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「超高速!参勤交代」

2014年・「超高速!参勤交代」製作委員会/松竹
○監督:本木克英○脚本:土橋章宏○撮影:江原祥二○美術:倉田智子○音楽:周防義和
佐々木蔵之助(内藤政醇)、深田恭子(お咲)、伊原剛志(雲隠段蔵)、西村雅彦(相馬兼嗣)、寺脇康文(荒木源八郎)、上地雄輔(秋山平吾)、知念侑季(鈴木吉之丞)、六角精児(今村清右衛門)、柄本時生(増田弘忠)、陣内孝則(松平信祝)、石橋蓮司(松平輝貞)、市川猿之助(徳川吉宗)ほか




  時代劇映画自体、近ごろは存在が珍しい。そういうご時勢のなか、この映画に関しては入りが好調と聞いたし、僕の職場の相手である中学生どもまでがこの映画について「面白そう」と口にしていた。ちょうど中学2年生は江戸幕府の成立について習うころで「徳川家光が参勤交代を制度化」と覚えさせることもあり、この映画について授業でもちょこっとネタにしたら割と反応がよかった。実際に見に行ったのはその後のことだったけど。

 確かにタイトルにインパクトがある。「参勤交代」といえば大勢の大名行列が周囲を土下座させ威圧しながらしずしずと進むイメージがあるが、そこに「超高速」とかぶさるから何やらオカシイ。ネット上で指摘してる人がいて僕も「そういえば」と気付いたが、嘉門達夫の「あったら怖いセレナーデ」の中に「全力疾走する大名行列」というのがあった(笑)。ヒントにしてるかどうかは不明だが。

 物語の主人公は、佐々木蔵之助演じる内藤政醇(まさあつ)なる難しいお名前の殿様。湯長谷藩という小藩の藩主である。その殿様が参勤交代を終えて湯長谷藩にやっと帰着した直後、いきなり江戸へ五日以内に参勤せよとのムチャクチャな命令が届く。この実行不可能な命令は湯長谷藩にあるらしい銀鉱山の利権を狙う幕閣・松平信祝(演:陣内孝則)の策謀があった。この理不尽な要求に対し、政醇と家臣たちは一致団結(?)、この実行不可能な参勤交代を実現させようとするのであった―――ってな、お話である。

 お話はもちろん全くの架空なのだが、調べてみたら湯長谷藩も内藤政醇もレッキとした実在人物(福島県いわき市にあった湯長谷藩を選んだのはやはり震災復興がらみでもあるだろう)。内容的にも参勤交代の実態についてちゃんと史実を調べたうえで脚本が書かれてるな、と思わせるところが多い。もちろんもともと無茶な話なので「遊ぶ」ところは結構遊んじゃってて、全体的にはコメディというか、パロディ気味でもあるのだが。
 タイムリミットまでに間に合うために数々の難関をくぐりぬけて敵中突破――な展開、映画では王道のパターンでもある。というか、一本の映画にまとめるにはちょうどいいのだ。映画にもなってる「80日間世界一周」がそもそもそういう構造の古典だし、時代劇に話を絞れば黒澤明の「隠し砦の三悪人」がある。参勤交代が絡む点では、あれは参勤交代を妨害する側なんで話が逆だけど「十三人の刺客」なんかも作り手の念頭にあった気がする。そういやどっちも最近リメイクしてるな。

 この話のユニークさは小藩を主役にしたことで、やることが「セコい」敵中突破ものになったという点。参勤交代が諸藩の財政を圧迫したことはよく知られるが、湯長谷藩はカネのない小藩だけに実に貧乏くさいやり方で実行不能なミッションに挑まねばならない。単純に出費をケチるだけならそう難しくない気もするが、そこは身分と格式のうるさい江戸時代。最近交代の大名行列というものは身分に見合った格式と規模を整えなくてはならず、そこをどうクリアするかも見せどころだ。
 実際どうだったかは知らないが、この映画では湯長谷から江戸まで、つまりは現在のJR常磐線にほぼ沿ったルートで進み(正確を期せば現在「旧陸前浜街道」と呼ばれている道路)、その途中の高萩宿と取手宿で幕府の役人による行列のチェックが行われることになっており、その二か所だけは人も雇って大名行列としての体裁を整えなくてはならない。それ以外のところは最少人数で街道も通らずに山道をショートカットし出費をおさえる作戦になる。大名行列の人数合わせのために臨時に雇われる浪人がいた、という話は実際にあったようで、劇画「子連れ狼」でもそういう雇われ浪人たち(この映画同様に半ばヤクザ的)が出てきたのを読んだことがある。

 いきなりだが、筆者は実は茨城県の最南部、利根川のほとりの取手市在住である。そのため映画を見始めたら「おお、常磐線沿いだな」と喜び、さらに「高萩宿と取手宿で…」のくだりで、「おお!地元ネタじゃないか!」と喜んじゃったものだ。それが映画の後半、思わぬことになっちゃうのだが…

 最初の難関、高萩宿では少ない人数をごまかすために、一度通り抜けた人たちがこっそり裏から後列に戻ってもう一回通るという、なんだかドリフのコント的な作戦を展開。これ、確かに大受けする場面ではあるのだが、現実的に考えると無理なんじゃ…?
 ともかくそこを突破したら、あとは茨城南部、利根川を渡る取手宿までは人数チェックがないので行列は不要。というわけで殿様と少数のお供だけ、それに加えていきなり現れた怪しげな忍者・雲隠段蔵(このネーミングにニヤニヤできる人は一定の知識があるはず)を道案内に、山中を強行突破するショートカット作戦をとることに。そして途中から殿様だけ単身で行動、宿泊した牛久宿(これも僕が個人的によく知ってるところで…)で、不幸な境遇の遊女・お咲と出会っていつの間にやらラブストーリーまでついてくる。深田恭子もいろんな役をやるようになったなぁ…と思いつつ、こういう映画だからアリだけどこれもまた現実的に考えるとかなりありえないカップルだよな、とツッコんでもしまう。

 行く手を妨害する刺客の襲撃もあって、家臣一行は一度は急流を流されて危機を脱するんだけど、牛久近くであんな急流って、筑波山からでも流れてるのか?と首をかしげるうちに一行は「藤代」に到達。おお、藤代と言えば取手市内、これまた我が家からはさして遠くない。ますます近所に近づいてきたと喜んでたら、そこから隣の取手宿へ進むといきなり急峻な山岳地帯に突入、危険なつり橋までかかる谷川まで出現する。これには地元民としては目をむかざるを得ない(笑)。だって利根川のほとりの、丘や台地レベルしかないようなまったいら地帯だよ、ここ。ストーリーの展開上そうしたんだろうとは察するんだけど、いくらなんでも現実との乖離が激しすぎるのでは…ロケは福井県の山中だそうですがね。

 その後もなんだかんだでピンチをアイデアと人情で乗り切り(「切腹しようとしたら竹光」という場面も時代劇ファンにはちょっと嬉しい)、取手宿から一気にお江戸へ。ここで最後の妨害工作で、大人数が参加する大乱戦が江戸の入り口で展開。ここでチャンチャンバラバラ、大いに盛り上がるのはいいんだけど、その後の感動(?)の「到着」部分は案外アッサリ(事情はあろうが江戸城が城門セットだけなのものなぁ…なんか主人公一行みたいなセコさ)。最後に徳川吉宗が出てきて、実は…な話でもあるんだけど、もそっとうまく話を締めくくれなかったかな、という印象も。
 映画自体があまり金をかけずに(失礼)突破しちゃおうという、この参勤交代一行みたいなアイデア勝負で、僕自身はそれほどウケたわけでもないんだけど、意外に当たったというのは時代劇ファンとしては嬉しくはあった(時代劇であると同時に喜劇なのも貴重)。実際好調だったのでまさかの続編製作fが決定してるんだが、どういう話にする気なのか。当たってパート2作ると資金は豊富になるのに方向性を誤ってコケるという例も邦画では多いんだが、そういうことにならなきゃいいが。(2015/10/24)




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