本。そっちでは近藤勇を演じていた嵐寛寿郎が今度は近藤の宿敵である桂小五郎を演じており、近藤勇には嵐寛寿郎とタメを張れる大スター・大河内伝次郎が扮しているからややこしい。しかも「池田屋騒動」の時よりさらに数年後に製作された映画だけに二大スターとも演じている人物の実年齢からかけ離れたお年になっちゃっており、特に若者風の月代(さかやき)を剃った桂小五郎をどうみても50代以上にしか見えないアラカンが演じているとさすがに違和感ありまくりだ。

 この映画における「違和感」はそれだけではない。桂小五郎、近藤勇と新選組メンバー、さらには坂本竜馬など実在人物が多く登場してくるが、映画のストーリーはとてもじゃないが「歴史映画」とは言いがたいほど史実を改造しまくっている。いや、「改造」と呼ぶより単に桂小五郎と近藤勇を使ってチャンバラ冒険活劇をやりたかっただけなんじゃないかと思える。
 というか…この映画の主演のアラカンといえば、なんといっても「鞍馬天狗」を数多く演じた銀幕スター。鞍馬天狗とは京都を舞台に黒頭巾姿でピストル片手に大活躍する架空の幕末志士だが、この映画でアラカンが演じている「桂小五郎」は後の明治の元勲・木戸孝允の若き日の姿ではなく、その名前だけ拝借した「鞍馬天狗」にほかならないんだよね。

 なにせこの桂小五郎、やってることはといえば…虚無僧の格好をして京都に潜入してるのはまぁ分かる(事実、乞食に変装するぐらいはしていた)。だが志士活動から脱線して、借金の代わりに身売りされそうになる娘・お雪(筑紫あけみ)とその弟に大金を与えて救ってやったりするヒマがあったのかどうか。また新選組の襲撃を劇中何度も受けるのだが、そのたびにピストルをバンバン撃って逃げるというのも、坂本竜馬ならともかく。ピストルぶっ放すシーンの中には実際に黒頭巾姿で現れるケースもあり、狙ってやってるとしか思えない(笑)。子役の男の子が絡んでいろいろ活躍するところなんかも、お子様向け冒険活劇のつもりで作ってるんじゃないかと感じる。
 坂本竜馬もこの映画に登場するのだが、これも結構イメージが違う。もっとも今日の竜馬のイメージは司馬遼太郎が作った部分が大きく、「竜馬がゆく」以前に製作されたこの映画でいたって真面目で正統派(?)な幕末志士になっているのも無理はないが。またこの映画では始まった時点で薩長同盟は事実上成立してるような状況になっており、仲の悪い薩長を竜馬が説き伏せて、というおなじみの展開はまったく出てこない。新東宝の映画を調べてみたら他の映画でも薩・長・土の三藩が最初から連合状態に描かれていたようで、当時はそういう見方が一般に流布していたのかもしれない。

 近藤勇を演じてるのはやはり大スターであった大河内伝次郎だが、どうも古典的な歌舞伎臭さが漂うというか(いわゆる「にらみ」の目になる場面多し)、全体的に演技がオーバー。さすがに貫禄は充分で、ストーリー的には敵役になってるけど、常にフェアプレイ精神旺盛でそれなりにカッコいい。しかし小五郎を銃で撃つ隊士を自ら斬り殺しちゃうのはやりすぎでは(笑)。

 さて、物語は中盤からなぜか京都を離れ、木曽の山中に舞台を移してしまう。小五郎が江戸に向かい、これを新選組が追いかけていくという展開なのだが…なんで木曽に?わざわざ大掛かりなロケもしており(実際に木曽かどうかは不明)、この当時の映画会社は余裕があったなぁと変なところに感心しちゃったりもしたが。
 凄いのはその木曽へ向かう途中、新選組の目を逃れるため小五郎が白髪・白髭の老人に変装するくだりだ。外見を隠す虚無僧ならともかく、今度は怪盗ルパン並み、というより桂ならぬ明智小五郎並みの本格的な変装(笑)。そこまでするかと笑っちゃったぐらい。しかもその変装はすぐに見破られ(というより小五郎自身のミスにより)結局大立ち回りになっちゃうんだから意味がない。

 映画のラストもかなり唐突。木曽福島の山中で小五郎が新選組と大立ち回りをしていると、そこへ薩摩の重臣・有村治佐衛門が藩士たちを率いて駆けつけてきて「坂本竜馬、中岡慎太郎が殺されましたぞ!」といきなりな話を小五郎に告げ、小五郎を逃がして新選組と大チャンバラ。小五郎は馬に乗り、新選組の狙撃をかわして木曽の山道を走り去っていく…というところでいきなり「終」。なんだか乗っていたバスから途中で放り出されたようなエンディングに呆然(笑)。調べた限りでは別に続編があるわけでもないようで、その前に見た「近藤勇 池田屋騒動」ともども、この時代のプログラムピクチャー時代劇ってのは多くがこんな感じだったんだろうかと思ったりもした。(2005/6/8)



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